ぽんの日記

京都に住む大学院生です。研究とは関係ないことも気ままに書いていきます。twitter:のゆたの(@noyutano) https://twitter.com/noyutano

久本憲夫『新・正社員論』

副題は「共稼ぎ正社員モデル」。

「共働き」ではなく「共稼ぎ」としているのは、家事や育児も責任を伴う仕事なわけだから、家庭外で働いていなかったとしても「労働」はしている、という考え方をしているため。

 

いろいろ考える材料は提供してくれているので、本筋からずれることも含めて、メモしておく。

 

 

残業しない正社員は少なくない

残業や転勤をしない正社員も実際には少なくない。しかしマスコミの伝える正社員像は画一的になってないかとの批判。

その指摘にはうなずく点も多い。正社員・非正社員の大きな二分法はわかりやすいけれど、正社員のなかにも多様性がある。この辺は『正社員ルネサンス』からの主張。

 

ただ、従来の研究・統計で不払い残業が過大評価されてきた可能性を指摘した箇所。ここはどうなんだろう。週20時間残業する男性正社員は5.3%しかいないのに、週60時間以上働いているのは23.1%いるというデータ。労働時間ではなく(休憩を含めた)拘束時間を答えているのではないか、としてるんだけど、完全には腑に落ちない。

 

引用されてるのはJILPTの調査シリーズ。

調査シリーズ No.15 就業形態の多様化の中での日本人の働き方 ―日本人の働き方調査(第1回)―|労働政策研究・研修機構(JILPT)

 

調査票だと「ふだん1週間に合計何時間仕事をしますか。(残業時間を含みます)」「そのうち残業時間はどれくらいですか」となっている。

持ち帰り残業とか休日労働がちゃんと把握されてるのかどうかのほうが気になる。

 

氏の言う休憩を含めた時間を実労働時間として答えている可能性も否定はできない。休憩というのは、これまでの調査・研究でもあまり着目されてこなかった部分かもしれない。

社会生活基本調査の調査票B*1で詳細行動分類で平均行動時間、行動者率が出てるけど、男性の正規の職員・従業員でみると「仕事中の休憩」が10分とかになっている。行動者率も23.3%と低い。(平成28年社会生活基本調査)

 

もし実際に休憩がそれだけしか取れてなかったとしたら、労基法34条違反となるけれど、定期監督での34条の違反率はそんなに高くはない*2

社会生活基本調査で算出した労働時間は労働力調査とそれほど乖離してないけれど、実は休憩時間が十分に反映されてないのではないかというのは、考えるべき論点かもしれない*3

 

 

イグゼンプション

管理監督者裁量労働制は年収要件がない。後者はもとより、前者も判例や行政解釈で年収が考慮されているだけ。法律に明文で書かれていない。だから低賃金専門職や低賃金管理職が生まれると批判。

 

日本型雇用の現状を考えると、職務を記述して限定するより、年収要件にしたほうが良いというのは、一定、理があると思う。もちろんちゃんと年収要件を定め、健康確保措置も設けないと、件の高プロのような批判は免れないけれど。

 

氏の主張では、

賃金構造基本統計調査の「正規の職員・従業員」の月収の12倍+前年の賞与を年収とみなし、その平均の2倍~3倍の年収を労働時間規制の適用除外とするのである。

 とある。

2~3倍というのは幅を持たせた書き方だと思うが、前段の部分は納得する。高プロの条文だと「毎月勤労統計」になっていて、この調査だと雇用形態別の数字を出せないから。

最新の平成29年の数字だと

 正社員計:決まって支給する現金給与353.2千円、年間賞与その他1036.1千円

 正社員かつ雇用期間の定め無:それぞれ355.2千円、1053.1千円

これで年収を計算すると、それぞれ5274.5千円、5315.5千円。

仮に2倍だとしても1千万は超す。3倍なら1500万がラインとなる。

 

 

従業員代表

補論だけど、ここが一番面白く読めたかな。

従業員代表の重要性が増しているのに、その実質化が図られてない現状を問題視している。複数代表、周知義務、従業員側からの発議権などを提案。

こういう議論はもっと盛り上がっていい気がする。

 

 

その他細かい点

期限の定めのない雇用

「期限の定め……」という表現がしばしば登場する。法令や統計調査の用語だと、期限じゃなく期間が一般的に使われてるはず。

 

25頁注15「妻が正社員(正規の職員・従業員)約4,144万人のうち……」

女性の正社員が4千万人もいるとかありえない。出所の「平成22年国勢調査」に当たったら「4,143,504」だから約414万人。桁をひとつ間違えたのか。

 

141頁「事故の出退勤を自ら決定する権限があること」

自己だよね。

 

142頁「管理監督者に関する実態調査報告書」

管理監督者に関する実態調査報告書」ってのが出てくるんだけど、出所がわからない。いつだれがどこに報告した調査なのか。

 

214頁注13「ここでは取り上げなかった論点も存在する。4つあげて……」

4つ? 3つしか挙がってないけど。

 

 

 

 

 

 

 

*1:アフターコード方式。選択式ではなく、回答者に行動を記録してもらったものを後から分類する

*2:2016年で約1.48%

*3:毎月勤労統計調査が事業所調査であるため不払い残業時間が把握できないと考えられるため、世帯調査である労働力調査や社会生活基本調査がそれを含めた実労働時間の把握によく使われる。しかし世帯調査でも回答者に誤認識の問題が発生しうる。例の労働時間等総合実態調査なら、監督官が調査しているわけだから、休憩を含めずかつ不払い残業休日労働も含めた時間外労働の実態を把握できているかもしれない。信頼性の問題もあるが、「一般的な者」「最長の者」というカテゴリーで集計してるのがほかの調査と違う。男性正社員みたいな区分で比較できない。後で確認してみようと思うが。