ぽんの日記

京都に住む大学院生です。twitter:のゆたの(@noyutano) https://twitter.com/noyutano

『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』

観てきた。

violet-evergarden.jp

 

もう泣かないだろうと高をくくっていたのに、スタッフクレジット眺めててまた涙ぐんでしまう。昨年の『外伝』のときもクレジットのとこで泣いたけれど、そのあと時間も経ったし、他の作品も含め繰り返し鑑賞もしたから、気持ち的には落ち着いてきているはずだったのに。

そうなってしまったのは、作品が訴えるメッセージと、京アニのスタッフの姿が重なってしまったからだ。ナラティブの構造が、重ね合わせさせるようになっている。そう感じた。

 

まず、冒頭から驚いた。少々面食らいすらする。ヴァイオレットの死後の世界からスタートするのだ(作中でヴァイオレットが死ぬ描写があるわけではない)TVシリーズや『外伝』のときの時間軸から、60年ほど経過した時点が描かれる*1。60年後の現在から、過去を振り返る形でヴァイオレットたちのストーリーが語られるのだ。

呆気にとられる、とまでは言い過ぎかもしれないが、なかなかに衝撃を覚えたのは事実だ。わりと冒険な気がする。

本作では、ヴァイオレットたちが生きた時代は過去なのである。

誰それがすでに亡くなったどころの話ではなく、自動手記人形(ドール)という職業そのものが消滅している。ドールという仕事を知らない世代であるデイジーが、手紙に興味を持ち、過去のヴァイオレットたちの足跡をたどる。

 

歴史をひもとき、かつての時代に思いを馳せるというそのナラティブはわりと私の琴線をくすぶる。とはいえ、このような描き方がなされるとは全く予想していなかったから、冒頭からいきなり頭をガツンとやられたような感覚があった。

ヴァイオレットとギルベルト少佐の物語だけであれば、このような構造をとる必要はない。デイジーが出てくる場面を尽くカットしたとしても、映画としては十分に成り立つ。しかしあえて遠い未来から現在を俯瞰させる視点を導入しているのだ。

 

「冒険」と書いたのは、結構この描き方が怖いから。実際私は、時間の経過がもたらす虚しさや残酷さを意識してしまった。

生きとし生けるものはみないずれ死ぬ。それは承知しているけれども、どんな輝かしい時代も、世間に名を馳せた人物も、時間が経てば終わりが来る。まざまざとそんなことを自覚させられるようで、どんなに思い入れがあろうと、時間は冷酷にそれを過去にする。単に数年後や10何年後がエピローグとして挿入されるのとはわけが違う。

本シリーズは、そのタイトルが示す通り、ほかならぬヴァイオレット・エヴァーガーデンの物語であった。そのヴァイオレット亡き世界の視点から過去を照射するという語り口を、私は想像していなかった。

 

衝撃的に感じてしまったもう一つの理由は、小説版のほうに私の印象がアンカリングされていたためもあるだろう。

原作というより原案といったほうがいいのか、小説版とアニメ版はストーリーが異なっている。原作改変がさほど珍しいというわけではないが、京アニ作品はどちらかといえば明るめのストーリーに改変されている印象がある。

だが、『ヴァイオレット』シリーズは小説よりアニメのほうがヘビーに感じる。しかも直近で読んだ巻のサブタイトルは『エバー・アフター』だ。ever afterは「いつまでも幸せに暮らしましたとさ(lived happily ever after)」のフレーズに使われる語。実は死んだと思われた少佐が実は生きていた、という展開こそ同じものの、アニメ版と小説の読後感は大きく違う。

www.kyotoanimation.co.jp

「いつまでも」どころか、ドールの仕事が廃れた時代をいきなり見せられるとは予想だにしてなかったよ。

 

 

エンドロールではTRUEの「未来のひとへ」が流れる。

デイジーは残されていた手紙から祖母の思い出を知り、ヴァイオレットの足跡を辿ることができた。手紙であれば、未来に対して思いが伝わることだってあるのだ。それが手紙を書くこと、作品を残すことの大きなロマンであろうとも思う。

 

アニメーション作品を創り、世界に届けようとしている京アニのスタッフの姿に重なったのは、まさにこういう点だ。スタッフクレジットに、すでに亡くなられた方の名前を見るにつけ、そのことを考えた。デイジーが、遺された手紙から祖母やヴァイオレットに思いを馳せたように、作品が後世にまで伝えられ、作り手たちの思いが届けられることもあるだろう。

もしかしてあんな事件が起きたからこそ、このような語りの形式をとったのではないかとすら考えた。本作は上映時間が140分に及ぶ。これまでの京アニ映画は100分前後が通例だった。例外的に長尺の作品と言える。デイジーの部分を丸々カットしたとしてもストーリーとしては成立するのだから、もう少し短くすることもできたはずだ。

しかしデイジーの場面を省けば、映画全体の持つメッセージは大きく変わるだろう。むしろあんな事件があったあとだからこそ、この部分は削れない。大勢のスタッフを一度に亡くし、それでも作品を作り続け、未来に残そうという意志が込められているのだから。

 

 

(参考 公開日/公開初週の順位/館数/本編時間)

天上人とアクト人最後の戦い』(2009年4月18日/圏外//83分

涼宮ハルヒの消失』(2010年2月6日/7位/24館/150分

『映画けいおん!』(2011年12月3日/2位/137館/110分

小鳥遊六花・改〜劇場版 中二病でも恋がしたい!〜』(2013年9月14日/9位/27館/97分

たまこラブストーリー』(2014年4月26日/圏外(11位)/24館/83分

『劇場版 境界の彼方-I’LL BE HERE- 過去篇』(2015年3月14日/圏外//86分

『劇場版 境界の彼方-I’LL BE HERE- 未来篇』(2015年4月25日/9位/31館/89分

『映画 ハイ☆スピード!-Free! Starting Days-』(2015年12月5日/5位/120館/110分

『劇場版 響け!ユーフォニアム〜北宇治高校吹奏楽部へようこそ〜』(2016年4月23日/圏外//103分

映画 聲の形』(2016年9月17日/2位/121館/129分

『劇場版 Free! -Timeless Medley-絆』(2017年4月22日/10位/32館/99分

『劇場版 Free! -Timeless Medley-約束』(2017年7月1日/10位/59館/99分

『劇場版 響け!ユーフォニアム〜届けたいメロディ〜』(2017年9月30日/圏外//105分

特別版 Free!-Take Your Marks-』(2017年10月28日/8位/72館/100分

『映画 中二病でも恋がしたい!-Take On Me-』(2018年1月6日/6位/72館/98分

リズと青い鳥』(2018年4月21日/圏外(11位)/73館/90分

『劇場版 響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜』(2019年4月19日/5位/73館/100分

『劇場版 Free!-Road to the World-夢』(2019年7月5日/9位/73館/99分

ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 永遠と自動手記人形』(2019年9月6日/6位/83館/90分

『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(2020年9月18日/2位/152館/140分

 

 

 

*1:正確に何年間が経過しているかは読みとれなかったが、パンフレットの鈴木貴昭氏のインタビューには「60年後」という記述がある