解雇事案は労働契約法とか個別労働紛争の範疇となるのが主かと思いますが、労基法の中では19条と20条に解雇制限、解雇予告手当の規定があります。
労基法19条、20条(解雇制限・解雇予告)
第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。○2 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
○2 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
○3 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
労働基準法では、特に解雇そのものは禁止されていません。ただ、労災や産前産後休業の期間は、例外的に解雇が制限されているのです。
その例外の例外と言うのか、労災の打切補償がなされた場合と「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能」という場合については、上述の解雇制限期間であっても解雇をすることが許されます。
それが19条1項ただし書の規定です。そして後段、すなわち「天災事変」を理由とする際には労基署長の認定が要件となります。
労基法上の解雇の規制としてメインとなるのは、解雇予告かと思います。
突然解雇されることによる不利益を避けるため、使用者には解雇予告が定められています。30日前までに解雇予告をしなければなりませんが、これは予告手当を支払った日数分だけ、その期間を短くできます。
予告をしなくても良いのは「天災事変・・・」と「労働者の責に帰すべき事由」がある場合です。ただしこの際も、労基署長の認定が必要とされています。
解雇制限・解雇予告除外認定の件数
労働基準監督年報には、19条1項ただし書後段、20条1項ただし書による認定件数が掲載されているので、その趨勢を追うことができます。
20条のただし書前段(天災事変)と後段(労働者の責)が別々に記載されるようになるのは1961年以降で、それ以前は20条で一括した件数しかわかりません。またその後1990年までは19条1項ただし書後段と20条1項ただし書前段の区別がないので、グラフでは20条1項ただし書前段のほうに含めています。
グラフを見て一目の通り、「天災事変」より「労働者の責」のほうが圧倒的に多くなります。「天災事変」で突出しているのは2011年です。
「労働者の責」は戦後復興期と比べるとずいぶん件数は少なくなっています。
90年代に入ってから増加に転じた気配がありますが、近年はまた横ばい・漸減といったところでしょうか。
離職理由の動向
雇用動向調査から簡単に離職理由別の離職者数を見ておきます。
ただ、この調査だと離職理由として一番多いのは「個人的理由」となっています。
出産や育児、介護等も「個人的理由」に含まれるのですが、そもそも解雇の近い事案も「個人的理由」に含まれてしまっているのではないかという気もします。整理解雇、懲戒解雇よりも退職勧奨(ないし退職強要)が一般的で、会社都合なのに自己都合退職とされるケースも少なくないですから。
そういった点には目をつぶり、「個人的理由」以外の離職者数を見ると、下のグラフのようになります。
「事務所側の理由」は「経営上の都合」「出向」「出向元への復帰」があるのですが、古いデータだとその内訳が把握できないので、ここでは一括して「事務所側の理由」としています。
バブル崩壊あたりから増加し、リーマンショックの時に跳ね上がっているのは景気を反映している様子がうかがえます。
面白いことに「本人の責による」は2000年をピークに減少しています。
これは先に見た予告手当除外認定とは異なる動向を示しています。もとより労基署に認定をとるような会社は少数派なので、傾向に乖離が生じるても別におかしくはないですが、なにか理由があるのかとかは少し気になります。
そもそも統計上のアヤというのも十分ありうる話ですしね。
『日本の雇用終了』*1で指摘されていることですが、「表面的整理解雇*2」が少なくなかったり、「能力」ではなく「態度」というあいまいな基準で解雇がなされることが中小企業等では多くなります。
雇用動向調査の離職者調査は事業所が回答する仕組みになっているようなので、解雇の理屈付けが変化すれば、それが調査に反映されてしまう可能性も否定できないわけです。
もう一つ目に付くのは、「契約期間の満了」がやはり90年代に入ってから増加を続けていることですね。景気動向云々というよりは一貫した増加傾向と見えます。
前掲のグラフは男女計、非正規・有期雇用を含むので、正社員よりも不安定雇用で離転職が多い非正規の傾向が強めに出ている面はあるでしょう。
しかしこの増加はやはり、有期雇用労働者の増加が反映されていると見てよいのではないでしょうか。これが労働契約法の「5年ルール」が施行されてからどう変化するかは今後の話となります。