厚労省が実施した「労働時間等総合実態調査」の杜撰さが取り上げられてますね。
そもそもこれを「調査」と呼んで良いのだろうかというのが疑問。もちろん「労働時間等総合実態調査」として報告されているわけだけれども、もとは「調査的監督」として実施されているものですから。
調査的として実施したものを、後で調査と呼称しているのが、違和感を覚えるというか、気味の悪さを感じる。
「労働時間等総合実態調査」の実施通達は情報公開推進局で、2005年度のものが公開されています。監督指導業務の運営に当たって留意すべき事項について(平成17年2月15日基発第0215001号)の中の4の(4)で、「労働時間等の調査的監督」について触れられています。
4 労働時間に係る監督指導について
(4) 労働時間等の調査的監督
労働時間の調査的監督については、今後の労働時間法制の検討等のために、時間外・休日労働の状況、割増賃金率の状況、裁量労働制の実態等について、別途指示するところにより、 4月から7月の間に実施すること。
具体的な進め方については、別途労働時間等に関する調査的監督について(平成17年3月11日基発第0311008号)で指示されています。
しかしどちらの通達でも「調査的監督」と称しており、「労働時間等総合実態調査」とは書かれていないわけです。
労働基準法上では、監督官の調査権限は101条と104条の2に規定があります。
第百一条 労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる。○2 前項の場合において、労働基準監督官は、その身分を証明する証票を携帯しなければならない。
101条は臨検について書かれたもの。帳簿・書類の提出を求めたり、尋問を行うことができると。
104条の2はもっと一般的に報告や出頭を命じるものです。
第百四条の二 行政官庁は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、使用者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。○2 労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、使用者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。
101条は個別の臨検監督の際の権限ですが、104条の2は使用者への個別の命令によらずに報告義務を課す場合などの根拠規定となるようです。たとえば事業を開始した場合の報告などです(施行規則第57条)。
「調査的監督」と称しているのは、この根拠規定と関係があるのでしょうか。臨検監督は101条の規定に基づいて行われるわけですが、「調査」を実施する場合にこの条文に基づいて行ってよいのか。監督官の調査を拒否したり、虚偽の報告をした場合には罰則があるわけですからね。統計法だと罰則は基幹統計に限られているはずですが、その辺の関係はどうなんでしょう。
あと、「調査的監督」も監督であるため、定期監督の件数に含まれてしまうという問題も。定期監督等の実施状況は、毎年労働基準監督年報で公表されているのですが、「調査的監督」として実施した監督も、この「定期監督等」の件数に入ってしまいます*1。
監督年報のデータについては、以前別記事で取り上げたことがありましたが、「調査的監督」が結構いい加減だったことを考えると……
大きな傾向としては変わらないかもしれませんが、個人的には色々と使用したデータであるだけに。
*1:電話して確認しました