ぽんの日記

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「かとく」案件

 「かとく」の設置

2015年4月、複数の労働局にまたがる過重労働に係る事案等に対応する特別チーム「過重労働撲滅特別対策班」を東京労働局と大阪労働局に設置されました。これが通称「かとく」と呼ばれます。

そして2016年4月には本省に「過重労働撲滅特別対策班」を新設したうえで、全国のすべての労働局に長時間労働に関する監督指導等を専門とする担当官(過重労働特別監督管理官。通称「かとく管理官」)を新たに任命しました。

さらに2018年4月からは「特別チーム」を全国の労基署に設けているようです。(過労死対策の特別チーム? - ぽんの日記

 

 

「かとく」が対象とするのは

情報公開推進局という労働行政に関する情報開示請求の結果を載せてくれているサイトがあります。「かとく」に関する通達は以下の2件です。

過重労働撲滅特別対策班に係る設置要綱について

長時間労働の抑制及び過重労働による健康障害防止に係る特定の事案に対する指導等を実施する専従チームの設置について

 

これによれば「かとく」の業務については以下のようになっています。

3 特別対策班の業務について
特別対策班は、長時間にわたる過重な労働が行われ、労働基準関係法令に違反し、または、違反する疑いがある事案であって、監督指導において事実関係の確認調査が広範囲にわたるもの、司法事件で捜査対象が多岐にわたるもの及び被疑事実の立証等に高度な捜査技術を必要とオるものなどについて、積極的かつ効率的な処理を行うこととすること。

 

広域の大型事案や捜査が高度になるものが対象となるようです。

このなかでは必ずしも明記はされていませんが、報道等では送検することを前提に調査するという点も注目されていました。

 

ところで、「かとく」や「かとく管理官」は、人員リソースという点では、すでに設置されていた「特別司法監督官」(通称「とくし」)で構成されていることが多いと思われます*1

「とくし」は1991年にやはり東京労働基準局と大阪労働基準局に3名ずつ置かれたのを皮切りに、現在8局(北海道、東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫、広島、福岡)に2~3人ずつ置かれているようです。*2

 

H3.4.12基発第253号「特別司法監督官の配置について」

最近、労働基準監督機関が処理した司法事件をみると、労働基準法違反被疑事件については、雇用就業形態の変化等に伴い内容が複雑・大規模な事件、また、労働安全衛生法違反被疑事件については、技術革新の進展、工事の大型化等による新しい型の災害や重大災害の発生に伴い高度の捜査技術を必要とする事件が増加傾向にある。これら、内容が複雑な事件、高度の捜査技術を必要とする事件等については、これに即応しうる捜査体制の充実・強化を図る必要があるため、特別司法監督官を配置することとしたものである。

 

「とくし」はJRの地下トンネル工事での大規模な陥没事故を契機に設けられたとのことなので*3労働災害についての言及が見られます。とはいえ、こちらも司法捜査になるような案件を専門に取り扱う点では「かとく」と共通しています。

 

 

これまでの「かとく」案件

ABCマート(2015年7月送検)

2014年4~5月、「グランドステージ池袋店」と「原宿店」の従業員計4人に14~112時間の違法な残業。同社と取締役ら計3人を書類送検区検は3人については起訴猶予*4

 

フジオフードシステム(2015年8月送検)

計17店舗の店長ら16人は2014年1~8月、パート従業員ら19人について、労使協定で決めた月45時間や法定の労働時間を超えて残業させた疑い。違法残業は、月最大で30~88時間。同社は労働局の指摘を受けて社内調査し、従業員約600人に未払い残業代計2億6700万円を支払った。*5

 

ドン・キホーテ(2016年1月)

同社の執行役員ら8人を労働基準法違反の疑いで東京地検書類送検。2014年10~12月、20代の男性社員1人に労使で定めた残業の限度(3カ月120時間)を上回る415時間45分の残業をさせた疑い。都内のほかの4店でも違法な残業をさせた疑い。*6

 

サトレストランシステムズ(2016年9月送検)

同社と店長ら5人を労働基準法違反(長時間労働)などの疑いで大阪地検書類送検。計4店舗などの店長ら5人が2015年1~11月、社員やアルバイト計7人を、労使協定で決めた残業時間(月40時間)を超えて残業させた疑い。残業はそれぞれ月最大で49~111時間。うち2人の店長は従業員3人に、残業分の割増賃金各約3万4千~22万5千円を支払わなかった疑いがある。同社の調査で、14~15年度にのべ653人分、約4億6千万円分の未払いが発覚し、ほぼ全額を支払った。*7

 

コノミヤ(2016年10月送検)

同社と専務ら2人を労働基準法違反(長時間労働)などの疑いで大阪地検書類送検同社の業務本部長は2014年9月~15年2月、本社の管理部門の30~50代の社員4人に、労使協定で決めた残業時間の上限(月30時間)を超えて残業させた疑い。専務は4人に、残業代計約293万円を支払わなかった疑い。4人の1カ月の残業時間は最大64~105時間。

同社の調査では、14、15年度に約700人分、計約1億8千万円の残業代未払いが発覚し、全額を支払った。

 

電通(2016年12月送検)

法人としての電通と、過労自殺した新入社員の高橋まつりさん(当時24)の上司だった東京本社の幹部を、社員に違法な長時間労働をさせた労働基準法違反の疑いで東京地検書類送検。東京労働局が違法だと認定した2人の労働時間は、月あたりの上限(50時間)を超える分が3時間54分~7時間44分。1日あたりの上限(5時間半)を超える日が8~13日。*8

 

HIS(2017年6月送検)

2015年度、東京都内の2店舗の社員2人にそれぞれ、労使が決めた時間外労働の上限を超えた違法な残業をさせた疑い。同社によると、社員2人の残業時間は最大でそれぞれ月110時間と月135時間。*9

 

 

こう並べてみましたが、基準があるのかないのかは分かりにくいですね。労災事案が含まれているかどうかは関係ないのでしょう。一方で未払い賃金を払ったとしても送検されていますから、改善が見られないから送検したとも一概には言えない気もします。

 JCB書類送検(2015年11月)されていますが、「かとく」ではなく労基署が送検しているようです。

 

 

kynari.hatenablog.com

 

*1:森井博子[2017]『労基署がやってきた!』宝島社新書

*2:全労働[1994]『労働基準行政職員の職務』

*3:前掲森井

*4:朝日新聞2016年3月3日朝刊「「ABCマート」違法残業で罰金 区検が略式起訴」

*5:朝日新聞2015年8月28日朝刊(大阪)「フジオフード長時間労働容疑 大阪労働局、書類送検

*6:朝日新聞2016年1月29日朝刊「ドンキ、違法残業の疑いで書類送検 3カ月で最長415時間」

*7:朝日新聞2016年9月30日朝刊(大阪)「「さと」と系列店、違法残業の疑い 会社と店長、書類送検

*8:朝日新聞2016年12月29日朝刊「過労自殺電通社長辞任へ 労基法違反容疑、法人を書類送検

*9:朝日新聞2017年6月14日夕刊「HISと2幹部、違法残業の疑い 労働局、書類送検