職場で法令違反があっても、それに対して声を上げる人はごく一部に過ぎません。そう思うと同時に、声を上げたとしても、それが必ずしも届くべきところには届いていないのでは、という疑念も強く抱いています。
労働トラブルの相談先は労基署に限りませんし、行政機関以外にももちろん存在しますが、とりあえずここでは主として〈労基署への申告〉に話を限定して記述することにします。
申告とは
もっとも、労働者からの申告に対して、労働基準監督官が臨検監督等の対処を行わなければならないという規定があるわけではありません。この点が、刑事訴訟法に基づく告訴・告発と異なるところです。
申告に基づいて行われる監督を、申告監督と呼びます。
ところで労働基準監督年報では「申告監督(労働者等からの申告に基づいて実施する監督)」*2という風に書いています。労働者「等」なんですね。
とりあえず「等」が付いていることを覚えておきます。
申告処理の状況
2017年の「要処理申告事業場数」は29,388件でした*3。集計は労働者や違反事項単位ではなく、事業場単位です。約3万件の事業場で申告がなされたということです。
そのうち、申告監督が実施されたのは21,361事業場です。申告監督の実施率は72.7%になります。
申告したら大体7割くらいの率で臨検監督してくれるのか、と言いたいところですが、この数字には注意が必要です。
「申告事業場数」には、申告以外の相談等は含まれないからです。
臨検してほしいな、と思って通報したつもりでも、「相談」や「情報提供」という扱いで対応されると、それは「申告」にはならないのです。
数字の上で議論すると、それは「総合労働相談」の利用状況から窺うことができます。
総合労働相談は、職場における労働関係のトラブルの、ワンストップ相談窓口です*4。「労働基準法等の法律に違反の疑いがある場合は、行政指導等の権限を持つ担当部署に取り次」がれます。
2017年度(こちらは年度集計です)の施行状況を見ると、全体の相談件数が110万4,758件、そのうち「労働基準法等の違反の疑いがあるもの」として労働基準監督署やハローワークに取り次がれたものは19万8,260件に上ります。
民事紛争メインで集計が行われているため、この約20万件のうち、どれほどが労基署案件で、違反の内訳がどのようなものかについては集計・分析がなされていません。
ただ、20万件のおよそ半分が労基署に取り次がれていると考えても10万件に及びます。前述の「要処理申告事業場数」は3万件弱でしたから、全く数字が異なります。
古いものになりますが、全労働省労働組合が相談受付の実態を報告したものがあります。「申告」受理件数の数倍に及ぶ相談があることが窺えます。
申告事件として正式に取り上げられた約15,000件の約5倍以上の事案が相談として監督署の窓口あるいは電話等で行われている(東京都内の都心部の労働基準監督署での電話相談は日に平均約100本、窓口相談は日に約30件であった)
現在の労基の電話相談業務の状況については、行政事業レビューを手掛かりに確認してみます。
まず、東京と大阪の労働局・労基署の電話相談業務は外部委託してコールセンターを設置しています*5。東京・大阪の労基署に入電したすべての電話は、一旦コールセンターで対応されます。
平成29年度の活動実績は、832,234件でした(なお、当初活動見込みは172,500件)。
先ほどは全国の申告受理件数が約3万件と書きましたが、東京と大阪だけでも80万件を超える電話相談があるということです。前者は事業場単位ですし単純比較はできませんが、申告の件数と相談の件数に大きな乖離があるのは推察できます。
「労働条件相談ほっとライン」についても確認しておきます。これは夜間や休日など、労基署が閉庁している時間帯に電話相談を受け付けているものです。2017年度は株式会社東京リーガルマインドに委託されて実施されています*6。
2017年度の相談受付数は月平均3,795件となっています。年間の数字に直せば4万5千件あまりになります。
相談と申告の関係に関してもう一点述べておくと、労働者の家族からの通報は「申告」としては取り扱われません。あくまで情報提供として活用されます。先ほどは申告監督について、労働者「等」から、と書きましたが、この「等」には家族等は含まれていないのです*7。
このことは質問主意書に対する答弁で確認されています。家族等からの相談は「申告」に含まれないこと、それらの相談状況について集計、とりまとめは行っていないことが述べられています。
……申告とは、労働者が事業場における同法違反の事実を労働基準監督機関に通告することをいい、労働者以外の者が行うものは含まれないが、労働者の家族等から同法違反の事業場に関する情報が寄せられた場合には、当該情報の内容、緊急性等を勘案しつつ、当該事業場に対し監督指導を実施する等の対応を行っているところである。
なお、労働者の家族等から寄せられる情報の集計等は行っていないので、その件数及び内容についてはお答えできない。
以上みてきたように、労基署が受け付ける相談の件数と、「申告」受理件数は大きく乖離しています。
申告件数のうち7割くらいが監督指導されていると聞くと比較的多い気もするのですが、実際には多くの相談が「申告」として処理されていない、ということを頭に入れておかねばなりません。*8
そして当然ながら、相談の背後にも、被害に遭いながら泣き寝入りしている例が多いことも念頭に入れなければなりません。*9
申告からの排除
労働基準監督署は申告事案を優先して処理する方針を示しています*10。
その一方で、労基署が申告に対応してくれない、調査してくれない、という事例も少なくなく、その点の批判もされてきました。
とりあえず今回は、個別の事例・裁判例を追うことはせず、行政の動きに注目して、歴史を振り返ってみます。
初期の例でいえば、是正基準方式のころの方針がありました。是正基準方式については本ブログでも何度か触れていますが、簡単に言えば、法定の基準よりも緩い基準を〈是正基準〉として設けて、それに基づいて指導を行うというものです。
この是正基準方式の際に労働基準局長通達として、「労働基準監督官執務規範の臨時取扱例について」(基発310号、1956年5月18日付)が発出されています。
これによると、特別の是正基準が設定されている事項について、その基準を超える申告があった場合には、具体的資料に基づいて当該労働者を納得させるよう努力することとしていました*11。法令に違反していても〈是正基準〉では問題がない場合は、申告として取扱わないようにしていたのではないかと思われます。
是正基準方式は1964年には終わり、それを境に定期監督や送検件数が一転増加を示すのですが、それはノルマ・件数主義によるものだと言われたりしています*12。
そもそも労働基準監督官の人数不足による業務過多が続くので、申告に処理しきれない状況が発生しているのだと思われます。
監督制度研究会[1976]*13は、申告処理の対応について
監督業務のノルマ制、件数主義、監督計画実施の硬直性等のため門前で追い返す、使用者を十分調べないで机上処理する、妥協点を安易に探して事前の処理のみを図ろうとする等の状況がみられている。(19頁)
と述べています。
その後80年代に入ると、集団申告、「大企業黒書」運動の形で、違反を申告する動きが広がります。
それを受けてかどうかは知りませんが、1982年度の運営方針が次のように示されたことが問題となりました。
申告事案の優先的かつ迅速な処理については、更に一層その徹底を期することとするが、労働条件の問題については労使共に自主的に協議、改善しうる能力を有している大企業等については、可能な限り労使間の自主的な解決を促すこととし、労働基準監督機関としては中小零細企業、未組織労働者等に係る事案の解決に最大限の能力を投入すること(1982年度労働基準行政の運営方針)
労働条件の問題が第一義的には労使間の自主的な交渉に委ねられるというのはその通りだと思うのですが、上記の文言が「大企業労働者の申告権を否定することになるのではないか」ということで騒がれたのです。
こうした指摘に対して政府は
労働基準監督機関は、従来から、労働条件の改善の遅れている中小企業等の分野を重点対象として行政を運営してきたところである。行政運営方針の御指摘の部分は、従来からこのような方針に即して申告事案の優先的かつ迅速な処理を行うよう指示したものであつて、申告事案の取扱方針を変更したものではない。
と、従来からの方針を変更したものではないと答弁しています。
1995年度の行政運営に関する通達では、申告処理と民事紛争の関係について触れています。労基署は基本的に民事不介入ですので、その方針を確認したものと言えます。
裁判を行っているんだったら、労基署は関与しないよ、ってことですね。
10 民事訴訟と労働基準監督機関の申告処理について
……訴訟の提起と並行して又はその進行中において、要請が行われた場合には、争点とされている事項に関し、権利の救済を図る観点から、よりすぐれた手段である裁判が現に行われていることから、これについて労働基準監督機関が処理を行うことは適切でないものであることに留意すること。
(以下略)
ところで上記通達を読むと、外国人労働者の申告処理状況や外国人労働者相談コーナーの相談状況を報告させてるようですが、どこかでとりまとめ・公表したんでしょうかね。
2001年は個別労働紛争解決促進法が施行になった年で、申告の対応についても、「申告・相談等の対応に当たって留意すべき事項について」(平成13年9月25日付け基発852号)という通達がなされています。
これまでは労働基準関係法令の違反ではないと思われるものは情報提供等で対応してきましたが、今後はより積極的に監督指導していく方針が述べられています。
(2) 申告・相談に対する対応に関しては、……その処理を求めている事項が法令違反を構成するおそれがあるとは認められないものである事案については、相談内容に応じて、関連する裁判例等相談者が必要とする情報を提供する等によりその処理を行ってきたところである。しかしながら、……申告・相談全体の内容からみて、当該事業場における法定労働条件に係る履行確保上の問題点の存在が推測され、監督機関として監督指導を実施することが適当であると考えられるものも存在するところであることから、かかる事案については、申告・相談者に係る法定労働条件の履行確保をより適切に図る観点から、以下により積極的に監督指導をもって対処していくことが重要であること。
同様の方針が、2003年の新しい通達(「申告・相談等の対応に当たって留意すべき事項について」平成15年4月1日付け基発0401015号)においても引き継がれています。
申告の内訳・推移
前述したように、「申告」に入らない相談が多く寄せられているのが実情だと思うのですが、それを踏まえたうえで申告処理状況の年次推移を確認します。*14
それが上の図です。これは申告の主要事項別に申告事業場数を見たものです。そして監督実施事業場数と「完結事業場数」は折れ線で表示しています。
「完結」というのは、ほんとに完結してるのか怪しく思います。監督実施事業場数を完結事業場数が常に上回っているのは、「申告を受けても明らかに違反を構成しないもの及び違反であっても机上で処理できるものについては監督を実施することなく処理している」*15ためだと思われます。つまり監督を実施しないで「完結」になるケースが一定存在するということです。しかしそういったケースと、「申告」ではなく「相談」として処理されるケースの境界は峻別できているのでしょうか。
また申告監督を実施したケースをもれなく「完結」に含んでいるのではないかと思われますが、労働者にとっての「完結」は監督を実施したかどうかではないはずでしょう。
以前このブログにおいても再監督の実施率やその完全是正率について取り上げたことがありましたが、それと比較して考えると、申告処理の「完結事業場数」の数は過大であるように思います。
あくまで監督官の申告処理の業務が完結したということなのでしょうけれど。
さて、申告受理件数は現在は3万件ほどですが、2009年には5万件近くありました。歴史的に見ると2万件台半ば~3万件くらいの水準が続いていて、バブル期が例外的に少なかったのだと考えられます。
申告事項の大半は「賃金不払」が占めているので、景気の動向と連動していることが想像できます。
ただし集計の仕方に注意する必要があります。年報がそういう集計をしているから仕方ないのですが、「賃金不払」には割増賃金(労基法37条)の違反も含まれます。割増賃金は労働時間ではんく、賃金問題だということです。最低賃金も支払ってないみたいなケースは最低賃金法違反として集計しているはずです。
そういうわけで、不景気で賃金遅配を起こしてしまったケースも、恒常的にサービス残業が続いているケースも、この集計では「賃金不払」になります。そのため単純に景気の動向として述べてしまうのはちょっと雑な言い方になってしまいます。
試みに「労働時間」の申告数の推移を取りだして示すと、下の図のようになります*16。
これを見ると、労働時間関係の違反を申告する人はどんどん減ってるように見えます。高度成長期よりも80年代に入ってから減少傾向に入ったようです。きっと労働者自身も日本型雇用慣行を内面化しだしたのでしょう(てきとー)。
先に書いたように家族からの相談は申告には含まれませんので、「過労死を心配した家族から」みたいなのはもとより入りません。
解雇と最低賃金の申告も別掲してみました。
ここでの「解雇」は民事紛争ではなく、労働基準法上のものですので、ほとんどが解雇予告手当の支払(労基法20条)に関するものだと思われます。
どちらも不況に関係の強い事項ですが、最賃のほうはリーマンショックのときに特にスパイクしてますね。
ここ数年は解雇が減少の一途なのに対し、最低賃金は高止まりのようにも見えます。最低賃金の大幅引き上げが続いたことや、その関心が高まっていることが背景にあるのでしょうか。
何度も繰り返しますが、労働者からの相談の多くは申告に結び付いていません。そのため申告事項の内訳・推移は、労働者の声を必ずしも反映していません。
そして申告に含まれない相談や情報提供は、集計・分析がなされているわけでもありません。そのため監督行政に対するニーズ、行政需要が計測できていないのではないかと懸念されます。
群馬労働局が「相談」についても集計していたので、それを載せます。「平成31年度 労働行政のあらまし」では、労基署に寄せられた労働相談と申告について、グラフのようになっています。
労働相談で見ると、「割増賃金」よりも「労働時間」のほうが件数は多くなっています。それが申告になると、「賃金不払」がほとんどになっていますということです。
それに相談件数と申告受理事業場数は、文字通り桁違いの数字の差異があります。
監督官の声
労働者の声ではなく、監督官のほうの声として、以下覚え書き。
労基署は内部的には監督署と呼ばれています。
『労働基準広報』(第407号)1974年2月1日「監督余聞 第一線監督官のメモから」
わたしたち監督官の仕事は、こちらから事業場を選定して能動的に行う定期監督と、労働者からの申告や事業場の災害報告を受けてから監督権限を行使する申告監督、災害調査とからなる。後者は受動的であるので、監督官は身体の調子が悪くても、気が乗らなくても、現実に労働者の権利が侵害されているのだから、猶予はない。そのうえ、申告事件は労使間でこじれた問題の後始末的なものもあって、多くの監督官は「またきたか」とうんざり顔になる。なかには「そういうお前にも落度があるのではないか」と申告にきた労働者にいって、「あの監督官のところへ行ってはだめよ」などと女子事務員に耳うちされるような者もいる。賃金不払い事件などは、労働者の主張をある程度まげさせて早く解決しようとする者や、なんと使用者にいわれたとおり支払い能力がないからあきらめろと伝達する者もいるが、こういうのはベテラン監督官に多い。若手は、概して手際は悪くてもまじめで、解決困難になるとノイローゼ気味になる者さえいる。
『労働基準広報』(第408号)1974年2月11日「監督余聞 第一線監督官のメモから」
わたしは、監督官の仕事は申告(申告事件のこと)にはじまり申告に終ると常に思っている。……
申告に似たものに、労働者の集団陳情がある。陳情内容は全国さまざまであるが、大阪ではその対応に疲れ切って倒れた署長も出たと聞く。わたしにとってショックだったのは、集団陳情にきた労働者を警察に依頼して監督署から排除したというニュースである。それも、昔わたしが3年間勤務した兵庫県下のできごとだ。当時も暴力をふるった申告者もいたが、わたしたちは行政に対する国民の声として多少のことなら甘んじて受けた。この件は、事情を知らないので軽々には論じられないが、監督署に権利の擁護を求めてやってくる労働者を警察権力を使って排除したら、もう監督署は店じまいをせねばならぬのではないか。わたしはそう思う。
現在、仕事の中心をなす定期監督をやめて、臨検はすべて申告監督と災害調査だけにしぼったら、どういうことになるだろう。災害調査の範囲を拡げないならば、監督官の勢力のほとんどが申告監督に向けられる。労働者からの申告がなければ商売にならないので、監督官は労働者の権利意識を高めてもらうように努力するだろうし、役所の門はくぐりやすくなるようにサービスも向上しなければならない。これまで労働条件としてとらえられることがなかった職場の安全衛生上の問題点も、申告の対象にのぼってくるかもしれない。……ただちには、申告監督中心に切換えられないにしても、少くともこのような発想は現在のわれわれには必要ではなかろうか。
『労働基準』1980年5月号 監督官座談会
申告事件の処理に当たって最近感じるのですが,解雇問題の場合,ちょっとしたやり取りの中で,もう今日からやめてくれと言われた一言をもって,すぐ飛び出してしまう。自分の仕事を確保していくところに重点を置くのではなく,やめてくれと言われた一言を盾に,とにかく30日分の平均賃金を払ってもらいたい,それを自ら請求するのではなくて,監督署に取り立ててもらいたいというような,監督署を代行機関にするような感覚というものが非常に強くなってきているのではないかという気がします。/賃金についても同じようなことが言えると思うのです。みずから請求を強くしていくというのではなくて,監督署が取ってくれるのだったら払ってもらいたいというような,他人に依存するような傾向が多くなってきているように感じます(埼玉・大宮労働基準監督署監督官)
監督署の立場としては,まだ労使間の懸案事項ですし,はっきり一線を引いて,当事者間の話し合いを促進させるという以外に手を出すべきじゃないと思うのです(千葉・千葉労働基準監督署監督官)
労使で盛んにやりとりがなされている事案については労働基準監督機関は中立性の確保の観点から,これには介入しない,こういう原則があるわけですね。ですから,労使間で話し合いのつかない事項については,監督機関の立場をよく説明して,話し合いを尽くすよう指導すべきだと思います(労働省労働基準監督課事務官)
『労働基準広報』(750号)1983年11月1日「わたしの監督雑感」
法の目的は、健康で文化的な人たるに値する生活の確保にある。法違反に対する改善勧告や送検などの措置が単なる応報ではなく、法の趣旨が理解され法の目的を達成するための契機になってほしいと思う。
監督署に相談に来る労働者も、自己の権利を守るために主体的に取り組もうとするのではなく、安易に依存する傾向が少なくない。順法だけでは解決しないと思うのだが。
『労働基準広報』(773号)1984年7月1日「わたしの監督雑感」
福岡労基署の管内では、50年から申告事件が急増した。そこで翌年には署長の判断で時限的に、申告処理に専従する方面をつくろうということになった。
この合意により、監督官の配置を検討することになったが、申告処理の仕事条件として①感情的対立が基礎にあることの認識②労使関係に対する労政的感覚③説得力―が要求される。……
いろんな議論があったが、チーム員5名が決まった(1名は20歳代だった)。
それからの問題は、担当方面はどこか―担当主任監督官は誰か、である。担当も決まりかけたが、仕事の動機づけの面でトラブルがあり2方面のわたしにお鉢が廻ってきた。
毎日が申告処理とはウンザリだが仕方がない。わたしは独断で、インフォーマルな組織運営を決めた。それは
①事件の担当は輪番制だが、すべての事案を全員で解決するシステムをつくっていく
②事案によってはペアであたる
③所在を明らかにしておけば、フレックスタイム的なやり方を認める(2方面かぎり)
④意見の疎通をはかる
ことを基本とした。これらは、仕事を自分に引きつけるやり方であり、個人請負型の排除であり、主任監督官はコミュニケーションセンターの役割と位置づけた。
結果はどうだったか。
監督実施の全体バランスからは異常というほかないが、飛躍的な申告処理状況となった。
*1:労基法第104条1項「事業場に,この法律又はこの法律に基づいて発する命令に違反する事実がある場合においては,労働者は,その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる」。そのほか安衛法第97条,賃確法14条等に同様の規定がある
*3:厚生労働省「監督業務実施状況」(平成29年)、情報開示請求により入手。以下、2017年の数字は本資料による。同様の数字は労働基準監督年報にも掲載されるが、本記事執筆現在、平成29年分の労働基準監督年報がまだ公開されていない。
*4:個別労働紛争解決促進法施行により、2001年10月から労働局や労働基準監督署に設置されている
*7:「等」としているのは、退職あるいは解雇等で係争中の労働者は含まれるからなのでしょうか?
*8:安西[1991]は申告事案の中身について、労基法違反のないもの、他の行政機関の所管事項に属するもの、使用者や労働者に説明するだけで片付くものなどが含まれており、また事業の存在や労働者かどうか怪しいものや微細・形式的な違反事項についての申告闘争、何度も申告に来る労働者の例もあり、申告事案に対する監督実施状況が6~7割の水準であるのをおおむね適切な水準としている(「労働基準監督行政と申告権」『季刊労働法』159号、110頁)。しかし前述したように、そもそも相談の大半が申告として処理されていない実態を踏まえると、このような評価には留保が必要だろう。
*9:労基署マターではないが、セクハラを例にとると、セクハラを受けた経験のある者のうち、労働局への相談したのは1%にも満たない。労働政策研究・研修機構「妊娠等を理由とする不利益取扱い及びセクシュアルハラスメントに関する実態調査結果」
*10:たとえば1952年版の労働基準監督年報には「従来の経験に徴し、申告があったときは、優先して監督すべき方針を採り、迅速に労働者の権利を維持確保すべき」としているし、1954年の年報では「監督実施に当たっては申告事案について優先実施すること」、申告の多い局署においては「業種別監督を申告監督に切り替え実施するも差し支えないこと」としている。このような申告を優先して処理する方針は、基本的に今日まで変わっていないと思われる
*11:松林[1977]「戦後労働基準監督行政の歴史と問題点」『日本労働法学会誌』50号
*12:前掲松林
*13:監督制度研究会は本省勤務の有志数名による研究会。監督行政についてまとめた「監督制度」と題する報告書を出している
*14:以下、労働基準監督年報の各年版から作成。
*15:1955年労働基準監督年報65頁
*16:労働基準監督年報には基本的に注釈等の説明が付されていない。唯一1981年版の年報には注釈があり、「『労働時間等』欄には,法第32条,35条,40条,60条,61条,62条に定める事項について申告のあった事業場数を計上してある」とある。したがってここでの労働時間には休日の違反も含む。