普通、法定労働時間を超えて働かせるためには36協定の締結が必要となります。
しかし災害等の緊急の場合には、残業や休日労働が必要になっても36協定を結ぶヒマがないこともあるでしょう。そこで労基法33条では、そのような場合に限って時間外労働を命令できる旨を定めています。
法33条1項・則13条(災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等)
災害その他避けることのできない事由によつて、臨時の必要がある場合においては、使用者は、行政官庁の許可を受けて、その必要の限度において第三十二条から前条まで若しくは第四十条の労働時間を延長し、又は第三十五条の休日に労働させることができる。ただし、事態急迫のために行政官庁の許可を受ける暇がない場合においては、事後に遅滞なく届け出なければならない。
33条の条文は以上のようになります。
36協定と違い、33条は臨時の場合ということになります。要件としても、36条は労使協定を届ければよいですが、33条による場合は労基署長の許可が必要になります。
この臨時の場合というのは、単なる業務の繁忙や定期的な機械の修理・手入れは認められません。恒常的に時間外労働が必要となる場合は36協定を結んでください。
事前に許可を得ることが原則ですが、それも間に合わないような「事態急迫」の場合は事後的な許可でも構いません。
で、事後に届出をしたけれど許可が「不適当」と判断されたときは、時間外労働させた分だけ代休付与を命じられます(法33条第2項)。命じられうる、と書いたほうが正確ですかね。
本条の違反についてですが、そもそも許可を得ずに時間外労働をさせた場合は32条違反となります。36協定を結ばずに時間外労働させるのと同じです。
事後の届出を怠った場合は30万円以下の罰金。代休付与命令に従わなかった場合は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金となります。
許可・命令件数
前述したように、33条によって時間外労働を命じるためには、労基署長の許可が必要です。また「ただし書」によって事後の許可を求めたが、それが認められなかったときは労基署長は代休付与命令を出すことだできます。
こうした許可件数や代休付与命令の件数は、労働基準監督年報から把握することが可能です。
まず許可件数の推移をグラフにしたのが以下の図です。
もうこのグラフをどう説明したらよいのかわからない……
ただし書、つまり事後の届出による許可件数が判明するのは1963年分までです。それ以降は年報に記載されなくなりました。
1年だけ突出しているのは1961年です。この年だけ5万件近くあります。なぜこの年だけ多いかわかりません。もちろんこの時だけ災害が多発して、以降は災害が発生しなくなったなんてことはなく、むしろ1961年のほうが大きな自然災害は起きていないのではないかと。
なにがあったんだろうか。
1964年以降について再掲したのが下図です。
不許可の件数と代休付与命令の件数についてもグラフを作ってみました。
直接不許可の件数が記載されているわけではないので、申請件数ー許可件数を不許可の件数としました。
また命令件数が年報に記載されるようになるのは1964年以降なので、グラフはそれに合わせています。
なんというか……これもまた説明しづらいものがある。
まず不許可件数がマイナスになっている年があります。つまり申請件数より許可件数が多いということですね。申請してないのに許可が下りることなんてあるのか……。
申請してから許可がなされるまでの期間に年をまたいでしまうパターンなどはありうるかもしれません。ただ、グラフでは割愛しましたが、1954年の「ただし書」の「不許可」はマイナス3,983件、55年は同マイナス13,973件、60年同マイナス1,346件、61年同マイナス32,626件などと大幅なマイナスとなっています。
もう誤植じゃないかと疑いたくなります。
1965~68年、72年、75年、77~78年については不許可件数よりも代休付与命令のほうが多くなっています。これも理由としては前記と同様、許可時と命令時で時期的にズレているからなのでしょうか。
そして代休付与命令が1982年に2件出されたのを最後に、ずっと0件が続いていること。
件数的には事後の届出のほうが多いと思われますので、代休付与を命じることができるケースもそれなりにあるとは思うのですが。33条の規定を悪用するような会社はほとんどなくなっているということなのか。
直近だと2011年と2016年に「不許可」が46件ずつで、ほかの年より多くなっています。もう代休付与命令が出されることはなくなってしまったのでしょうか。