生活保護を受けようと福祉事務所の窓口に行ったのに、申請させてもらえず門前払いされる。こういうのは「水際作戦」と呼ばれます。
この水際作戦をデータで可視化できるか、というのが今日の話題。
申請率という指標
生活保護を受給するまでの流れは、申請→資力調査(ミーンズテスト)→保護決定というプロセスとなっていて、申請自体は誰でも行うことができます。保護を受ける必要がないくらい収入や財産がある場合は調査のうえで申請却下となるのであって、申請すること自体は権利として保障されています。
つまり申請を受け付けずに窓口で追い返すという行為は、違法行為だということです。
過去の悪名高い例で言えば、北九州市の事例がありました。
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このような水際作戦の一端を明らかにする指標として、「申請率」というものが使われることがあります。
生活困窮者が福祉事務所の窓口を訪れて生活相談をします。困窮者に生活保護を利用する意向があれば、相談→生活保護申請の流れになります。窓口を訪れる人はそもそも生活に困っている人が多いわけですから、多くの場合は相談→申請の流れになるかと思います。
しかし水際作戦が行われている場合には、申請に至らず相談だけで済まされてしまうことになります。
申請率というのは、相談件数のうち申請に至った人の割合*1を指します。
全国紙の報道では、2008年7月22日の朝日新聞が厚労省に情報公開請求をして、全国の市・特別区の申請率を報じています。
申請率は05年度まで、基となる相談数の集計方法が市区の福祉事務所によってまちまちだった。06年度からは、相談に来た世帯の数を基に統一され、申請率が正確に出るようになった。集計方法を誤り、再集計不能の京都市を除く全市区分を朝日新聞社が分析した。
06年度は34万8276世帯が相談に訪れ、うち15万5766世帯が申請。申請率は全国平均で44・7%だった。政令指定市は41・2%、それ以外は46・7%で、都市部の方が低い傾向にあった。
大阪市の申請率の動向
私は過去に大阪市の生活保護の動向について調べてことがあり、そのときに申請率も扱ったことがあるので、それを載せておこうと思います。
大阪市の生活保護に関する統計は、大阪市統計書や福祉事業統計集に掲載されているかと思います。ただ相談件数については統計書に載っておらず、直接大阪市に尋ねたら回答してくれました。
先の朝日新聞でもそうですが、普通は「申請件数÷相談件数」で申請率を計算すると思います。
しかし大阪市の過去のデータだと、申請件数が相談件数を上回っている年がありました*2。不自然に思ったので市の職員に尋ねてみたところ、「相談件数」とは「各福祉事務所において生活保護の制度説明のみの方や他法・他施策、資産、その他の能力の活用などで保護申請に至らなかった件数」を指しているとのことでした。
つまり相談に訪れて保護の申請をした場合は「相談件数」には含まれていないのですね。
そういうわけで上記グラフでは申請率を「申請件数÷(相談件数+申請件数)」で計算しています。
で、上記計算方法で数字を出すと、大阪市の2006年度の申請率は26.4%になってしまいます。
実は先ほど引用した朝日新聞の記事では、06年度指定市で最も低かったのは北九州市の30.6%ってなってるんです。大阪市は当然政令指定都市のはずですから、申請率が最低だったのは北九州市ではなく大阪市だった可能性があります。
大阪市だけ定義が違うというのは「まさか」という気持ちがあるんですが、実際のところどうなんでしょう。
ちなみに大阪市の情報公開制度は、大阪市民に限らずだれでも請求することができます。請求はHPからでもできます。前述のグラフのデータは2012年度分までしかありませんが、気になる人はどなたかどうぞ。
取り下げ率
もうひとつ。取り下げ、却下の割合も載せておきます。
取り下げというのは、生活保護を申請した後で、申請者の側から申請を辞退したものになります。申請後に経済状況が好転したから取り下げたというケースなら問題ないかもしれませんが、過去には申請を辞退するよう強要したという事例もありました。そのため申請取り下げの件数が増えた理由については疑ってかかる必要があります。
却下というのは資力調査を経て却下になったものです。
グラフの「取り下げ率」、「却下率」は取り下げ件数、却下件数が申請件数に占める割合(%)です。
取り下げ率が08年度ごろから増加に転じているのが気になります。この年はリーマンショックという大きな経済的要因もありますが、水際作戦が批判され申請率が増加しているのもこのころです。
水際作戦がしにくくなったかわりに、その後の申請辞退強要が増えたんじゃないか。ちょっとそんな疑いも持ってしまうわけです。