企業名公表は、制裁としての側面を持つため、法律上の根拠が必要と解す見解が優勢のようだ*1。
しかし実際のところ、法律の規定なしに公表するスキームが用意されているものがある。その場合は情報提供としての性格のみを有し、制裁ではないという位置づけなのだろう。そして情報提供という意味合いであるゆえに、その必要がなくなったら公表を取りやめるという形をとっている(はず)*2。
派遣法を素材として考える。
法に規定のある公表(第49条の2)
派遣法に公表規定が置かれているのは、派遣先の事業主に対しての勧告を行い、従わなかったときに公表するというもの。
(公表等)
第四十九条の二
厚生労働大臣は、労働者派遣の役務の提供を受ける者が、……に違反しているとき、又は……指導若しくは助言を受けたにもかかわらずなおこれらの規定に違反するおそれがあると認めるときは、……違反する派遣就業を是正するために必要な措置又は当該派遣就業が行われることを防止するために必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
2 厚生労働大臣は、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる。
派遣元事業主に対しては許可取消などの権限があるが、派遣先事業主に対してはそれができないため、勧告→公表の法的スキームを用意したということだ。
違法派遣の場合の労働契約申込みみなし(第40条の6第1項)についても、従わなかった場合の勧告→公表の仕組みがある(第40条の8)。
行政処分に付随する公表
法に規定があったのは派遣先事業主に対しての勧告・公表だった。しかし派遣元に行政処分をしたときにも実務上公表がなされている。
たとえば以下の報道発表は、業務改善命令を発したときに事業主名を公表するものだ。
派遣元事業主に対する労働者派遣事業改善命令について(令和元年12月26日)
無許可派遣に対する公表
派遣事業の許可を受けていない事業主に対しても、やはり許可取消し等の処分ができないため、指導と併せて事業主名等の公表を行うというもの。あくまで情報提供であって、「当該事業主に対する処罰を目的とするものではない」とされる。
厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、無許可派遣事業主を把握した場合は、法第48条に基づき、違法状態の是正を求める指導を行うものであるが、無許可で労働者派遣事業を行っていることが疑われる事業主については、あらかじめ、当該公表について通告するとともに、法第48条に基づく指導にあわせて事業主名等の公表を行う。
また、当該公表については、違法状態の是正が明らかとなるまで次項に定める項目について、厚生労働省、事業主管轄及び、無許可派遣を行っていた事業所を管轄する都道府県労働局のホームページにおいて公表を行うこととする。
附帯決議がもと? 通達で指示がある。
「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律の施行について」(平成27年9月30日職発0930第22号)
第2 労働者派遣事業について
①②(略)
③無許可で労働者派遣事業を行う事業主に対しては、許可の取消し等の措置を採ることができないことに鑑み、刑事告発を行うことも視野に、指導監督に万全を期すとともに、企業名の公表を行うこと。