なぜだか知らないが、男性労働者は「育児時間」を取得することができない。男は育児をしない、というのは時代錯誤な考え方だと思うけれども、改正されないまま残っているということか。
ここでいう「育児時間」とは、労働基準法第67条のことだ。1歳未満の子どもを育てる女性は、1日に2回「育児時間」を請求することができる。
(育児時間)
第六十七条
生後満一年に達しない生児を育てる女性は、第三十四条の休憩時間のほか、一日二回各々少なくとも三十分、その生児を育てるための時間を請求することができる。
② 使用者は、前項の育児時間中は、その女性を使用してはならない。
そもそも労基法の第6章の2は「妊産婦等」と書かれています。この章のほかの項目は、産前産後休業や生理休暇、妊産婦の就業制限ですから、女性に限定されているのは理解できます。妊娠・出産に関わる部分ですので*1。
ところがなぜか「育児時間」も「妊産婦等」のところに残っていて、請求することができるのは女性に限られています。男性だって育児をするはずだとは思いますが、そうなっているのです。
働く女性の母性健康管理措置、母性保護規定について|厚生労働省
たしかに歴史を振り返れば、かつては女性が育児を担うことが当然とされ、法制度上もそうなっているところがありました。*2
たとえば育児休業だと、かつての勤労婦人福祉法や男女雇用機会均等法において努力義務が定められていたときには、育児休業の請求権は女性のみとされていました。
それが改まったのが1991年の育児休業法で、この法律で男女ともに育児休業が取れることとなりました。
また、女子保護規定が削除されたあとの激変緩和措置として、育児・介護を行う女性労働者については、時間外労働に1年150時間と上限が設けられていました。これも2001年の育児・介護休業法改正で、男女労働者共通の時間外労働免除請求権として変わりました。
その後2006年の労基法改正では、女性の坑内労働禁止が見直されました。それに伴って章題も「第6章の2 女性」から「妊産婦等」に変わっています。
こうしてみると、いずれかの法改正のタイミングで労基法の「育児時間」も男女共通のものにすれば良かったのでは? と思ってしまいますが、そうはならなかったようですね*3。
育児・介護休業法があるので、労基法の「育児時間」の議論には向かわないということなんでしょうね。
「育児時間」は1歳未満の子どもがいる場合が対象ですが、その時期なら育児休業の対象期間ですし、子どもが満3歳未満であればやはり育休法により所定労働時間の短縮措置等が求められていますから。
労基法の「育児時間」よりも、こちらのほうが充実しているし、今後も充実していくのでしょう。
追記)2019/5/24
hamachanブログにて、この記事に言及していただき、「育児時間」が本来は「哺乳時間」であること、したがって現67条は女子保護規定ではなく母性保護規定だったのだという解説をいただきました。
この規定は、戦前の工場法の「哺育時間」が中身はそのまま「育児時間」と規定されたもので、「育児」といっても育児・介護休業法でいうところの子育てという意味での「育児」とは別物です。