以前、労災保険の給付件数と労働者死傷病報告の件数を比較してみようと考えたことがありました。「労災隠し」(死傷病報告未提出)ではないけれど、労災保険は使わせてもらえてないケースの数、ということになるのでしょうか。
ただ、割と面倒くさそうだったのでほったらかしにしてました。
勝手にツイートを引用させていただきますが
「人権としてのディーセントワーク」を読んでいて、生活保護を受給できる要件を満たしているにもかかわらず未請求である世帯割合推計値が厚労省発表として引用されていた。
— 焦げすーも (@yamachan_run) August 12, 2018
課税情報とひも付けることができるため推計可能なのだろう。
翻って労災補償を受けられるにもかかわらず〜という推計は困難か?
ちなみに前半部分、生活保護のいわゆる捕捉率についての推計というのは2010年に公表された「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計について」のことだと思われます。捕捉率は、それまでは研究者などが公的統計等を用いて試算していたのですが、同様の数字を政府が公式に試算したというのが大きなインパクトであったと思います*1。リーマンショック~政権交代が大きかったと思いますが、それ以後も継続的に試算するということにはならなかったようですね。
使用されているのは「全国消費実態調査」および「国民生活基礎調査」の個票データです。そのため課税情報と結び付けて試算したわけではありません。
生活保護の要件としては収入と資産の両方を確認しないといけないわけですが、
統計データからは、保有する住宅・土地等の不動産や、自動車、貴金属等の資産の評価額(換金可能額)は把握できず、推計には限界がある。
という風に留意点が付けられています。
労災の話に戻ります。
労災の給付件数と死傷病報告のデータを探そうとしたのですが、すんなりは見つかりませんでした。死傷病報告については労働災害発生状況のところの「休業4日以上の死傷災害」から確認することができます。これが死傷病報告を基に作成されたものとなっています。
問題は労災保険給付。
これがうまく出せないなと思っていたら、放置していたのですが……。
で、偶然こんなのを見つけました。2007年に総務省行政評価局が実施した「労働安全等に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」*2です。これの「勧告」の9頁の箇所に以下の表が載っていました。
そう。丁度こういうものを求めていた。
なお、「休業1日以上」のほうが死傷者数が少なくなっていますが、労働災害動向調査は抽出調査なので、全体の数字とはなっていません。
死傷病報告と給付等データの「休業4日以上」には乖離が存在します。平成17年だと13万3千人と12万人ですので約1割ほどギャップがあります。
数字が乖離していることについては行政評価局はとくに何も述べていません。勧告されたのは、休業4日未満の死傷病報告についても集計すべきという点でした。これについて「回答」や「その後の改善状況」の概要を読む限り、厚労省サイドはとくに回答していません。
データが存在することは分かったのでこちらでも同様の数字をそれ以後も含めて確認してみたいと思ったのですが、これが結局よくわからない。
労災保険については労働者災害補償保険事業年報なのだと思いますが、給付種類別の統計は記載されていないように見受けられます。「新規受給者数」だと療養補償給付の支払いを受けた人数になってしまうようなので、「休業4日以上」は分かりません。「葬祭料受給者」は掲載されているので、「休業補償」の数だけ分かればいい気がするのですが。
あるいは「新規受給者数」を、休業4日未満も含めた死傷病報告全体の件数と比べられれば、「労災なのに労災保険を使えていない」人の数は把握できるかもしれません。
しかし残念ながら、前述したように厚労省は「4日未満」を集計していません。
労働基準監督年報を確認しても、例えば就業規則の届出であるとか、企画業務型裁量労働制の報告については集計され記載されていますが、死傷病報告全体の数は記載がありません。
なお、上に載せた図は厚労省が持っていたデータを基に行政評価局が作成したものです。労働者災害補償保険事業年報には記載がないですが、厚労省はデータを持っているのだと思われます。
とりあえずの結論。
労災なのに労災補償を受けていない人の数は、出そうと思ったら出せるはずですが、出す気がないのでしょう。
*1:「捕捉率」という表現は避けている