ぽんの日記

京都に住む大学院生です。twitter:のゆたの(@noyutano) https://twitter.com/noyutano

労基法の適用事業場・労働者数と労災保険の加入率

法律上だれが労働者になって、だれがそうでないか、みたいな話はとりあえず措いておきます。
単純に数の話です。適用事業場数と適用労働者数がどれだけか、と。

 

 

労働基準法

まず労働基準法です。
労基法適用事業場数と同労働者数については、厚生労働省「労働基準監督年報」より確認することができます。
 
年報の「附属資料」というところにある「2.業種別・規模別適用事業場数」「3.業種別・規模別労働者数」とあるのがそれです。
単に「適用事業場数」と書かれているだけですが、常識的に考えて労基法が適用されている事業場数(労働者数)を示していると思われます。
この数値は経済センサス基礎調査を基に算出しているので、最新のものは2014(平成26)年で事業場数が約412万、労働者数が約5,294万人となっています。

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問題となるのは、これらの数値の算出の仕方です。
年報には「注:本表は平成26年経済センサス―基礎調査(総務省統計局)により算出したものです」としか書かれていません。
 
前々から少し気になっているところでした。どのようにして適用数を出しているのだろうかと。
厚労省の人に尋ねてみたら何のことはない。
「全産業の常用雇用者1人以上の事業所および同所に属する常用雇用者数」として算出しているそうだ。繰り返し確認したので聞き間違いではないと思います。
 
経済センサスによれば2014年の総事業所数は592万7千事業所あるそうですが、そのなかには個人経営で、家族従業者しかいない事業所も含まれています。そういったところには労基法は適用されないので、適用数を算出するにはこれらの数を取り除く必要があります。
 
ところが公表されている集計結果だと、どうもその辺りの数字がうまく出せないんですよね。だからどのように計算しているのか、あるいは個票を使って特別に集計しているのか、どうなんだろうと気になっていたんです。
調査票を見る限り、従業上の地位について、{個人業主/個人業主の家族で無給の人/常用雇用者(正社員とそれ以外の区別含む)/臨時雇用者}を調査しているので、個票レベルで集計すれば、ちゃんと適用数を出すことはできるはずです。
 
しかしながら前述の通り、常用雇用者の数で労基法が適用かどうかの数字を計算しているのでした。
当然ながら臨時雇用者に対しても労基法は適用されます。なので、常用雇用者の数のみで「適用事業場数」「適用労働者数」の表を掲げているのは不正確な表現です。
 
「適用事業場数」のほうだけならまだ強弁できるかもしれませんが、「適用労働者数」のほうは明らかにおかしいでしょう。常用労働者にしか労基法は適用されないと言っているようなものです。なぜ注釈ぐらい付けないのか。
2012(平成24)年の就業構造基本調査によれば、「雇用者数」は5,700万人ですから、「適用労働者数」より400万人ほど多くなっています。
 
 

労災保険

もともと「適用事業場数」と「適用労働者数」を計算しようと思ったのは、労災保険の加入率を概算してみようと思ったからだったのですが……。

労働者災害補償保険事業年報|厚生労働省

 

労災保険の事業年報を読めば、業種別の「適用状況」を知ることができます。ここでいう「適用」は加入手続きがなされているという意味ですね。

 

労基法の「適用事業場数」「適用労働者数」と、この「適用状況」のデータを使えば、業種別の加入率が概算できるはずです。

もっとも労災保険で使われる「事業細目」は保険料率を定めるために使われるものなので、一般の産業分類とは異なっているため、上手く比較できない点がありますが。

 

 

そのようにして計算したのが以下の表になります。

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労災保険未加入の事業場が存在するので、全業種で見ると事業場の加入率は100%を下回っています。一方で労働者の加入率は100%を超えてしまっています。「公式」に則って、労働者数は常用労働者数の数字を使っているというのも一因でしょう。

 

なお、労災保険の適用関係には「継続事業」「有期事業*1」「一括有期事業*2」がありますが、上記計算では分子として「継続・一括有期」を用いています。事業年報の業種別適用状況の表には、「継続」と「一括有期」を区別したものがなかったためです。

また分母の事業場数は民営の常用雇用者1人以上、労働者数は民営の常用雇用者数となります。

分母の経済センサスの数字は2014年7月のもので、分子の加入数は2014年度末のものとなります。

 

 

労災保険の業種別と経済センサスの産業分類の対応についてですが、

大分類についてはそれぞれ

林業:「A 農業,林業」のうちの「02 林業

鉱業:「C 鉱業,採石業,砂利採取業」

建設事業:「D 建設業」

製造業:「E 製造業」

運輸業:「H 運輸業,郵便業」

電気,ガス,水道又は熱供給の事業:「F 電気・ガス・熱供給・水道業」

としています。

 

この部分だけでも厳密でない部分がありますが、中分類以下はなおさらです。

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労災保険の事業細目のほうで金属精錬業、非鉄金属精錬業、金属材料品製造業、鋳物業、金属製品製造業又は金属加工業、めつき業は経済センサスの産業分類に上手く合わせられなかったので、「金属」と大雑把にくくりました。

 

 

林業等で加入率479%などと出ているのは、経済センサスの調査との差異(一括有期)が大きいからとなのかとも思いますが、輸送用機械器具も400%とかなってるのはどういうことなのだろうか。

 

 

 

 

*1:一定の期間内に終了する事業

*2:複数の有期事業を一つの事業とみなし、継続事業と同様に扱うもの