これは正直、期待とすれ違った。もっと内容確認してから買えと言われるだけかもしれないけれども、文系学部不要論の反論としてこれは十分なのだろうか。
そもそも「大学教育は仕事の役に立っているのか」という問いに正面から答えている感じがしない。もちろん、先行研究で手を付けられていないことを研究したということなのだから致し方ない面はある。とはいえ内容的には「文系大学教育は~」ではなく、文系の各専攻でどういった違いがあるか、がメインとなっている気がする。
そして「役に立つか」という問いに対して、多くの人が関心を抱くのは賃金だったり、どのような職種・職業に就けるか、といった点ではないだろうか。大学の私的収益率の計算は、当然先行研究としても挙げられている。
しかし本書の各論文は、どうも初めからそこに踏み込んでいく気がないように感じられる。賃金等の外形的なアウトカムだけでなくて、主観的な効用もあるんだと主張するのは別に間違ったことではないけれど、まず論じてほしいのは前者ではなかろうか。
実証研究としてこのような研究が必要というのは理解はできるけれども、大学の研究者たちによる自己防御というイメージはぬぐい切れない。「ほら、こんな風に役立ってる」と解析結果をボンと示されただけに感じる。
編者の本田由紀教授が2009年に出した『教育の職業的意義』はもっと面白かった。あれは大学教育に限った話ではないし、実証研究というものでもなかったから、単純には比べられるものではない。けれど既存の教育体系に批判的まなざしを向けていたというスタンスがはっきり表れていて、それは本書には欠けているように思われる。
私は労働監督行政を研究テーマに選んだけれど、「監督行政は役に立っているか」という問いを立てる気はしない。少なくとも今の自分には、それで論文を書ける気がしない。
しかしもしこのような問いを立てるなら、あれがダメだ、これがいけない、というダメ出しのほうに重心が行くと思う。別に労働省不要論に与したいからではない。「べき論」のためには批判が当然出てくるというだけのこと。
どうなのだろうか。本書の著者たちは、大学教育を批判してやろうという、そういう気概をどれほど持ち合わせていたのだろうか。
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