ぽんの日記

京都に住む大学院生です。twitter:のゆたの(@noyutano) https://twitter.com/noyutano

新規学卒者の求人票

1961年という半世紀以上前に書かれた本なので、隔世の感どころか、まるで様相が異なってしまっているようにも感じますが、こんな記述がありました。

学校で労働組合について習っていて、新卒者が労働組合のないところでは働かないと述べるというものです。

 

中学・高校の新規卒業者は、さいきんでは、数の子かダイヤモンドのように手に入れにくくなっている。そこで、それらひっぱりだこの青少年たちは、「労働組合もないようなところで、はたらく気はありません。」といって、中小企業に寄り付かないというのである。かれらは、学校の社会科で、労働組合についてひととおりのことを習って予備知識をもっている。「職業安定所の求人の書類には、労働組合の有無を書きこまねばならぬので、うちでもひとあつめの必要上、さいきん組合をつくらせましたよ。」と話してくれた中小企業経営者もある。

(塩田庄兵衛『労働組合入門』光文社カッパブックス、1961年。23頁)

 

気になるところはもうひとつ。職安の求人票に、労働組合の有無を書きこむ欄があるということ。そんな項目があるとは知りませんでした。

 

試しにググってみると、たしかにその項目がありますね。

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出所)新規学校卒業者の採用について | 東京労働局

諸様式集https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000225874.pdf

 

 

「中卒用」と書かれている通り、学歴(中卒・高卒・大卒等)で求人票の様式が異なっているのですね。

 

調べてみると、かつての求人票では、学歴で様式は分かれてはいませんでした。

そもそも新卒者を対象とした職安への求人申し込みについて、求人票・紹介状の様式が一般のものと区別されるようになったのは1957年度卒からであるようです*1。このときは中卒・高卒・大卒で求人票の様式は共通となっています。 

 

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出所)「労働法令通信」10巻34号、1957年

「5 学校別」のところに「大 高 中」とあり、3つの学卒で区別されていない。「14 福利厚生」のところに「e 労働組合」とある。

 

新規学卒用の求人票は1969年に全面改訂されます*2。このときの求人票も中高大で共通です。

 

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出所)「労働法令通信」22巻12号、1969年

「18 学校別」は「中・高・大」。労働組合は「1 求人者」のところに「i 労働組合」がある。

 

この1969年の求人票改訂は、「新規学卒者の職業紹介業務取扱要領」の策定に併せて行われました。この「取扱要領」では、職安の学卒採用への関与強化が謳われています。

職安の求人受理にあたっては、その内容が労働法令・児童福祉法等の関係法令に違反することが明らかな場合には、関係機関とともにその是正について指導すること、指導にも関わらず是正がなされない場合には、その求人を受理しないこととされています。

 

青少年雇用促進法が制定され、学卒者の求人不受理が規定されたのは2015年のことでしたが、それに先駆けるものと見ることができます*3

 

つづく1973年にも求人票の改訂が行われています*4労働組合の有無の項目は引き続き存在します。

 

 

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出所)「労働法令通信」26巻12号、1973年

 

1973年になると中卒用と高卒用の求人票の様式は分かれています。といっても内容的にはほとんど差がなく、違いは中卒用には「超過勤務手当」の項目がないこと*5、高卒用には職安の「確認印」欄があること*6だけとのことです。

 

この当時の求人票でもうひとつ目を引くのが、離職状況を書かせる欄が設けられたことですね。過去3年間の就職者数(男女別)と離職率を書かせるようになっています。

やはり青少年雇用促進法で「募集・採用に関する状況」の情報提供義務が課されたのが2016年3月からですが、同様の発想が求人票に記載させるという形で、すでにあったわけですね。

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新卒者の「職業紹介業務取扱要領」は1984年にも大幅に改定されたようです*7。その中で新規中卒・高卒者用の求人票の様式の簡素化が図られたこと、大学等用の求人票の一部様式を改めたことが触れられていますが、「労働法令通信」の記事では様式例の記載がないため、具体的にどう変わったのか確認できません。

 

 

2012年度からWEBサービスシステムに移行が行われ、求人票の様式も変更されました。その経緯の一端が森均[2013]「高卒者用求人票の様式等の変更について -関係進路指導研究会の取組み-」に書かれています。「資料」として新旧の求人票(案)も載せられています。

 

これを読むと、求人票の様式変更等は高校関係者にも突然知らされるようですね。

東日本大震災によりシステムへの移行が延期され、高校側の要望の一部が取り入れられることとなったようです。

 

WEBシステムへの移行により、手書きの求人票はなくなることになりました。求人申込書を機械で読み込み、求人票に出力するということらしいです。

上で確認してきた「労働組合」「就業規則」欄は求人申込書からは消えましたが、求人票には残っています。これは申込書ではなく事業所登録シートの内容を出力するからということなのでしょう。育児休業等の取得実績も同様になっています。

 

事業所登録シートというのは、事業所がハロワを利用するときに最初に登録するものです。

ということはハロワの求人票には労働組合就業規則の項目があるのか、と思ってハローワークインターネットを覗いてみましたが、少なくともネット上では確認できませんでした。

 

 

その後の新卒求人票は先にも少し触れた通りです。青少年雇用促進法により、2016年3月1日以降は「青少年雇用情報シート」に平均勤続年数や研修の内容など情報を記載することとなりました。

2017年3月1日以降は求人申込書(高卒・大卒等)の様式が変更され、新たに「青少年雇用情報欄」が設けられることになり、上記「青少年雇用情報シート」の提出は不要になりました。

 

*1:「労働法令通信」10巻34号、1957年

*2:「労働法令通信」22巻12号、1969年

*3:職業安定法にはもともと「その申込の内容が法令に違反するとき、又はその申込の内容をなす賃金、労働時間その他の労働条件が、通常の労働条件と比べて、著しく不適当であると認めるときは、その申込を受理しないことができる」という規定があります。ただ、これだと求人の「申込の内容」に法令違反がないといけないように読めます。求人をかける事業所が法令違反を犯していても、求人票に問題がなければ受理しないといけないということになるのでしょうか。青少年雇用促進法やその後の職業安定法改正は、このネックを解消する意味もあるのかもしれません

*4:「労働法令通信」26巻12号、1973年

*5:18歳未満であるため、超過勤務がありえない

*6:高卒者については、高校へ直接求人を申し込むこともできるが、その場合でも職安にまず提出し、確認印を受けなければならないため

*7:「労働法令通信」37巻17号、1984