ぽんの日記

京都に住む大学院生です。twitter:のゆたの(@noyutano) https://twitter.com/noyutano

労働時間規制の適用除外

労働基準法では1週40時間、1日8時間の法定労働時間の規制のほか、休憩や休日についても規定がありますが、41条でこの規制が適用除外となる対象が定められています。

この記事では管理監督者と監視断続的労働従事者について、ざっくり規模感を眺めてみたいと思います。

 

法41条(労働時間等に関する規定の適用除外)

この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。

一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

これが41条の条文です。労働時間、休憩、休日に関する規定の除外について定められています。

対象となるのは、農業・水産業の労働者、管理監督者、監視・断続的労働従事者。このうち監視・断続的労働については、労基署長の許可が必要です。

 

「労働時間、休憩及び休日に関する規定は、・・・・・・適用しない」とありますが、深夜業の規制は及ぶと解されています。そのため管理監督者に対しても深夜の割増賃金は支払う必要があります。

高プロも新41条の2として設けられるのですが、こちらは深夜業の規制もありません。

 

監視・断続的労働について労働時間規制の適用除外が認められているのは、労働密度が疎であると考えられているからです。

監視労働としては守衛や門番、火の番、メーター監視などが挙げられます。

身体・精神的緊張の少ないものでないと認められないため、①交通関係の監視、車両誘導を行う駐車場等の監視等精神的緊張の高い業務、②プラント等における計器類を常態として監視する業務、③危険または有害な場所における業務については許可が認められていません(昭22.9.13発基第17号、昭63.3.14基発第150号)。

 

断続的労働は、作業の中断が繰り返されるような業務です。「休憩時間は少ないが手待時間が長い者」とされます(前掲通達)。具体的には修繕夫や踏切番だとされます(踏切番って何?という世代ですが)。

こちらも危険な業務だと許可が下りません。

 

宿日直勤務も断続的労働の1種として、許可を受ければ労働時間規制を適用除外にすることができます。

この場合は、則23条と34条の2つのパターンがあります。

第二十三条 使用者は、宿直又は日直の勤務で断続的な業務について、様式第十号によつて、所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合は、これに従事する労働者を、法第三十二条の規定にかかわらず、使用することができる。

第三十四条 法第四十一条第三号の規定による許可は、従事する労働の態様及び員数について、様式第十四号によつて、所轄労働基準監督署長より、これを受けなければならない。

なにが違うかというと、宿日直勤務が本来の業務でない場合には則23条が、本来業務として宿日直勤務に従事している場合は則34条が適用されるらしいです(昭34.3.9基収第6763号)。

前者の場合は労働時間(32条)の規定のみが適用除外となり、後者によって許可を得た場合は労働時間、休憩、休日の規定が適用除外になります。

 

監視・断続的労働の適用除外許可件数

監視・断続的労働の適用除外は、労基署長の許可を受けることが要件となります。「労働基準監督年報」では許可を与えた件数が記載されているので、各年の許可件数からその動向を把握することができます。

それが以下のグラフです。

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労働基準法の施行直後の時期が、最も熱心(?)ですね。

近年の変化が分かりにくいので、1952年以降を再掲します。

 

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日本独立以後で見ると*1、1967年が両者ともにピークとなっています。

それ以降はほぼ一貫して右肩下がりです。

なぜなんでしょう。この年って法令や様式の変更があったんでしょうか。

 

最新の2016年は則23条(宿日直)が1,392件、則34条(監視断続労働)のほうは1,340件となっています。

安定成長期に減り続けていましたが、そのままの勢いで消滅してしまうということはなく、1,000件台を維持していますね。

 

1954年以降については、申請件数も把握できるので、許可率(許可件数÷申請件数)も出すことができます。

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劇的な変化というほどのものではないですが、やや下がってますね。

 

名ばかり管理職の数

管理監督者の場合は、労基署長の許可は条件とはされていません。前述の監視・断続的労働と違って、労働者が高い地位にあるので、許可制をとらなくてもあまり問題がないだろうということなのだと思います。

しかしメンバーシップ型雇用の社会においては、名ばかり管理職問題を生んでしまうことにもなってしまうわけです。

 

名ばかり管理職の正確な人数を把握することは不可能でしょうが、「労働力調査」(労調)と「賃金構造基本統計調査」(賃構)、ついでに「就業構造基本調査」(就構)を使って傾向を把握したいと思います。

 

労働基準法上の管理監督者は、労働条件その他の労務管理について経営者と一体的な立場にある者のことで、名称ではなく実態に基づいて判断されます。

労働力調査における職業の把握は、実際に従事した仕事を日本職業分類に基づいて分類します。このうち「管理的職業従事者」のデータを今回使います。

一方で賃金構造基本統計調査は、役職(職階)についての調査を行っています。こちらは部長や課長(それに相当する役職)について尋ねており、社内資格としての部長級、課長級の人数を把握することができると思われます。

したがって両者を比較すれば、実際に管理的な職務を行った者の数と、社内資格としての管理職者数のギャップが浮かび上がります。

この労調と賃構の管理職数の傾向の乖離に注目するのは、梅崎[2005]*2が用いたやり方です。

 

3つの統計からそれぞれ管理職比率を算出して並べてのが下のグラフです。

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賃構の管理職比率は、部長級・課長級(2004年以前は部長・課長。定義は同じ)の人数を労働者数で割ったものです。賃構の役職別調査は、2004年以降については「雇用期間の定め無」を対象としているので、分母はそれに合わせています*3

また賃構が役職について尋ねているのは、規模は100人以上の企業となります。産業についても、労調の対象には入っている農業は含まれていません。

労調と就構は管理的職業従事者数を総就業者数で割っています。

 

労調と就構がほぼ同じ傾向を示しているのに対して、賃構は比率が上昇しています。

つまり実際に管理の仕事をした労働者の比率は減少しているのに、部長・課長級の割合は増加しているのです。

もちろん、このすべてが名ばかり管理職だとは言いませんが、この問題が取り上げられていくようになる背景には、実際の職務と社内資格上の地位の乖離があったとみることができるでしょう。

 

名ばかり管理職問題は、最近だと2008年に判決が出た日本マクドナルドの事件があり、同年に管理監督者の範囲の適正化についての通達が出ています*4

しかし時をさかのぼれば、すでに70年代後半にも都市銀行・金融機関における管理監督者の適正化が監督行政上の問題となっています*5

前述のグラフでは、賃構のデータを1981年以降しか挙げていませんが、これくらいの時期からすでに問題が燻っていたと言えるのではないでしょうか。

 

*1:別に深い意味はありません。占領期と独立以後で労働行政が大きく変わったのかどうかは知りません

*2:梅崎修「職能資格制度の運用変化」『人事の経済分析』第3章、ミネルヴァ書房

*3:2004年以前は雇用形態について調査していないので、「一般労働者」を分母とした

*4:管理監督者の範囲の適正化について」平成20年4月1日基監発第0401001号、「多店舗展開する小売業・飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」平成20年9月9日基発第0909001号

*5:都市銀行等における「管理監督者」の取扱い範囲について」昭和52年2月28日基発第104号の2、「金融機関における管理監督者の範囲について」昭和52年2月28日基発第105号