大阪市立大が生活保護の行政データを分析して、その結果が報道されてました。
この件については、すでにライターのみわよしこさんが記事を書いています。
大阪市:報道発表資料 地域福祉等の向上のための有効性実証検証に関する連携協定における生活保護データの分析結果を発表します
「生活保護目当ての流入者が大阪市を苦しめる」という言説の虚実 | 生活保護のリアル~私たちの明日は? みわよしこ | ダイヤモンド・オンライン
生活保護については以前調べたことがあるので、思うところを少し書いておきます。
データの性格と大阪市の地域特性についてです。
分析では保護の開始理由や廃止理由も分析しています。しかしこれらのデータは住民票登録日や開始日などと違って、かならずしも客観的とは限りません。ケースワーカーの判断に裁量が入る余地があるためです(そういった恣意性が働くこと自体を必ずしも否定するわけではありません)。
とりあえず下は大阪市と名古屋市の生活保護の理由別廃止件数のグラフを上げておきます。こういったグラフは「生活保護動態調査」「福祉行政報告例」「被保護者調査」を用いて、都道府県別・政令市中核市別に作成することができます。開始理由でもそうですが、都市部と地方ではその内訳が大きく異なります。(全2者は9月を調査月としています)
この地域差の問題は、全国レベルの分析を行う際にも注意が必要です。下の図は「世帯主の傷病治癒」を理由とする生活保護の廃止件数です。大阪市という1つの自治体の数字が無視できない大きさになっています。2009、10年は「世帯主の傷病治癒」の廃止件数のうち約67%が大阪市のものです。
このようになる大きな要因としては、日雇い労働者・ホームレスの存在が挙げられます。
ホームレスへの生活保護への適用に関しては「林訴訟」「佐藤訴訟」「山本訴訟」などの裁判や支援運動の結果によって、運用が徐々に改善していきます。しかしそれ以前は、住所不定者には入院中のみ医療扶助単給を認め、退院と同時に保護廃止ということが慣行として行われていました。
統計データからは確かめられませんが、短期間で保護の開始と廃止を繰り返す人が多数存在したと思われます。また廃止の理由も「傷病治癒」「失踪」「その他」などと計上の仕方が時代・地域で異なるということが生じます。
大阪市立大の報告でも保護期間の長期化傾向が指摘されていますが、そもそも90年代以前は、非常に短期間で保護が廃止されるケースが多かったと言えます。それが下の図ですが、かつては半数以上が3か月以内に保護が廃止されていたのです*1。