藤田孝典氏の以下の記事を受けて。
少々細かい前置きを書いてしまったのであらかじめ要約っぽく書いておくと、
・「宿泊業、飲食サービス業」「卸売業、小売業」は大企業ほど非正規雇用率が高い
・「不動産業、物品賃貸業」は5000人以上になると、急に非正規雇用率が高くなる
・「卸売業、小売業」の調査票のみフルタイム換算の記入欄もある。「用語の解説」にはこのことが書かれていないんだけど……
藤田氏の記事は、非正規労働者に過度に依存しすぎじゃないのか、それでいいのか、と問題提起しています。
その根拠として挙げているデータは有価証券報告書によるものですが、今回のエントリーでは公的統計を使って、企業規模別の非正規労働者比率を確認することにします。
非正規労働者といっても、定義の仕方はおおきく3タイプあり、統計によって把握できる範囲も異なります。
この辺は、下の神林龍[2013]で簡単にまとめられています*1。
では、藤田氏が示していた有価証券報告書ではどの定義なのでしょうか。
有価証券報告書に記載されているのは、「臨時従業員」であるということです。
カッパ・クリエイトの場合、この「臨時従業員」はパート・アルバイトを含み、派遣社員を除いています。そしてこの人数はフルタイム換算(1日8時間換算)のものです。
「臨時従業員」の定義そのものは書かれていません。
くらコーポレーション有価証券報告書(2019)のほうではこのような注意書きもありません。もしかしたら定義が異なっている可能性もあります。
図書館に古いのしかなかったのでそれを参照しますが、財団法人企業財務制度研究会の出している『有価証券報告書の作成の仕方』によれば、従業員の定義はないようです。
従業員の定義、臨時従業員の範囲等に関する基準が明定されていませんので、各社の実態に応じて記載していただくことになります。その場合には、従業員数の算定方法等に関する内容を脚注において記載することが適当と考えられます。
企業財務制度研究会[2001]『有価証券報告書の作成の仕方』19頁
公的統計であれば、非正規の定義は統一されている(はず)。
非正規雇用の数字としては、労働力調査や就業構造基本調査がよく引用されると思いますが、今回は企業規模・事業所規模の両方で見ようと思っているので、平成28年経済センサス‐活動調査を使います。
なお、これまでの経済センサスでは、正社員・正規職員の定義として「一般に正社員・正規職員などと呼ばれている人」が使われてきました。呼称による区分です。
今回の調査からは「処遇」という表現に変わりました*2。
上記の定義にしたがって、常用雇用者のうちの「正社員・正職員以外」の比率を非正規比率としました。臨時雇用者を加えてもよかったですが、それをするなら派遣も加えたほうが……となるので、今回は単純化して考えました*3。
前置きが長くなりました。
すべての産業を表示すると煩雑になるので、非正規比率が高いところを取り上げています。
宿泊業・飲食サービス業はまあ全般的に高いわけですけれども。
卸売、小売業は若干U字型になっていますね。100~299人規模の非正規雇用率が36%なのに対し、5000人以上の大企業では72%と倍になっています。
不動産、物品賃貸業のグラフは特徴的で、5000人未満の企業では非正規雇用率が全産業平均と同じかやや下回るくらいなのに、5000人以上になると急に跳ね上がり、卸売・小売業に匹敵する水準となります。
労働力調査や就業構造基本調査でも企業規模別の非正規雇用率は出せるのですが、カテゴリー区分が異なっていて、「1000人以上」の階層までしかありません。
1000人以上の区分がより詳細に把握できる経済センサスを使ったのはこういう理由もあります*4。
同じく経済センサスを用いて、企業規模別ではなく事業所規模別に示したのが下の図です。(こちらでは、より小規模な「1~4人」「5~9人」層も表示しています)
予想はできたことですが、企業規模別と事業所規模別では傾向が異なります。小売業でも宿泊・飲食業でも、大規模な事業所の場合は非正規雇用率は下がります。
逆に言うと、事業所規模30人とかが一番非正規率が高かったりするわけです。これくらいの規模までなら、正社員数人で回せる(?)ということでしょう。
もっとも、先にも述べた通り、今回は「非正社員/常用雇用者」で単純化しているので、派遣、フランチャイズ、子会社、下請けもろもろを考えたら、別の現状が見えてくるかもしれません。
非正規雇用というのはあくまでも会社内での雇用管理ですが、会社の外の「会社別雇用管理」もありうるわけなので。