ぽんの日記

京都に住む大学院生です。研究とは関係ないことも気ままに書いていきます

では、どう監督対象を選定するのか

厚労省が「長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果」を公表した。

 

ヤフーニュースの配信(産経新聞)

 

 それに対する今野晴貴氏のオーサーコメント(抜粋)

ただ、気になるのは重点監督がされている事業所の産業。製造業が24.1%で最も多く、その次が運輸交通業の16%、商業の13.9%と続く。ブラック企業が多いと思われる接客娯楽業は6.1%に過ぎない(接客娯楽業の違法割合はもっとも高く、監督した事業所のうち77.9%に上る。

いずれにせよ、限られた人員で労基署がどこかを重点監督するということは、別のところに穴があくか、職員が過労になるということ。成果を強調することもよいが、人員の拡充もすべきだろう

 

人員の拡充には賛同する。しかし限られた人員で対応しなければならない現状のもと、どう監督対象を絞ればよいのか。

今回「長時間労働が疑われる事業場」として監督の対象となっているのは、時間外労働が月80時間を超えていると思われるすべての事業場である(これまでは月100時間だった→参照)。

 

たとえば、11月に行われている「過重労働解消キャンペーン」では、以下が監督対象となっている。

① 長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場等

労働基準監督署及びハローワークに寄せられた相談等を端緒に、離職率が極端に高いなど若者の「使い捨て」が疑われる企業等

 

後述の理由からここでは2015年11月の数字を確認する(参照)。

業種別に見て最も多いのは、製造業の33.4%。次いで商業の18.3%、その他の事業11.9%となっている。接客娯楽業は6.7%だ。(1ヶ月の監督実施事業場数は5,031)

別に「長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場」に対する2015年4~11月の監督実施状況も公表されている(件数は471件と少ないが)。それによれば運輸交通業19.7%、製造業、その他の事業がそれぞれ15.3%、商業が15.1%だ。接客娯楽業は7%とやはり少ない。

 

ブラック企業が社会問題化して以降、最初の集中的な取り組みは2013年に「若者の『使い捨て』が疑われる企業等」を対象にしたものだと思われる。このときは9月を「過重労働重点監督月間」として5,111件の監督を実施した。

業種別にみると製造業29.4%、商業19.3%、運輸交通業11.2%である。接客娯楽業は7.5%だ。そのうち「離職率」を勘案して監督対象を選定したものは122件と少ないが、その内訳は商業36.1%、その他の事業36.1%、教育・研究業10.7%。接客娯楽業は7.4%となっている。

 

まとめると、残業時間、労災請求、離職率、いずれの指標を取っても接客娯楽業は7%程度となっている。いくら「ブラック企業が多いと思われる接客娯楽業」が少ないと言っても、監督署は一定の判断基準をもとに監督対象を選定してこの結果となっているのである。とくに今年の監督結果で言えば、月80時間超の時間外労働の疑いがあるところはすべて対象となっているのだから、その点に関して偏りはないはずである。

 

もちろん、ブラック企業に限らず全事業場を監督すべきというのもひとつの意見だろう。現状の監督実施率だと、すべての事業場を回るのに20~30年もかかってしまう。人員体制を充実すべきだとは思うが、短期的に実現できる話ではない。

全事業場を監督するのが望ましいというのは、健康な人も健康診断を受診して予防しようとするような感じだろうか。今の実態としては、違法な企業等に対してしか監督できていない。

 

効率性という意味では、規模別の結果に注目したい。

長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果」を見ると、大企業の構成割合が相対的に高い。国内の事業場の数から言えば、中小零細が圧倒的に多いのだが、監督結果は大企業に重点的に監督しているのである。大企業に監督指導に入れば、少ない監督件数でより多くの労働者をカバーできることにつながっているはずである。

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たしかに月80時間超のすべての事業場に監督できているのかは、ちょっと疑わしい気もする。「過労死等に関する実態把握のための社会面の調査研究事業報告書」によれば、「平成26年度で1か月の時間外労働時間が最も長かった正規雇用従業員の時間外労働時間」が80時間超と回答している企業は全体の22.7%。情報通信業の44.4%が最も高く、学術研究・専門・技術サービス業、運輸業・郵便業が続く。

日本全体で約400万事業場くらいあるので2割だと80万、1割でも40万か所くらいにはなる。それに対して重点監督として実施したものは約2万3千件。おそらく疑いのあるところすべてを回れていないと思われる。

 

 

なお余談として、2013年の「若者の『使い捨て』が疑われる企業等」への重点監督では「監督指導の結果、法違反の是正が図られない場合は、是正が認められるまで、ハローワークにおける職業紹介の対象としない」となっている。

ハローワークが求人を不受理にする制度は、新卒求人に対しては2016年3月1日から、すべての求人に対しては2018年1月1日から始まる予定(職安法改正が成立)だが、その先駆けと言えるだろう。

 

求人不受理のしくみについては、以下の記事がわかりやすかった。

www.mesoscopical.com

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