ぽんの日記

京都に住む大学院生です。twitter:のゆたの(@noyutano) https://twitter.com/noyutano

京アニ放火事件をめぐる報道

報道を眺めていて気になったことをいくつか書く。個人的感情の部分はできるだけ排す。
表題で「報道」としたが、以下に書くように新聞報道が中心。テレビやウェブメディアを含めてすべて追えているわけではないし、SNSまでいくと良い意味でも悪い意味でも有象無象だ。新聞のうち朝日と京都を取り上げているのは前者は単に私が購読しているからで、後者は地元紙という理由。
いずれにしろ以下記したことは私見にすぎない。

多面的な報道だったか

そもそも新聞、とりわけ一般紙にどこまで多面的な報道を求めるかというのはある。調査報道や企画・連載記事が日々の紙面の多くを占めるわけではない。専門紙(誌)でもない。
しかし今回の京アニの放火事件で特筆すべきは、報道の量が非常に多かったこと。記事の数が多かっただけに、そのぶん逆説的に報道が多面的だとは感じなかった。
 
事件の大きさから紙面で大きく取り上げられること自体は不自然ではない。ただ、ここまで連日報道されるとは思っていなかった。事件から1カ月が経ったが、紙面に京アニの文字を見かけない日がなかったほどだ。
これは比喩で言っているのではない。私が京都在住というのも関係していると思うが、文字通り見かけない日がなかった。
事件発生の7月18日に夕刊1面。その後19日朝刊1面、19日夕刊1面、20日朝刊1面、20日夕刊1面、21日朝刊1面と、連日新聞の1面を占めていた。21日は日曜日だから夕刊がなく、参院選の投票日でもあったから翌7月22日の紙面は選挙報道シフトだ。それまでの間ずっと新聞の1面を占め続けたことになる。
 
その後はさすがに1面に京アニの文字が躍ることは減ったが、社会面・地域面(先述したように私は京都在住だ)での記事は依然続く。事件以降京アニ関係の記事をスクラップし続けているのだが、朝刊・夕刊のいずれにも記事がなかった最初の日は8月10日だ。3週間以上の間、文字通り見かけない日はなかったということだ。ちなみに8月11日は「コミケに『京アニ作品』」というベタ記事があった。
ここで打ち止めかといったらそんなことはなく、8月12日に「京アニ犠牲者 実名か匿名か」の記事が出た後、台風10号での献花台一次撤去、京アニ大賞募集停止、死傷者の年代公表、京都府警の警務部長着任会見と犠牲者の腕時計紛失などが続いて、事件1か月で再び記事が大きくなる。
この記事を書いた8月23日の時点で、京アニの文字を見かけなかったのは先述の8月10日と13日だけだった。
 
事件・犯行の経緯や動機、犠牲者の報道だけでなく、各地で支援の動きが広がったというのが途切れることなく記事が続いた理由だろう。ファンが多いこともそうだが、「聖地」を持つ作品が多いこともこうした報道を多くした。
 

 

新聞と比べると、テレビ・ネットでは京アニを讃える報道も目立っていたように思う。

正社員雇用、社員の仲の良さ、女性の活躍、地域密着・聖地巡礼、そして作品の質。低賃金・長時間労働が伝えられる業界にあって、京アニの位置は際立っていたといえよう。

女性も多く、人材育成に力を入れ、福利厚生も頑張っていて、チームワークで仕事をする。事件後ということもあるためか、報道から感じる〈理想の職場〉感が強い。

建築基準法や消防法上の問題もなく、むしろ表彰されるほどだったという。

同局[京都市消防局]は毎年、3月7日の消防記念日に合わせて、防火活動に取り組む事業所や個人などを表彰している。受賞には消防法令上の違反がないことが前提となっている。同スタジオは14年度に伏見署長表彰を受けた13の事業所・個人の一つ。訓練に従業員の大半が参加している点が評価され、直近にあった昨年11月の訓練でも9割に当たる70人が参加したという。

京アニは「防火、防災に熱心な事業所」 京都市消防局が過去に表彰も(京都新聞) - Yahoo!ニュース

 

事件から数日後の7月22日にはNHKの「クローズアップ現代+」で京アニが特集された。NHK京アニが「日本の宝」とまで言われていた。

京都アニメーション 世界に広がる支援の輪 - NHK クローズアップ現代+

 

 

NHKの「クローズアップ現代」でアニメが特集されたのは初めてではない。「聖地巡礼」や労働問題をテーマとして特集されていたので京アニが取り上げられていてもおかしくはなかったと思うが、“成功事例”の取材先はPAワークスやポリゴンピクチャーズだったりした。

アニメを旅する若者たち “聖地巡礼”の舞台裏 - NHK クローズアップ現代+

2兆円↑アニメ産業 加速する“ブラック労働” - NHK クローズアップ現代+

 

 
話を戻す。
「多面的は報道だったか」と書いたが、振り返ってみるなら新聞の報じ方は想像以上に偏りを感じる。「悲しい」「京アニを支援しよう」式の報道が多い。私自身そういう記事で幾度と泣いてしまったので言いにくいのだが、新聞が「社会の公器」を自称するのなら、社会的に報じる意義をもっと感じるものにしてほしい。犠牲者や会社の軌跡、ファンの思いを記しとめておくことはもちろん大事だ。しかし報道ぶりを見ると、単に悲しい事件だったから大きく取り上げているだけのようにも見える。いや悲しい事件だったんだけど。。。
 
 
 

 

安倍政権が京アニにだけ政府支援の一方で、やまゆり園や貧困者施設の火災は無視! 生産性で価値決める政権の体質|LITERA/リテラ

 

web記事だと上記のようなものも目に入ったが、新聞報道ではこうした観点の提起はあまり見られなかったように思う。

 

被害の回復・支援

悲惨な事件だっただけに被害回復というのは重要な論点だと思うが、どうもその点の報道は違和感を感じていた。
被害回復と一言で書いてしまったが、今回の事件は会社を大規模に襲撃するものだったから、一通りではない。遺族への補償、従業員の治療、会社の事業再建が一遍に課題だ。物的・経済的被害だけでなく精神的ケアも求められる。
 
……なのだが、どうも遺族・従業員に対しては心のケアが中心に語られ、経済的支援については寄付・義援金ばかり報じられる。
 
たとえば労災保険
京都新聞では7月31日の朝刊で「労災対象の可能性高い」という京都労働局長の会見を伝えている。朝日新聞ではこの報道はなされていなかったように思う(見落としただけかもしれないが)。
解説っぽいのが出たのは弁護士ドットコムの記事だった。

 

私も事件後に労災の記事を書いた。放火殺人 労災保険 第三者求償 - ぽんの日記

事件について直接言及しなかったのは、グレーな部分があったから。業務起因性には相当因果関係が必要とされている。放火殺人という結果が、業務から「通常予想できる」ようなどうかって……

 

京都新聞京アニの事件に関しこれまで社説を3回書いているが、被害者支援に言及しているのは3つ目の社説。「放火被害者支援 社会で連携し、息長く」(2019/08/07)と題されたものがそれだが、経済的部分について触れているのは寄付金のことだけだ。社会制度として経済的支援について触れる気はないのだろうか。

 

「社会制度として」と書いたのは、京アニでなければこれほどの寄付金は集まらなかったと思うからだ*1。無名だからといって支援が少なくていい理由にはならず、まさにこういう点こそ報道して社会的に考える問題であるように思われるのだが。

 

京アニだから」で済ませず、一般的な犯罪被害支援制度など一考すべきところ。

 

安倍政権が京アニにだけ政府支援の一方で、やまゆり園や貧困者施設の火災は無視! 生産性で価値決める政権の体質|LITERA/リテラ

 

政策についていえば、7月29日に官房長官が支援の方針を示していた。

 

京都市にある「京都アニメーション」のスタジオが放火された事件を受けて、アニメなどの創作活動を支援する超党派議員連盟は「政府は、あらゆる支援策を速やかに講じる必要がある」などとして、アニメーターなどの育成支援や、寄せられた義援金への税制面での優遇措置などを提言しました。

これについて菅官房長官は、29日午前の記者会見で「負傷された従業員などへの補償や、『京都アニメーション』の経営再建について、まずは、よく事情を伺ったうえで、しっかり関係省庁に対処させたい」と述べ、具体的な支援策を検討していく考えを示しました。

“京アニ”放火 具体的な支援策検討する考え 菅官房長官 | NHKニュース

 

より具合的な動きが報じられたのは8月22日のこと。京アニへの寄付に関して税制上の特例措置が検討されているという。

メディアによっては「災害義援金と同じ扱い」と報じたようだ。これは「地方公共団体に対する寄付金」ということであり、ふるさと納税のことである。

義援金に関する税務上の取扱いFAQ|国税庁

 

ふるさと納税営利企業京アニ営利企業だ)に活用するは思わなんだ。宗教法人だってこんなに優遇されてはいないだろう。京都新聞は(というか共同通信の記事だが)懸念も併記しているが、朝日の報道ではそこまで伝えていない。

京アニ寄付の税軽減 ふるさと納税活用 政府検討 (2019/08/22 京都新聞夕刊 1面)
 ただ特定企業への寄付を目的に、全額を損金算入するために地方公共団体を通す形になると「脱法行為になる可能性がある」(税務当局)という。寄付を受け入れた自治体が、京アニに限らず犯罪被害にあった企業を支援するための資金として扱うなどの制度設計が課題になりそうだ。
 特定の企業に対する個人の寄付金は税額控除の対象とならず、課税されている。そのため、自治体への寄付に対して所得税と住民税が軽減されるふるさと納税制度を活用し、負担を軽減する。(共同)

 

 京アニに対象を限定しない、一般的な支援制度を構築すべきだと思うが、ふるさと納税のスキームを活用するなんて話では、実現しなさそうな気がする。

vergil.hateblo.jp

 

実名報道

今回の事件では実名報道の是非についても議論になった。が、初期の新聞報道だとそれが伝わらない。
京都新聞は8月1日の紙面で「犠牲者名 いまだ公表されず 京都府警、遺族に配慮 警察庁と調整難航 京アニ放火殺人 きょう発生2週間」と伝えている。10名の犠牲者名が公表されたのは8月2日だったが、朝日新聞の「京アニ犠牲者 実名か匿名か」という記事は8月12日の紙面だった。
 
DNA判定での身元特定に1週間ほど時間がかかり、京都府警は当初身元を公表する方針だったのが、京アニ側の要請で調整を続けてきたという経緯があった。
そのような経緯があったこと自体が、それまでの紙面では伝わらない状態であった。
  
京都新聞朝刊8月1日 31面

 一方、府警は、精神的ショックの大きい遺族の心情に配慮し、犠牲者の氏名をいつ、どのような形で公表するか検討を重ねてきた。当初は「身元が判明次第、公表する」との方針を示していたが、京アニ側が7月22日に「(犠牲者の)実名が発表、報道された場合、被害者や遺族のプライバシーが侵害される」として匿名での発表を要請したこともあり、従来なら速やかに行う氏名公表を例外的に控えてきた。
 この間、府警職員が遺族と面会したり、連絡を取り合ったりして、氏名公表に際しての意向を確認。幹部職員を招集して対応を協議するなどし、了承を得られるなどした一部の犠牲者から順次、氏名を公表する方向で話を進めてきた。
 しかし、警察庁側との調整は難航し、現在も結論を出せない状態が続く。別の捜査関係者は「府警だけで決められる問題ではないのかもしれないが、方針が二転三転しており、現場は混乱している」と嘆き、「いまだに犠牲者名を公表できない理由が、自分たちには理解できない」と打ち明けた。

安否知りたい ファン切実 SNS上 真偽不明の情報も
 事件現場を訪れるファンからは、社員の安否を知りたいと願う声が相次ぎ、SNS上で真偽不明の安否情報が拡散している。作り手一人一人の個性が作品を織りなす京都アニメーションには個々のスタッフにもファンが付いており、確たる情報を求める思いは切実だ。一方、実名公表に際しては遺族の意向に配慮するよう求める意見も多い。
(……略……)
 これまでに遺族の中には犠牲者の実名を明らかにして取材に応じる人もいる。ただ、ネット上では「静観しよう」「実名公表は、遺族の意向がなければ全く必要ない」とする意見も目立つ。
 
 
よーいドンで意義を強調して。
そもそも実名か匿名かで調整が続いていたということがそれまでの紙面では伝わってなかったのではないかと思う。実際「安否不明」の段階でも実名で報道はなされていた。
7月24日の京都新聞では木上益治さん、同26日の紙面では大野萌さん、武本康弘さん、西屋太志さんの安否不明を報じている。朝日新聞では木上さんの名前は目にしなかったと思うが、大野さん、武本さん、西屋さんの名前は取り上げられていたし、津田幸恵さん(7月23日夕)もやはり安否不明が報じられていた。
紙面を読む限り、これらの方々の遺族に実名報道の了解をとっていたのかどうかはわからない。
 
犠牲者10名の公表があった8月2日は奇しくもNHKかんさい熱視線」で特集された日だった。

かんさい熱視線「絶えない祈り “京アニ”社員たちが描いた夢」

京都アニメーションの放火事件から2週間。各地で犠牲者を悼む祈りが続いている。亡くなった社員たちはどのような思いで作品と向き合い、何を夢見ていたのか・・・。

35人が亡くなり、33人が重軽傷を負った京都アニメーションの放火事件。連日、現場近くの献花台やアニメの舞台となった“聖地”には多くのファンや友人らが駆けつけ、犠牲者を悼んでいる。亡くなった社員たちは監督や作画・色彩担当など、京アニ作品を第一線で支え続けた人たちだった。彼らはどのような思いで作品と向き合い、何を夢見ていたのか。関係者への取材を通して、亡きアニメーターたちの素顔と思いを見つめる。

かんさい熱視線 - NHK

津田幸恵さん、武本康弘さん、石田奈央美さんの取材がなされていた。京都府警の犠牲者発表の前から取材を進めていたのは間違いない。
 
なお、安否不明の段階で報じられていた大野さん、石田さんは、京都府警の公表した10名の中には含まれていない。
 

 

そして8月20日には報道機関12社が京都府警に身元の実名での公表を申し入れた。
 申し入れ書は、植田秀人本部長宛て。発生から1カ月以上が経過し、このままでは事件の全体像が正確に社会に伝わらないと懸念を表明した上で「過去の他の事件と比べても身元発表までの期間が長期化しており、極めて異例で憂慮される事態」としている。
 井上基総務部長は「遺族、関係者と調整し、適宜、適切な時期に応対させていただきたい」と話した。
京都新聞朝刊25面「京アニ犠牲者身元 公表を府警に要請 京都拠点の報道各社」2019/08/21)
 

これを受けて、Change.orgにおいて「京都アニメーション犠牲者の身元公表を求めません。」というキャンペーンが開始された。

ただ、賛同者を増やしたいならもう少し体裁を整えたら、とも思った。

I am a Kyoani fan. Although I am a fan, I don't want to announce the victims.

I will not change this claim even if the theory changes in the future.

キャンペーン · 京都府警: 京都アニメーション犠牲者の身元公表を求めません。 · Change.org

 

いろいろ思ったことがあるのだが、最初に感じたことはなんでキャンペーンの画像に『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を使ってるのか、ということだった。

もちろん、京アニ作品(今度公開されるやつだから)というのは分かる。

しかし『ヴァイオレット』は代筆業の仕事を描いたアニメであり、「想いを届ける」「伝える」というのが作品のテーマでもあった。第10話*2でのヴァイオレットの印象的な一言、「届かなくていい手紙なんて、ないのですよ」にもそれは表れている。またヴァイオレット自身、「安否不明」の少佐の生死を確かめようと行動している。

 

「そんなの……とどかなくていい……」

 嗚咽を上げながら悔しげに唇を噛むアンを、ヴァイオレットはただ抱きしめた。

「届かなくていい手紙など、ないのですよお嬢様」

 どうしてだろう。その台詞はアンへの言葉というよりヴァイオレットが自分に言い聞かせているようにも聞こえた。そのせいかアンへの記憶になぜか印象深く刻まれた。

(暁佳奈『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』上巻、76頁)

 

つまり「公表を求めません」のキャンペーンに使われる画像としてはすごく違和感がある。むしろ公表してほしい側が使うならわかりやすい。

 

キャンペーンの発起文としても、上記に引用した部分がすべてで、公表を求めない理由については特に書かれていない。「書かなくても分かるだろ」というのは不誠実で、普通この手のキャンペーンには理由や経緯を記すのものではないか。

京都府警が宛先になっているが、「公表を求めません」の一言だけ要望するのか。もっと整った文書で要請するなら、その文面をキャンペーンページに書いてほしい。

 

「I will not change ~ in the future」の部分も引っかかる。将来的な公表すらも望まない、ということか。時間が経過してこの事件が〈歴史〉になっていったとしてもか。

歴史的検証ということを考えたら、氏名が明らかになっているほうが望ましい。

京アニがアニメ化した『氷菓』から

「調べてみればいいさ。三十三年前のことを」

「でも」

 千反田の眉が曇る。

「憶えていてはならない、って書いてあります」

 その怯みを、俺は意外に思った。

「思い出したいんだろう?」

「もちろんです。でも、もし調べたら」

 言い淀んで、

「……もし調べたら、不幸なことになるかもしれません。忘れられた方がいい事実というものは存在するでしょう?」

「…………」

 それは千反田、優しすぎるんじゃないか。

「三十三年前のことでも?」

「違うんですか?」

 俺は首を横に振った。

「違うさ。そこに書いてあるじゃないか。『全ては主観性を失って、歴史的遠近法の彼方で古典になっていく』」

「…………」

「時効ってことさ」

米澤穂信氷菓』角川文庫版、124-125頁)

 

アニメ版だと第3話だったか。アニメと原作は作中年が異なる。

もちろん今回の事件を時効と言いたいのではない。ただ、今すぐである必要はないが名前は公表すべきと思っている。

 

ちなみに京アニ側は「少なくともお弔いが終えられるまでの間は」と留保を付けている。*3

上記のキャンペーンでは京アニ側がこのように要請していることについてのリンクも貼るべきなのでは。

なお、弊社は警察及び報道に対し、本件に関する実名報道をお控えいただくよう、書面で申入れをしております。

遭難した弊社社員の氏名等につきましては、ご家族・ご親族、ご遺族のご意向を最優先とさせていただきつつ、少なくともお弔いが終えられるまでの間は、弊社より公表する予定はございません。

7月18日に発生した事件について(初出7月21日、改訂7月24日) - 新着情報 | 京都アニメーションホームページ

 

 

なお、私自身の気持ちとしては氏名を公表してほしいという気持ちが強い。もちろん、遺族の意向に配慮すべきことは言うまでもない。しかし死者を悼むうえで名前が明らかになっていることは重要なことだ。一人ひとりの命というのは匿名ではない。人の死が統計上の数字として扱われないとすれば、それはあまりにも悲しいことだ。

これは京アニだからではなく、一般論として言うべきことだ。

 

京アニ作品じゃないけど、新海誠君の名は。』から述べておこう。

私が『君の名は。』を劇場で観て涙したシーンのひとつは、主人公・瀧が犠牲者名簿*4に三葉らの名前を発見した場面だった。この場面が「高校生何名死亡」とかでは成り立たないのは言うまでもない。隕石落下の犠牲者は糸守町の人口の3分の1だったから(小説版125頁)、そこに三葉が含まれているかどうかは名前を確認しないとわからない。

ちなみにいうと私は死亡が明らかになったから泣いたのではなく、弔いの形が描かれたと思ったから泣いたのだったが、その話をすると脇道に逸れるので省略する。

 

前述したように、安否不明の状態での記事もあった。単に「身元公表を求めません」ではなくて、本丸が報道被害やネットの流言にあることを謳うべきだと思う。

死者を悼むのも、想起するのも、過去の軌跡を辿るのも、歴史を評価するのも、名前が明らかになってることの意義は大きいはず。

 

 

あああ。

もう寝ようと思ってたから、今から確認して検証する元気はないけど。。

ストレートニュースは違うのが多いけど。少なくとも朝日新聞だと、実名で犠牲者を伝えている記事は、たいがい記者の署名入ってますよ。

 

 

*1:杜撰な在庫管理や脱税が発覚したり、過労自殺者が出る制作会社もあるからね

*2:愛する人はずっと見守っている」http://tv.violet-evergarden.jp/story/#10

*3:「なお……」以下の文章は7月21日の初出時には記載がなく、7月24日の改訂時に追加されたものである

*4:小説版(127頁)によると『糸守町彗星災害  犠牲者名簿目録類』