ぽんの日記

京都に住む大学院生です。twitter:のゆたの(@noyutano) https://twitter.com/noyutano

裁量労働制はこんな働き方――各種調査から

法制度の説明とか、あんまよく分からんので、色々な調査から裁量労働制の実際の働き方について、まとめてみた。

 

取り上げたのは、どんな労働者が対象になっているか(業務や資格)、年収はどの程度か、裁量はどの程度か(労働時間や出退勤の管理)、長時間労働なのか、休日や深夜業の手当は、といった点。

 

参考にした調査は以下の通り。

・2015年に情報労連がITエンジニアを対象に実施した調査( 「残業」歯止めに労組の役割発揮が必要 - 特集 - 情報労連リポート

・JILPTが2013年に実施した調査。調査シリーズNo.124とNo.125があるので以下では「JILPT(124)」「JILPT(125)」とそれぞれ表記しています(http://www.jil.go.jp/institute/research/2014/documents/0124_01.pdfhttp://www.jil.go.jp/institute/research/2014/documents/0125_01.pdf

・東京労働局が2001年と2004年に実施した調査。以下ではそれぞれ東京労働局[2001]、東京労働局[2004]と表記。(web上で公開されていないようですが、『労政時報』3535号、2002年に「専門業務型裁量労働制採用事業場の運用実態調査」が、『労経ファイル』396号、2005年に「裁量労働制の導入状況と運用の実態」が紹介されています。)

 

どんな労働者が対象になっているか(業務や資格)

 下の2つは裁量労働制を導入している企業の決議届、協定届を東京労働局が集計したものです(東京労働局[2004])。上側が企画業務型、下が専門業務型の裁量労働制です。

企画業務型だとIT関連、金融・広告業が多くなっています。

専門業務型だと「その他の事業」が最も多く、教育研究業、商業が続きます。教育研究業だと「情報処理システム」の分析設計業務が多く、商業は取材・編集の業務が多くなっています。製造業だと新商品の開発や研究業務ですね。

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東京労働局[2001]の調査だと、資格要件についても尋ねています。専門業務型の裁量労働制は法令で対象業務が定められていますが、それ以外に会社が資格要件を設けているのかということだと思います。

下の表のように、社内資格等で要件を定めているところは少なく、「要件なし」が最多となっています。

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年収はどの程度か

年収についてざっくり見てみます。

下の図はJILPT(125)に掲載されているものです。新しく導入が検討されている「高度プロフェッショナル制度」と違い、裁量労働制に年収要件等はありません。傾向的には一般の労働者よりも年収は高めですが、「300万円未満」の労働者も存在しています。

専門業務型よりは企画業務型のほうが年収は高く分布しています。いま国会で議論されている裁量労働制は、この企画業務型の対象者を増やそうというものです。

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また、今野氏がハローワークの求人票で裁量労働制と記載されているものを分析しています。「基本給10万円台が67%、25万円未満が90%」となっており、決して高くない賃金水準だと言えます。 news.yahoo.co.jp

 

裁量はどの程度か(労働時間や出退勤の管理)

 裁量労働と呼ばれる以上、働き方には裁量があるはずです。法令上は労働時間の配分や業務の遂行方法について、裁量があるということになっています。

 

以下の2つのグラフはJILPT(124)のものです。「不明」の回答が多いのも気になりますが、「一律の出退勤時刻がある」が2~3割にのぼっています。これは制度的には不適切な運用実態だと言えるでしょう。

仕事の指示については、基本的事項を指示する形が最も多くなっています。

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裁量労働制は時間配分や仕事の進め方には裁量がありますが、業務量自体に対しての裁量はありません。情報労連の調査結果にはそうした実態が表れています。

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 長時間労働なのか

通常の労働者と比較すると、裁量労働制の労働者のほうが長時間労働になる傾向があります。次のグラフは情報労連のもの。

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JILPT(125)を見ると、実労働時間の分布は専門業務型>企画業務型>通常の労働者の順で長くなっています。賃金の場合は企画業務型>専門業務型でしたので、裁量労働制の労働者で比べると専門業務型は労働時間が長くなりがちなのに、賃金も低いということになります。

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東京労働局[2004]では、みなし労働時間と在社時間の関係を散布図にしています(以下の図は企画業務型についてのもの)。

裁量労働制は「何時間働いたとしても一定時間働いたものとみなす」制度です。ですからみなし労働時間を超えて働く分は、労働者にとってはメリットがありません。

しかし下の図を見ると、みなし時間>労働時間となっている者はごくわずかです。

 

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休日や深夜業の手当は?

 裁量労働制であっても、深夜勤務をしたり法定休日労働をした場合には、割増賃金を支払う必要があります。

ただ、深夜業や休日労働についてはあまり実態調査がなされていないようです。

 

東京労働局[2001]は深夜労働や休日労働の労働時間の把握状況を尋ねています。深夜労働を把握していないとする事業場が2割を超えていますし、把握方法も「労働者の自己申告」が多くなっています。これだけで直ちに違法とは言えませんが、不適切な運用がなされている可能性が高いのではないでしょうか。

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裁量労働制の対象業務以外の業務を行った場合は、どういう扱いになるのか。

東京労働局[2004]は専門業務型の裁量労働制について、その取扱いを訊いています。最も多いのは「みなし労働時間を1日の労働時間としている」というもの。

え? 対象業務外の仕事なのに、なんで裁量労働と同じ扱いをしてるんだ?

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そもそもの問題として

裁量労働制の働き方がそんなものなのかを、大まかに見てきました。

不適切な適用(もしくは制度の悪用)の実態も少なからず垣間見れます。

 

それと、そうした不適切な運用方法にもかかわらず、調査に正直に答えているというのもポイントだと思います。もしかしたら不適切だと知らずに制度を導入しているところも多いのかもしれません。

裏を返すと、制度を悪用する気満々の会社は、調査に答えないか、あるいはウソを報告している可能性があります。そう考えると、裁量労働制の不適切運用はもっと多いと見ても良いでしょう。