ぽんの日記

京都に住む大学院生です。twitter:のゆたの(@noyutano) https://twitter.com/noyutano

家内労働監督

 

家内労働監督件数の推移です。

家内労働法も労働基準監督官が管轄するので、その実施状況が「労働基準監督年報」に記載されています。

通常の定期監督と家内労働監督は別建てで集計されています。

 

 

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家内労働監督のピークは1982年となります。

家内労働者数自体は家内労働法成立以後、ほぼ一貫して減少傾向だったはずですから、その趨勢とは少しばかりズレがあります。

 

かつては「家内労働旬間」というのが設けられ、その期間中に集中して監督が行われていました。

……毎年5月21日から31日までを家内労働旬間と定めて集中的に家内労働法の監督指導を実施してきたが、2000年に家内労働旬間は廃止されることになった。*1

家内労働旬間は2000年に廃止されたとのことですが、直ちに監督件数が急減したというわけではなさそうです。

2007年以降は年間100件を切るようになっていましたが、2015年は170件と増えています。

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ただし2001年と2002年の「定期監督等実施状況」と「再監督実施状況」は全く同一の数字になっています。もちろん、可能性としては完全にないとは言い切れませんが、業種別の内訳や違反事項に至るまですべて同じデータとなっています。おそらく厚労省のデータミスでしょう。

「申告処理実施状況」は更新されているのに、なんでこんな間違いを犯したのでしょう。

 

続いて定期監督での違反率(%)です。

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最も多いのは3条の家内労働手帳、その次は27条の帳簿の備付が続いていましたが、ここ2年は14条の最低工賃違反が上回ってます。最低工賃の違反率は2015年22.4%、2016年29%で、6条の工賃支払の違反もそれぞれ12.4%、18.8%と高くなっています。

先ほどの監督件数もそうでしたが、2015年になって監督指導の方針が改まったのかもしれません。

 

 

 

条文について軽く説明しておきます。

まず3条は契約内容を文書で明らかにしておくために、家内労働手帳の交付を義務付けたものです。記入しなければならないのは、業務の内容、工賃の単価、工賃の支払期日などです。労働基準法でいえば15条に対応する部分です。

 

6条は労基法でいえば24条の賃金の支払に当たる部分です。

家内労働法では①通貨払い②全額払い③一定期限払いの原則があります。労基法との違いは直接払いの原則は規定していない点です。家内労働の場合には、委託者と家内労働者との間に代理人やグループリーダーが入る場合が少なくないからだとされています。

 

14条は最低工賃額以上の工賃の支払いを義務付けたものです。最低工賃は一定地域内の一定業務ごとに決定されますが、そもそも最低工賃が決定されていなければその適用を受けることができません。

高野前掲書から引用しますが、

2005年2月の時点では……最低工賃の適用対象となる家内労働者数は10万8722人で、これは家内労働者総数の50.2%であり、同じく適用対象となる委託者数は9788人で、これは委託者総数の62.7%を占めている。*2

すべての家内労働者が最低工賃で守られているわけではありません。前述した家内労働法14条の違反率も、その点に留意してみる必要があるでしょう。

 

17条は安全基準について規定したものですが、2007年以降違反ゼロが続いています(もちろん、監督対象となった営業所で見つからなかったという意味です)。

27条は「委託者は、厚生労働省令で定めるところにより、委託に係る家内労働者の氏名、当該家内労働者に支払う工賃の額その他の事項を記入した帳簿」を備え付けなければいけないというものです。労基法だと労働者名簿や賃金台帳にあたる部分かと思います。

 

家内労働手帳や帳簿の違反率が高いというのは、一般の定期監督と異なる家内労働監督の特徴と言えそうです。安全衛生の違反が非常に少ないというのもはっきりした違いです。

 

 

 

なお、そのほかの家内労働法の規定としては4条の就業時間の規制や5条の委託打ち切りの予告、26条の委託状況届などが挙げられます。

 

4条第1項は、長時間労働になるような委託をしたり、あるいはそのような委託を引き受けたりしないようにと努力義務を定めています。4条第2項では、都道府県労働局長が委託者や家内労働者に対して労働時間の適正化を図るよう勧告することができることが定められています。

5条では6か月を超えてなされている委託を打ち切ろうとするときに、委託打ち切りの予告をすることを求めています。これも努力義務であり、労基法のように予告期間や予告手当といったものもとくに定められてはいません。

26条は、委託者が家内労働者数や業務内容など必要な事項を記入した委託状況届を、毎年4月30日までに都道府県労働局長に提出しなければならないという規定です。

 

これらの規定は努力義務のため罰則がなく、家内労働監督の違反状況には記載されません。

えっと、26条は罰則があるかと思いますが、しかし年報のほうには違反状況は記載されていません。

 

 

 

 

 

 

*1:高野剛『家内労働と在宅ワークの戦後日本経済』ミネルヴァ書房、2018年。169頁

*2:前掲高野172頁