ぽんの日記

京都に住む大学院生です。twitter:のゆたの(@noyutano) https://twitter.com/noyutano

「平均的な者」

田中重人先生の論文の中で、本ブログについて言及していただきました。

 

 

 

この論文の中で、「平均的な者」の定義の問題についても触れられています。

「労働時間(等)総合実態調査」では、「最も多くの労働者が属すると思われる時間外労働時間数の層に属する労働者」を「平均的な者」と呼称しており、通常用いられる「平均」の意味とは異なっているという話ですね。

 

そもそも「平均的な者」の定義をちゃんと記していないというのもいい加減ですが、もう一つ、なぜ「平均」をこのように定義したのかというのも気になるところです。

 

私見ですが、これは就労条件総合調査(の前身、賃金労働時間(等)総合調査)から来た発想かもと思っています。

 

この調査の中では労働時間制度や賃金制度について調べています。

ところで、労働時間制度(どのような週休制をとるか、など)については、同じ企業の中でも労働者によって異なる場合があります。そのため、その企業の中で最も多くの労働者に適用されている制度を、その企業が導入している制度だとみなしたのだと思います(集計項目にもよると思いますが)。

 

実際、かつての調査を見ると、「調査結果利用上の注意」の箇所に、

 (4)労働時間制度に関する部分で、労働者の種類等により制度が別建てとなっている場合は、適用労働者の最も多い制度を企業の制度として表章している。 *1

これは労働時間制度だけでなく、賃金制度でも同様の説明があります。

 

もっともこのような集計結果を「平均」と呼称しているわけではありません。集計表では「主な週所定労働時間階級別企業数の割合」などとなっています。

ただしその中で、「労働者1人平均週所定労働時間数」といった項目があり*2、「企業の主な週所定労働時間数を企業の全労働者数により加重平均したものである」と注釈が付いています。

これを「平均所定労働時間」と呼ぶのはともかくとして、企業の「主な所定労働時間」から加重平均を取って算出したのだということは分かります。

 

調査票を確認すると、企業に対して「主な」制度を尋ねているわけではなく、所定労働時間階級や週休制の種類別にそれぞれ適用労働者数を記載させる形になっています。

ただし集計表の段階で、「1企業平均」や「労働者1人平均」を算出する際には、「主な制度」の平均で出しているのだと思われます。

 

この調査においては、所定労働時間というのは「制度」なのだということでしょう。

平成29年の就労条件条件総合調査の概要においても、「第1表 1日及び週所定労働時間」のところで

1) 「1企業平均」は、企業において最も多くの労働者に適用される1日の所定労働時間、週所定労働時間をそれぞれ平均したものである。

2) 「労働者1人平均」は、企業において最も多くの労働者に適用される1日の所定労働時間、週所定労働時間を企業の労働者数(所定労働時間の定めのない者は除く。)によりそれぞれ加重平均したものである。

という、ぱっと読むとなんだかよく分からない感じで説明されています。

 

第2表では「主な週休制」となっており、こちらには「主な」が付いています。しかし第1表では「主な」の説明がなくなっているので、「企業において最も多くの労働者に適用される~」の部分が分かりづらくなっています。

 

所定労働時間については就業規則等で定められているので、「制度」と呼べるとは思いますが、時間外労働となるとさすがに「制度」ではないでしょう。所定労働時間と違って、時間外労働時間は人によってバラバラであっても珍しくないと思います。

なので時間外労働の実態をあたかも制度であるかのように「最も多くの労働者が属すると思われる~」としてしまった(しかもそれを「主な」ではなく「平均」としてしまった)ために出てきたのが、前述のおかしな「平均的な者」という定義なのではないでしょうか。

 

 

ちなみに現在の就労条件総合調査は調査票を郵送して回答させていますが、かつては「労働大臣官房統計情報部―都道府県労働基準局―労働基準監督署―統計調査員」という調査系統により実施されていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:過去すべての年次の報告書に目を通せてはいません。この引用は昭和49年賃金労働時間制度総合調査報告の「Ⅰ調査の概要 5 調査結果利用上の注意」というところに記載のあるものです。

*2:前掲158頁、第19表など