松永伸太朗『アニメーターの社会学』三重大学出版会を読了しました。
アニメーターの待遇が悪いことは色々報じられたりしていますし、実際離職率も高いようですが、それでもアニメーターを続ける人がいるのも事実。
では、そうした人たちはなぜ低い賃金を受け入れて働き続ける選択をするのか。それが本書のテーマです。
こういう分野を労働社会学と言うんですね。上記の問いに本書はエスノメソドロジーの手法で接近していきます。これはインタビューで語られた内容をそのまま受け取るのではなくて、どのように語られたかという手続的側面を重視する方法だそうです。具体的にどのような方法なのかは、本書を読んでもらった方が早いでしょう。
単にインタビューをしていくのであれば、別のライターなどが書かれているかもしれませんが、本書はエスノメソドロジーとして分析していく。学問的に分析するということはこういうことなのだと感心します。その結果、〈やりがい〉の搾取という概念で説明してしまうのではなく、アニメーターが持っている規範を解明し、それが低賃金を受け入れる構造を生んでいるのだとします。
「あとがき」に書かれた謝辞もいい。
本書はもとは修士論文なのですが、それが日本修士論文賞を受賞し、出版に至った経緯が書かれています。指導教員の先生方や大学院の同期の方への感謝が率直に記されている気がします。
私よりは少し年上ですが、同世代の人にこうした修士論文を書き上げ、世に問うている人がいるというのは刺激を受けます。