裁量労働制の働く人の労働時間のほうが、一般の労働者よりも短いデータについて、疑義が続出しています。
詳しくは上西教授の記事を読んでください。
ここで問題になっているデータは「平成25年度労働時間等総合実態調査結果」です。
調査は、「全国の労働基準監督署の労働基準監督官が事業場を訪問する方法により実施」されたもの。このような方法は「調査的監督」と呼ばれたりします。
監督官はこういう実態調査もやっているのか、と思いますが、「調査的監督」の名の通り、監督でもあるんですよね。実態調査と監督を同時に行って業務を効率化しているということでしょうか。
古くなりますが、1974年の労働省の通達「昭和49年度一せい監督及び調査的監督の実施について」*1では、調査的監督について以下のように説明しています。
調査的監督
遵法状況,労働の態様等の実情についての把握が行政推進上必要と思われる対象であって,その対象が全国的に散在していること等によりその把握が不十分なものについて行う。
調査的監督はこれまでも繰り返し実施されています。1968年の労働省労働基準局『商店,サービス関係業種労働時間実態調査結果報告書』も、労働時間に関する調査的監督です。報告書の説明によると「調査対象事業場所轄労働基準局又は労働基準監督署職員の実地調査によって行われたものであり,同時に対象事業場に対して一せい監督が行われた」とあります。やはり実態調査と労基署の臨検監督を同時に実施しているという形のようです。
監督と調査を同時に実施するのって、他の行政分野でもあるんでしょうか。たとえば税の申告漏れがないか査察するのと並行して、給与の実態調査をするみたいな(?)。
ところで、労基署の業務を解説した本などを読むと、監督は定期監督、申告監督、再監督という分類で説明されることが多いですね。この区分だと調査的監督は定期監督に分類されます。
これってちょっと厄介だったりするんですよね。定期監督件数の中に調査的監督の件数も含まれて報告されてしまうから。
一般に定期監督は、違反の疑いのある事業場を選定して監督を実施します。一方で調査的監督の場合は、実態調査・実情把握が目的なので、業種や規模ごとに無作為抽出で行われることが多い。そうすると選定方法や目的が違うものを同じ件数として報告することになります。統計の感覚としてはちょっと気持ち悪いですね。
先ほど紹介した『商店,サービス関係業種労働時間実態調査結果報告書』は1967年の2月1日~20日の間に調査的監督が行われています。調査業種は商業、映画演劇業、保健衛生業、接客娯楽業です。
この前後の年の定期監督件数は以下のようになっています。
当時、これらの業種は定期監督件数自体が少ないので、年による変動が大きいですね。1か月の間に実施された調査的監督の件数を、一般的な定期監督の件数に含めてしまうのは不適切な感じがします。
ちなみに、労基署は調査的監督以外にも、統計法に基づく一般の統計調査にもかつては関わっていました。賃金構造基本統計調査(賃金センサス)、屋外労働者職種別賃金調査、就労条件総合調査(前身は賃金労働時間制度等総合調査)、家内労働実態調査などです。
この場合は、監督官ではなく統計調査員が調査票を配布して回収するという形になります。なので監督と並行して行われたわけではないですが、企業からすれば労基署の職員がやってくるという点では同じです。
就労条件総合調査の報告書を見ると、2007年までは調査員が企業を訪問して記入依頼をし、回収していたようです*2。これが2008年には厚労省から直接企業に調査票が郵送される方法に変わります。オンラインの回答が始まるのは2015年です。
有効回答率は訪問で調査票を配布していたころのほうが高かったと思われます。2007年までの有効回答率は約8割でしたが、2008年以降は7割ほどになっています。それでも十分高い数字と言えるかもしれませんが。