まずは現実を認識するところから始まるのだろう。
知性は死んだんだ。敗北し続けてきたのだ。
本書の前半は、知性の敗北を見つめなおすところから始まると言っていい。「反知性主義」の立場に立つとは言っても、大学=知性の権威とは見なしていないし(そんな考え方は今では成り立たない)、いわゆる「進歩的知識人」の矛盾をかなり批判している。もう「知性主義」は過去のものになったと書いている。
一方では、そうした時代状況に、うつ病を罹患した著者自身の姿が重なる。
「能力」主義的世界観のなかで大学教員という「知性」を仕事としてきた著者が、うつ病によってその「能力」の低下に向き合わざるを得なくなった。それは絶望してもおかしくないものだった。
「知性の死」が二重写しになっている。
しかし著者はそこから、こうして本を一冊書けるほどにまで状態は回復する。
大学という世界から、一度は「能力」の喪失に直面したからこそ、著者が「知性」について述べるさまは、その身体感に基づいている。
タイトルの「知性は死なない」は、知識人・知性主義が死んでしまったという現実を直視しつつも、それでも知性に希望を見出そうとする著者の思いが込められているのかもしれない。
その背後にある、著者の能力観の変化は興味深く、これからの時代を迎えようという姿勢が感じられる。
知性は死なない 平成の鬱をこえて【電子書籍】[ 與那覇潤 ]
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