ぽんの日記

京都に住む大学院生です。研究とは関係ないことも気ままに書いていきます。twitter:のゆたの(@noyutano) https://twitter.com/noyutano

監督官の数 再論

労働基準監督官は一体何人いるのか。

単純な問いかと思われたはずですが、具体的に資料に当たっていくと意外とスッキリした答えは出ません。当ブログでもこれまで人数にについて取り上げたことがありますが、それを整理する意味でも改めて書き記しておきたいと思います。

 

発端

監督官が何人いるのかというのは、監督体制を議論するうえで基礎的な前提として押さえておくべき数字だと言えるでしょう。

ただしこの記事を書いているのはより直接的な動機があります。

 

監督官の定員については、厚生労働省が毎年出している「労働基準監督年報」(以下、単に「年報」という)という資料に記載があります。この資料によってちゃんと確認が可能なのであれば何の問題もありません。

ところがここに記載されている定員数について、今年は「異変」が起きました。

 

具体的に数字を見てみましょう。

2015(平成27)年の第68回年報の33頁には以下のように記載されています。「全国の労働基準監督官数は……3,969人」となっています。

f:id:knarikazu:20180918170057p:plain

 

これが最新版である2016(平成28)年の第69回年報だと次のようになります(31頁)。これによると「全国の労働基準監督官数は2,923人」になっています。

f:id:knarikazu:20180918170331p:plain

 

 

というわけでこの1年で1千人近く減少したことになります。グラフにするとこうなります。

f:id:knarikazu:20180920165051p:plain

 

実際にはそんなに削減されたということはあり得ないので、これは数え方(どこまでを監督官に含めるか)を変えたことによるものと考えられます。それじゃあ、これまでの数え方は過大計上だったのか。厚労省にとっては障害者の人数よりも監督官の人数を数えるほうが難しかったのでしょうかね。

 

第1回年報から第69回年報に至るまで、その記載内容には大小の変遷がありましたが、これほど監督官数が大きく変動しことはありません。しかも前年の年報とは大きく数字が異なっているにもかかわらず、そのことについては全く説明がなく、しれっと「前年度に比し22人増であった」などと述べています。

 

この点について厚労省に尋ねようと思い、文書で残るほうが良いかなと考えたので、「国民の皆様の声」募集のページの送信フォームを用いて質問を出してみました。

この質問を出したのは7月26日のことになりますが*1、この記事を書いている現在までに回答はありません。

 

 

タスクフォースでの議論

以下では年報以外の資料を用いて、監督官の人数を確認していきたいと思います。具体的には①予算書に記載の予算定員(以下「予算定員」と略す)、②労働新聞社編『労働行政関係職員録』(以下『職員録』と略す)、③昨年行われた規制改革推進会議労働基準監督業務の民間活用タスクフォースでの議論、の3つを参考にしたいと思います。

 

※なお、以後の文章では厚労省の機構のうち、厚労省内部部局を本省、都道府県労働局を局、労働基準監督署を署と略すことがあります。

 

まず、③のタスクフォースから確認しておきたいと思います。

タスクフォースの資料では主に、本省・局を除いた署の定員について議論しています。以下の表は署の職員および監督官の推移です。

 

f:id:knarikazu:20180918174719p:plain

 

監督官の定員は、平成27(2015)年度で3,219人、平成28(2016)年度で3,241人となっています。

このうち、前者の3,219人という数字については前述した年報での数字と一致します。その他の年度についても、「異変」のあった平成28年を除けば、すべて年報での数字と一致します。

したがって、監督官の数え方は以前の年報と同一であると考えることができます。言い換えると、従来の数え方だと平成28(2016)年度の署の監督官は3,241人だということです。

 

色々と数字が混在してややこしいですが、問いたいのは2点です。

疑問1 従来の数え方では全国(本省・局・署)の監督官数は4千人弱だったのに、「異変」後は3千人弱となった。いったい数え方はどのように変化したのか。

疑問2 従来の数え方では、署の監督官数は3,241人だったが、新しい数え方では「全国の労働基準監督官数は2,923人」となった。では新しい数え方だと、署のみの監督官数は何人になるのか。

 

 

予算定員からみた監督官数

財務省のページに予算書・決算書データベースというのがあります。

一般会計と特別会計で分かれていますが、当初予算の「予算参照書」の「各省各庁予定経費要求書等」の「厚生労働省所管」の「政府職員予算定員及び俸給額表」の「組織別等内訳」に記載されている数字を使います。

備考の部分には「この予算定員及び俸給額表の職名は、必要に応じて代表的な職名又は包括的な職名を記載している。」と書かれています。したがってこの予算定員の表から、監督官の数を知ることができます。

 

ところで、予算定員の「都道府県労働局」の項目を見ると、「労働基準監督官」と「同[=労働基準監督署。引用者注]労働基準監督官」の2つがあります。普通に考えて、前者は局、後者は署に配属された監督官を指していると思われます。

 

年報の最新年版は平成28(2016)年のものですので、ここでも平成28年度予算を確認します。

一般会計でみると、署の監督官数は1,484人です。これが最狭義の監督官数と言っていいかと思います。ここに特別会計(労災勘定)での予算定員767人を加えた2,251人が署に勤務する純粋な監督官数となります。

 

「純粋な」という表現はややおかしな言い方ですが、とりあえず純監督官とでも呼んでおきます。

実際には産業安全専門官や労働衛生専門官として任官されている監督官が存在します。また予算定員では署長、副署長、課長、係長、主任、支署長、支署課長は別に記載がありますので、純監督官の数にはこれらの役職者を含みません。

 

f:id:knarikazu:20180921140759p:plain

 

産業安全専門官や労働衛生専門官は予算定員においては「同専門職」と記載されていると思われます。ただし、監督官ではない技官等が安全専門官等を務めている場合もあり、それは予算定員からは判断がつきません。

また、署長や監督課長は監督官だとは思います。ただ署長に関しては労基法97条2項で監督官を充てると決まってますが、副署長や課長はどうなんでしょうか。労災課や安全衛生課の課長も、監督官である必要はなかったと思います。

 

署長以下専門職や主任まで、署に勤務していることが予算定員から読み取れる人の人数を全部足し合わせると、4,861人です。前述したタスクフォースの資料だと、署の職員は全体で4,869人で、私がどっか数え損なっているのかもしれませんがほぼ一緒の数となります。

ということはこの「専門職」に技官や事務官も含まれていると考えてよいと思われます。

 

また、従来の数え方ですと、本省および局に750人ほど監督官がいたはずですが、予算定員ではそこまで確認できません。局の監督官184人は把握できますが、それ以外は「専門職」扱いになっているのだと思います。

 

 

残念ながら予算定員を参照しても、これ以上細かくは分かりません。ただし、少なくとも以下のことは確かめられました。

まず疑問1に関して、全国の監督官数は従来人数で4千人弱、変更後人数で3千人弱でしたが、純監督官は署で2,251人、局の180人を加えても2,431人です。これに署長、局長を合わせれば変更後人数に近くなります。従来の数え方は、純監督官以外に産業安全専門官等も合計した数だと推察できます。

疑問2に関しては、署の純監督官2,251人に署長等を加えた人数ということになるかと思います。

 

 

『職員録』からみた監督官数

『職員録』には具体的なポストの名前と、そこに任官している人の名前が記載されています。こちらも年報の数字に合わせて平成28年版を用いたのですが、具体的にどの範囲までの職員を載せているのか記載がありません。

参考までに古い『職員録』に当たってみると(平成10年版以前?)、「職員の掲載範囲」として「任官者以上」となっています。

 

なお『職員録』にはずらりと名前は並んでいるのですが、全体の人数は記載されていないので、こちらで数え上げる必要があります。なのでこちらの集計ミスも考えられるので、ご容赦ください。

 

 

最初に署の職員すべての人数についてですが、4,884人となりました。タスクフォースの資料では署の職員数は4,869人、予算定員だと4,861人でした。

『職員録』には相談員や指導員などの非常勤職員はおそらく含まれていないですが、それ以外については網羅していると考えてよいでしょう。

 

 

ここから「監督官」と名の付くものをピックアップしてみます。なぜこんな言い方をするかというと、以下の職名すべてを細かく説明する気がおきない(できない)からです。職名は『職員録』の記載通りに用いてます。

f:id:knarikazu:20180920184123p:plain

 

全部足し合わせてよいのか分からないんですけど、1,640人の「監督官」*2が確認できました。

困ったことに、予算定員の約2,200人よりも小さい数字となってしまいました。予算定員上の純監督官よりも「監督官」は少なくなっています。

ということは、例えば「監督官試験に合格して今は安全専門官に就いている」というような人は、予算定員のほうでは専門職ではなく監督官のほうに計上されている、と考えたらよいのでしょうか。*3

 

次に「専門官」と名の付くものを数え上げると*4(「監督官」と一部重複含めて)330人となりました*5。これを足しても2千人行かないので、予算定員上の人数には1割ほど届きません。

 

ちなみに、上記は「監督官」「専門官」という名の付く職名を数えました。労災課等にも監督官が在籍しているケースもあるので、上記『職員録』の数字はそもそも監督課以外の職員も含まれています。

監督課、監督・安衛課、方面、業務課に属している署の職員をすべて合わせると1,845人です。「監督官」と「専門官」の合計人数よりやや少ないくらいです。安全衛生課等568人を加えれば、予算定員を上回ります。

 

 

ややこしくなってきたので、整理です。

 

 

f:id:knarikazu:20180921151534p:plain

 

予算定員上の監督官数は、『職員録』での「監督官」+「専門官」より多く、監督課・安衛課関係職員数の合計よりは少なくなっています。

予算定員上の課長は887人で、『職員録』での課長は891人と近い人数です。ですから監督官で監督課等の課長を務めている人は予算定員では課長に計上されているはずです。「予算定員の監督官」は署長、課長等を含まず、産業安全専門官や労働衛生専門官で監督官である人を含んでいるのではないかと考えられます。

でも、専門官にしろ、安衛課の職員にしろ、全員が監督官であるとは限らないと思うのですが、だとすれば監督官でない人も予算定員上の監督官に含まれてしまう計算になるような気が……。あれ、技官は監督官なのか……?

 

予算定員上の監督官(署2,251人、局184人、計2,435人)に署長(321人)、局長(47人)、本省労働基準局長を加えても、年報(新しい数え方)の数字には120人ほど足りません。さらに課長職等の一部を含むのでしょう。

 

そうなると従来の数え方はさらに範囲が広くなるわけですが、いったいどこまでを含むのでしょうか。結局これはよくわかりません。

 

 

*1:「ご質問を受け取りました」との自動返信メールが同日に届いている。

*2:以下、「監督官」とカギ括弧付きで表記する場合には、職名に「監督官」という名称が入っているポスト全般を指すことにする

*3:だとすれば、「純監督官」という呼び方をしない方が良かったですね。このまま続けますが

*4:同様に「専門官」とカギ括弧付きで表記する場合には、職名に「専門官」という名称が入っているポスト全般を指すことにする

*5:ここでは署の職員のみを数えているため、この人数に局所属の労災保険給付専門官や労災保険審査専門官は入っていません