ぽんの日記

京都に住む大学院生です。研究とは関係ないことも気ままに書いていきます。twitter:のゆたの(@noyutano) https://twitter.com/noyutano

裁量労働制の論点整理

裁量労働制のデータを巡って国会が紛糾しています。

裁量労働制の労働者については単に1日の労働時間を尋ねていたのに、一般の労働者には1か月のうち「最長の」労働時間を訊いて比較。こうした不適切な比較に気づかず、調べてみたら異常値が117件見つかったり。なかなか調査票を公表しないと思ったら、黒塗りでなにやら分からなかったり。

 

あまりにデータが杜撰だったために、裁量労働制について何が問題になっているのかが分からなくなってきている気がします。

 

そもそも今回の労基法改正法案には、残業時間の上限規制や同一労働同一賃金の規定が盛り込まれる一方で、高度プロフェッショナル制度(高プロ)の創設や裁量労働制の拡大も含まれています。

そして高プロや裁量労働制の拡大については野党や労働側が強く反発しているわけです。

 

とりあえず話を裁量労働制に絞ります。

 

裁量労働制を拡大するとどうなるのか。

政府・与党は生産性が高まって、労働時間の短縮にもつながるというようなことを言います。

一方野党は、定額働かせ放題が可能になり、過労死やブラック企業が増える、残業代がゼロになって賃金が減る、と批判しています。

 

ここで裁量労働制への批判は大きく2タイプ存在するように思います。

ひとつは裁量労働制を適用される労働者は本当に裁量を持っているのか。裁量労働制という制度が悪用されて、裁量のない労働者にまで適用されてしまうのではないかという点。

もうひとつは、仮に正しく裁量労働制が適用されたとしても、それによって労働時間が増えてしまうのではないか。過労死等が起きやすくなってしまうのではないか、という点。

 

前者については対象労働者を法的にどう絞り込むかというのが論点になります。しかしながら現行の裁量労働制は、雇用形態や年収等の用件はなく、対象者を制限できているか疑問があります。これについては非正規雇用や最低賃金で働く労働者にも裁量労働制が適用可能だという答弁書が閣議決定までされています。また昨年末には、野村不動産で違法に裁量労働制を適用していたことが発覚したばかりです。

www.bengo4.com

 

 後者の労働時間の問題については、佐々木弁護士の以下の解説が非常に分かりやすいです。すなわち、裁量労働制は「仕事のやり方」については裁量が与えられるけれども、「仕事の量」については裁量が与えられません。そして企業側からすれば、どれだけたくさん仕事を与えても払う賃金は一定です。「定額働かせ放題」と批判されているのは、そうした理由からです。

news.yahoo.co.jp

 

いま国会でデータが杜撰だったと問題になっているのは、後者の労働時間に関することです。

裁量労働制は「定額働かせ放題」の手段として使われる可能性がある。でもそれは可能性の話であって、実態はどうなっているんだ、と。

 

それで労働時間のデータの比較がなされていたわけです。

そのデータも2つあって、ひとつはJILPTという厚労省所管の独立行政法人が実施した調査。もうひとつは全国の労働基準監督官が臨検監督を兼ねて実施した調査

 

調査シリーズ No.125 裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果労働者調査結果|労働政策研究・研修機構(JILPT)

平成25年度労働時間等総合実態調査(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/shiryo2-1_1.pdf

 

JILPTの調査だと一般労働者よりも裁量労働制の労働者のほうが労働時間が長いという結果になっています。一方、監督官の実施した調査だと、「平均で比べれば」一般労働者の労働時間のほうが長いというデータが示されていたわけです。

 

ところが前述したように、監督官の調査は明らかに不適切な箇所が続々と見つかり、政府・与党が主張していた「裁量労働制の労働時間が短い」という論拠が崩れてしまいました。

 

 

さて、話を戻すのですが、裁量労働制の拡大に反対する理由には大きく2タイプあると書きました。対象となる労働者の限定が不十分だというものと、制度が適用されると長時間労働が誘発されてしまうというものです。

そして後者の問題について労働時間のデータを用いて議論してきたわけですが、裁量労働を適用すると長時間労働になるということを実証するには、制度導入の前後で労働時間がどう変わったかというデータが本来必要なはずです。

 

しかしそれを調べるには、労働者の追跡調査をして、導入前後の変化を調べる必要があります。そのような調査はこれまでなされていないため、それで一般労働者と裁量労働制の労働者を比較していたのでした。

 

けれども一般の労働者と裁量労働制の労働者では、その業務内容が違うはずです。両者を比較するだけでは、労働時間が長くなるのは仕事が違うせいなのか、それとも制度に起因してしまう問題なのかは分かりません。

だから「精査」したデータが仮に出てきたとしても、それは「裁量労働制が労働時間に与える影響」を示すデータではありません。

 

この辺を野党はどう戦略をとるのか。対象労働者をもっと限定させるとか、業務量を制限する、強力な健康確保措置を取らせるといった方向の規制を提案するとか。

正直、データの杜撰さだけで正面突破するのは、安倍政権のこれまでを見てると危うい。