ぽんの日記

京都に住む大学院生です。twitter:のゆたの(@noyutano) https://twitter.com/noyutano

ダラダラ残業を無くしたいなら、残業税を課せばいい

働き方改革関連法案のなかで、労働時間に関係するのは①時間外労働の罰則付き上限規制、②月60時間以上の時間外労働の割増率引き上げ(中小企業)、③裁量労働や高度プロフェッショナル制度

 

裁量労働制の拡大については削除するようだけれど、高プロは残すらしい。あとは年次有給休暇の取得率向上のための時季指定だけど、こちらはあんまり話題になっていない印象。

 

残業削減、労働時間短縮のための経済的なインセンティブということを考えると

①の場合は、違反したら罰金というもの。犯罪の厳罰化と同じで、最も直接的な手段ではある。けれど労働法規の場合は、そもそも取り締まりが不十分という実態が先にある。実際に罰金を課そうと思ったら、電通の例のように送検・起訴して有罪を確定しなければならない。その結果として50万円程度の罰金。純粋に経済的なインセンティブという点では、あまり大きくなさそう。

 

②の割増賃金は、36協定が規制の機能を果たしていない現状では、事実上唯一の歯止めでもある。残業させたら会社は余分に賃金を払う必要があるので、金銭的にデメリットが生じるというもの。

とはいえ割増率が低すぎると規制の効果はない。新たに労働者を雇う場合には、採用や研修の費用、社会保険、福利厚生や賞与を負担する必要があるから、それよりは割増賃金を払ってでも今いる労働者に残業させた方が得になる。残業させるよりも新たに雇うほうが金銭的に得にするには、割増率を7~8割くらいにしないといけない。

もう一つの問題は、割増残業代を払う会社にとってはデメリットになっても、労働者からすればメリットとなってしまう点。実態はともかくダラダラ残業が生じるという主張を生んでしまう。

 

③はダラダラ残業という意味では、労働者側に残業するメリットが無くなる。でも会社側にとっては残業させる(残業命令ではなく暗黙の指示で)メリットが強い。

労働者側にとっても、労働時間を短縮しようという誘因が生じるかどうかは状況依存的。たとえばAさんが8時間で100の成果を出していて、Bさんが10時間働いて110の成果出しているような場合。会社からすれば、裁量労働制でみなし時間分の賃金を払うだけだから、どちらの労働者に支払う賃金も同じ。だとすれば人事評価において、成果の多いBさんを高く評価してしまう可能性がある(生産性ではAさんのほうが優れているけれども)。だから裁量労働制や高プロは、文脈次第では労働者の長時間労働をむしろ促しうる。

そして純粋に金銭的インセンティブという面で見ると、会社側はBさんよりAさんを高く評価するメリットは存在しない。

 

まとめると、①はそもそも実効性が低いのが現状。②は会社にとってはディスインセンティブだが、労働者にはインセンティブとなってしまう。割増率が低いと会社にとってディスインセンティブかどうかも怪しい。③は会社にとってはインセンティブだし、労働者にとってもそうなりうる。

金銭的なインセンティブという点では、どれも効果が微妙ということになってしまう。

 

正攻法で行くなら、①の実効性を高める手段を模索すべきかもしれない。付加金請求の制度は②がベースだし、裁判で決着させないといけない点では①と同様の問題を抱える。

 

思考実験としては残業税は面白いと思う。②と同じで会社にとってはデメリットになり、一方で労働者もダラダラ残業するメリットがない。労基法違反の場合はなかなか罰金を科すまでに至らないけれど、税金なら課徴金を課す形になる。そうなるとサービス残業もしにくくなると考えられる。

労働行政のお株を国税局・税務署が奪うことになるので、厚労省としてはやりたくないかもしれないが。

 

 

 

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