ぽんの日記

京都に住む大学院生です。研究とは関係ないことも気ままに書いていきます。twitter:のゆたの(@noyutano) https://twitter.com/noyutano

安全衛生管理体制

前回の記事の続きです。

 

労働安全衛生法(安衛法)には、安全衛生管理組織や調査審議機関を設ける規定があります。

 

違反率でみると、安全管理者(安衛法11条)、衛生管理者(同12条)、作業主任者(同14条)は比較的高い違反率となっています。

安全管理者、衛生管理者は安衛法が試行する直前に一旦ピークが来ており、安衛法施行直後は減少しています。代わって高くなったのが作業主任者です。

ところが作業主任者も80年代以降徐々に低下し、衛生管理者についての違反が再び増加したため、両者の違反率が拮抗するくらいの水準になっています。衛生管理者のほうが安全管理者についての違反より高いのは、前者が全業種についての規定であるためと思われます。業種別の違反率も合わせて出せばよいですが、作業に時間もかかるのでそれは追々。

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製造業や建設業、各種小売業等で常時50人以上の労働者を使用する場合には安全管理者を選任しなければなりません。仕事は危険防止措置や安全教育、労働災害の原因調査などの技術的事項だとされています。

衛生管理者の場合は、業種に限らず常時50人以上の労働者を使用する場合に選任義務があります。安全衛生業務のうち、衛生に関する技術的事項を職務とします。

作業主任者は高圧室内作業やボイラーの取扱作業など、一定の作業を行う際に、有資格者の中から作業主任者を選任しなければならないというものです。

 

安全管理者や衛生管理者、あるいは後述する産業医の選任については業種や規模によって人数や専属かどうかが変わってきます。

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出所)京都労働局「事業場における安全衛生管理体制のあらまし

 

 

さて、安全衛生管理体制として産業医の選任義務(安衛法13条)というのもあります。

常時50人以上の労働者を使用するすべての事業場は、医師の中から産業医を選任しなければなりません。産業医は健康診断や作業・作業環境の管理、健康教育などに関することで医学の専門知識を要することを職務とします。

2015年からはストレスチェックの実施、面接指導、その結果に基づく健康保持のための措置が職務に追加されました。

 

......なんですが、「労働基準監督年報」には産業医の選任義務についての違反事業場数の記載がありません。衛生管理者等についてはあるのに、どうしてなんでしょう。ストレスチェックが新たに始まったように、産業医の重要性は増していると思われるのですが、その点を確認することができません。

 

もちろん、産業医の選任は罰則付きの条文です。産業医を選任しない場合、または選任しても健康管理その他の厚生労働省令で定める事項を行わせない場合には50万円以下の罰金に処せられます。安全管理者や衛生管理者の罰則と同等の重さです。

 

罰則付きの条文であるにもかかわらず、違反件数が集計されていない条文は実は他にもあります。これについては別の機会に論じたいと思います。

 

 

 

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労働安全衛生法の違反率

「労働基準監督年報」の数字から、定期監督の違反率の推移を見るということをやっています。これまでは労働時間と労働条件明示義務に関して書きました。

労働時間の違反率の推移 - ぽんの日記

求人詐欺・求人トラブルの今昔――労働条件明示義務違反 - ぽんの日記

 

今回は労働安全衛生法(以下「安衛法」)を見ます。

条文の中で違反率が比較的高くなっているのは、安全管理者(安衛法11条)、衛生管理者(同12条)、作業主任者(同14条)、安全基準(同20~25条)、衛生基準(同20~25条)、注文者の講ずべき措置(同31条)、定期自主検査(同45条)、健康診断(同66条)です。

 

それぞれの条文の解説は後回しにして、違反率の推移をざっと確認しましょう。

 

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こんな風にぽんぽんと並べられてもよく分からないですね。

労働安全衛生法労働基準法と比べて分かりやすい解説書も少ない気がします。条文を読んでも政令、省令で定めるところとする、というような書き方なので、条文を読むだけじゃなんのこっちゃという感じです。

そこで、まず安衛法の経緯等についてざっくり確認します。

 

労働安全衛生法の経緯

労働者の安全・衛生に関する事項は、もともと労基法の第5章に規定がありました。

危害の防止(42-45条)、安全装置(46条)、性能検査(47条)、有害物の製造禁止(48条)、安全衛生教育(50条)、健康診断(52条)などです。

 

労働安全衛生は機械や設備と密接に関連していますので、安全対策のほうも技術進歩に対応していかなくてはなりません。労基法そのものに大きな変化はありませんでしたが、省令レベルの改正は頻繁に行われました。

 

まず1958年8月に産業災害防止5ヵ年計画が策定されます。労働災害防止対策の取り組みが強化されるのはこの頃からと言ってよいでしょう。*1

 

省令レベルの安全衛生法規の整備は以下の通りです。

1959年:労働安全衛生規則改正(足場、杭打機)、ボイラー及び圧力容器安全規則、電離放射線障害防止規則

1960年:労働安全衛生規則改正(電気)、四エチル鉛等危害防止規則改正、有機溶剤中毒防止規則

1961年:労働安全衛生規則改正(林業、港湾荷役、腐食性液体による薬傷)、高気圧障害防止規則

1962年:クレーン等安全規則

1963年:労働安全衛生規則改正(型枠支保工)

1964年:労働安全衛生規則改正(明り掘削)

1965年:労働安全衛生規則改正(隧道工事)

1966年:労働安全衛生規則改正(安全衛生委員会の設置義務と衛生工学衛生管理者制度、爆発防止)

1967年:労働安全衛生規則改正(貨物取扱作業)、鉛中毒予防規則、建設業附属寄宿舎規則。法律として炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法

1968年:労働安全衛生規則改正(墜落防止)、四アルキル鉛中毒予防規則

1969年:労働安全衛生規則改正(電気機械器具と電気工事、採石業)、ゴンドラ安全規則

1970年:労働安全衛生規則改正(機械)。法律として家内労働法

1971年:特定化学物質等障害予防規則。事務所衛生基準規則、酸素欠乏症防止規則

  

1960年3月にけい肺法を発展させる形でじん肺法が成立。1964年6月には労働災害防止団体等に関する法律が成立しました。

そして1972年6月に労働安全衛生法が成立します。安衛法は労基法第5章(安全及び衛生)、労働災害防止団体法旧第2章(労働災害防止計画)、同旧第4章(特別規制)を統合、大幅拡充させる形で制定されました。*2

 

労基法の義務主体は使用者となっていますが、安衛法では事業者となりました。これは、下級管理者に責任を転嫁させず事業経営者の責任を明確化させる意味があります。また元方事業者の義務や注文者の義務が追加され、総括安全衛生管理者、産業医の選任、元方事業主による統括安全衛生責任者の選任等が規定されました。それまで省令レベルであった安全委員会および衛生委員会は法律上に位置づけと変わりました。

 

以降の法省令の制定・改正は…

1975年:作業環境測定法制定、特定化学物質等障害予防規則改正(がん原性物質)、有機溶剤中毒予防規則改正(ベンゼン追加)

1977年:労働安全衛生法改正(化学物質の有害性調査、疫学的調査)、じん肺法改正(じん肺健康診断等)

1978年:有機溶剤中毒予防規則改正

1979年:粉じん障害防止規則制定

1980年:労働安全衛生法改正(建設工事の事前審査制、元方安全衛生管理者の選任)

1982年:酸素欠乏症防止規則改正(硫化水素中毒防止措置)

1983年:労働安全衛生規則法改正(基準認証制度の改善)、労働安全衛生規則改正(産業用ロボット)

1986年:労働安全衛生規則改正(女子の就業制限撤廃(ボイラー・クレーン))

1988年:労働安全衛生法改正(安全衛生管理体制の充実、健康保持増進のための措置)

1992年:労働安全衛生法改正(店社安全衛生管理者の選任、元方事業者の講ずべき措置、快適な職場環境の形成の措置)

1994年:労働安全衛生規則改正(隧道等の建設工事)

1996年:労働安全衛生法改正(過労死防止のための健康管理体制、健康診断後の措置)

1998年:労働安全衛生規則改正(土石流危険河川における建設工事)

1999年:労働安全衛生法改正(深夜業従事者の健康管理、化学物質による健康障害の防止)、労働安全衛生規則改正(ジャッキ式吊り上げ機械)

 

長くなってきたので、安全衛生管理体制や健康診断等はまた別の機会に書くことにして、安全基準、衛生基準だけ確認しておきます。

 

安全基準・衛生基準

 

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安全基準、衛生基準というのは安衛法20~25条に関する部分の違反です。これは事業者が講ずべき措置について定めている条文で、設備や作業方法、作業場の環境整備などについて定めています。

 

具体的な部分は省令で規定されています。

「労働基準監督年報」では以下のように集計しています。

 

安全基準

労働安全衛生規則

ボイラー及び圧力容器安全規則

クレーン等安全規則

ゴンドラ安全規則

 

衛生基準

労働安全衛生規則

有機溶剤中毒予防規則

鉛中毒予防規則

四アルキル中毒予防規則

特定化学物質障害予防規則

石綿障害予防規則

高気圧作業安全衛生規則

電離放射線障害予防規則

除染則

酸素欠乏症等防止規則

事務所衛生基準規則

粉じん障害防止規則

 

衛生基準のほうが規則の種類が多いですが、違反率は安全基準のほうが高くなっていますね。安全基準の違反率のピークは安衛法が成立する直前期の1960年代末となっています。

約半数の事業場に違反が認められています。非常に高い数値ですが、製造業や建設業に絞ればもっと高くなっているかもしれません。政策課題として強く認識されていたことでしょう。この時期の監督対象が工業的業種中心になっているのは、人命を思えば当然かもしれません。*3

 

 

 

 

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*1:以下の記述については濱口桂一郎[2004]『労働法政策』有斐閣など参照した

*2:安全衛生関係規定のうち、女子年少者および寄宿舎に関する規定は労働基準法に残された。

*3:この当時から労働基準監督官の人員不足を指摘する声は上がっており、とくに非工業的業種や安全衛生面ではない一般労働条件(労働時間など)に対する監督が不十分になっているとの批判があった。

企業名公表は送検よりハードルが高い?

送検の少なさ

労基法の実効性を確保する手段として、従来用いられてきたのが行政指導(指導や是正勧告)と刑罰(送検)。

ただ行政指導の場合には柔軟ではあるが強制力がない。指導に従うかどうかはあくまで任意。一方、送検という手段を取った場合は、起訴されて有罪が確定すれば罰金や懲役刑が科される。罰金額が安すぎるのではないかとの論点はあるけれど、監督官が会社に対して取りうる最も強力な措置には違いない。あるいはこの司法処理権限をバックに前述の行政指導を行うことになる。

 

しかし罪刑法定主義などの観点から、送検措置を取るのは手間がかかる。行政指導以上に厳格さが求められ、立件できるだけの証拠を確保したり調書を作成したりしなければならない。それに送検したからといって法違反が改善するとは限らない。泥棒をムショにぶち込むことと盗品を返還させることは別だ。

 

是正勧告の件数と比べ、送検件数はずっと少ない。いずれデータを整理してグラフにしてみたいと思うが、とりあえず最新の数値(2016年)を拾うと、定期監督等違反事業場数が89,972あるのに対し、送検件数は890件。違反のうち送検に至るのは約1%という計算だ。*1

 

この割合は条文別にも異なっていて*2、労働時間(労基法32条、40条)違反では0.34%*3だが、均等待遇、強制労働、中間搾取(順に労基法3条、5条、6条)は極めて高い*4。賃金の支払(労基法23、24条)も比較的送検率は高い*5

 

柔軟な行政手段としての企業名公表?

適正手続主義の観点から言えば、厳格で慎重な運用が行われることは好ましい。とはいえ、あまりに送検件数が少ないと法の実効性の担保に疑問符が付く。

そのためある程度柔軟性を保ちつつ、効果が期待できる手段が要請されることになる。企業名公表制度や求人不受理の仕組みが登場したのはそういう背景で説明できる。

ブラック企業の企業名公表制度について - ぽんの日記ブラック企業の求人不受理 - ぽんの日記

 

もっとも、柔軟な手段であるといっても、無制限に行政の裁量に委ねては良いというわけではない。適正な運用が図り恣意性を排除するためには内規や指針等で基準が明記されるべきだろう。

行政指導段階での企業名公表制度でも「3OUT」や「2OUT」の要件が定められている。

 

しかし、どうもこの公表基準はハードルが高い。これまで公表されたのはエイジスと大宝運輸の2件。厚労省HPで公表されたリストの掲載は500件近く。*6

 

ところが送検された件数は、「かとく」案件だけでもすでに7企業あるし、年間の件数は1,000件近くに及ぶ*7

(送検数の推移のグラフはこれとか参照→労基署は「中小企業の実態を考慮して指導・監督を実施する」ことになるのか――是正基準方式 - ぽんの日記

 

厚労省のリストは原則1年掲載だが、必要が無くなれば削除される。*8

だから掲載数が1,000件を超えることはないだろう。

 

こうやって数字だけを見ると、送検より企業名公表のほうがハードルが高いかのような印象さえ受ける。企業名公表を是正勧告と指導の中間的位置づけと捉えるのは正しくないということか。

 

 

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*1:以下、特に出所を明記していないものは「労働基準監督年報」による。

*2:悪質さや立件のしやすさも関係しているのだろう

*3:定期監督違反28,252件、送検95件。ただし定期監督と送検状況では違反条文のカウントの仕方が異なる。送検状況では1事件で複数の被疑条文がある場合は主たる被疑条文で件数が計上される。

*4:定期監督の違反は3条が0件、5条が1件、6条が3件。送検状況は3条が1件、5条が1件、6条が4件となっている。両者に差があるのは送検が年次をまたいで行われることが多いためだと思われる。あるいは賃金違反と同じように定期監督ではなく申告や告訴・告発による法違反の発見が多い可能性もある

*5:労基法23、24条違反が5,200件。送検は23条が1件、24条が185件。23、24条違反の送検率は3.58%となる

*6:東京商工リサーチ第2回 全国「労働基準関係法令の違反企業」実態調査によれば公表企業数は520社(累計525件)とある。累計のほうは企業単位でなく事業場単位でカウントしたものだろう。元のリストは事業場単位で掲載されている。

*7:2014年までは毎年1,000件以上、2015年は966件、2016年は890件

*8:前述の調査では520社だがその1カ月後は494社、さらに1カ月後は470社に減少している。厚労省“ブラック企業リスト”494社に 危険な環境下での労働多発厚労省“ブラック企業リスト”から日本郵便など削除 470社に減少

「かとく」案件

 「かとく」の設置

2015年4月、複数の労働局にまたがる過重労働に係る事案等に対応する特別チーム「過重労働撲滅特別対策班」を東京労働局と大阪労働局に設置されました。これが通称「かとく」と呼ばれます。

そして2016年4月には本省に「過重労働撲滅特別対策班」を新設したうえで、全国のすべての労働局に長時間労働に関する監督指導等を専門とする担当官(過重労働特別監督管理官。通称「かとく管理官」)を新たに任命しました。

さらに2018年4月からは「特別チーム」を全国の労基署に設けているようです。(過労死対策の特別チーム? - ぽんの日記

 

 

「かとく」が対象とするのは

情報公開推進局という労働行政に関する情報開示請求の結果を載せてくれているサイトがあります。「かとく」に関する通達は以下の2件です。

過重労働撲滅特別対策班に係る設置要綱について

長時間労働の抑制及び過重労働による健康障害防止に係る特定の事案に対する指導等を実施する専従チームの設置について

 

これによれば「かとく」の業務については以下のようになっています。

3 特別対策班の業務について
特別対策班は、長時間にわたる過重な労働が行われ、労働基準関係法令に違反し、または、違反する疑いがある事案であって、監督指導において事実関係の確認調査が広範囲にわたるもの、司法事件で捜査対象が多岐にわたるもの及び被疑事実の立証等に高度な捜査技術を必要とオるものなどについて、積極的かつ効率的な処理を行うこととすること。

 

広域の大型事案や捜査が高度になるものが対象となるようです。

このなかでは必ずしも明記はされていませんが、報道等では送検することを前提に調査するという点も注目されていました。

 

ところで、「かとく」や「かとく管理官」は、人員リソースという点では、すでに設置されていた「特別司法監督官」(通称「とくし」)で構成されていることが多いと思われます*1

「とくし」は1991年にやはり東京労働基準局と大阪労働基準局に3名ずつ置かれたのを皮切りに、現在8局(北海道、東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫、広島、福岡)に2~3人ずつ置かれているようです。*2

 

H3.4.12基発第253号「特別司法監督官の配置について」

最近、労働基準監督機関が処理した司法事件をみると、労働基準法違反被疑事件については、雇用就業形態の変化等に伴い内容が複雑・大規模な事件、また、労働安全衛生法違反被疑事件については、技術革新の進展、工事の大型化等による新しい型の災害や重大災害の発生に伴い高度の捜査技術を必要とする事件が増加傾向にある。これら、内容が複雑な事件、高度の捜査技術を必要とする事件等については、これに即応しうる捜査体制の充実・強化を図る必要があるため、特別司法監督官を配置することとしたものである。

 

「とくし」はJRの地下トンネル工事での大規模な陥没事故を契機に設けられたとのことなので*3労働災害についての言及が見られます。とはいえ、こちらも司法捜査になるような案件を専門に取り扱う点では「かとく」と共通しています。

 

 

これまでの「かとく」案件

ABCマート(2015年7月送検)

2014年4~5月、「グランドステージ池袋店」と「原宿店」の従業員計4人に14~112時間の違法な残業。同社と取締役ら計3人を書類送検区検は3人については起訴猶予*4

 

フジオフードシステム(2015年8月送検)

計17店舗の店長ら16人は2014年1~8月、パート従業員ら19人について、労使協定で決めた月45時間や法定の労働時間を超えて残業させた疑い。違法残業は、月最大で30~88時間。同社は労働局の指摘を受けて社内調査し、従業員約600人に未払い残業代計2億6700万円を支払った。*5

 

ドン・キホーテ(2016年1月)

同社の執行役員ら8人を労働基準法違反の疑いで東京地検書類送検。2014年10~12月、20代の男性社員1人に労使で定めた残業の限度(3カ月120時間)を上回る415時間45分の残業をさせた疑い。都内のほかの4店でも違法な残業をさせた疑い。*6

 

サトレストランシステムズ(2016年9月送検)

同社と店長ら5人を労働基準法違反(長時間労働)などの疑いで大阪地検書類送検。計4店舗などの店長ら5人が2015年1~11月、社員やアルバイト計7人を、労使協定で決めた残業時間(月40時間)を超えて残業させた疑い。残業はそれぞれ月最大で49~111時間。うち2人の店長は従業員3人に、残業分の割増賃金各約3万4千~22万5千円を支払わなかった疑いがある。同社の調査で、14~15年度にのべ653人分、約4億6千万円分の未払いが発覚し、ほぼ全額を支払った。*7

 

コノミヤ(2016年10月送検)

同社と専務ら2人を労働基準法違反(長時間労働)などの疑いで大阪地検書類送検同社の業務本部長は2014年9月~15年2月、本社の管理部門の30~50代の社員4人に、労使協定で決めた残業時間の上限(月30時間)を超えて残業させた疑い。専務は4人に、残業代計約293万円を支払わなかった疑い。4人の1カ月の残業時間は最大64~105時間。

同社の調査では、14、15年度に約700人分、計約1億8千万円の残業代未払いが発覚し、全額を支払った。

 

電通(2016年12月送検)

法人としての電通と、過労自殺した新入社員の高橋まつりさん(当時24)の上司だった東京本社の幹部を、社員に違法な長時間労働をさせた労働基準法違反の疑いで東京地検書類送検。東京労働局が違法だと認定した2人の労働時間は、月あたりの上限(50時間)を超える分が3時間54分~7時間44分。1日あたりの上限(5時間半)を超える日が8~13日。*8

 

HIS(2017年6月送検)

2015年度、東京都内の2店舗の社員2人にそれぞれ、労使が決めた時間外労働の上限を超えた違法な残業をさせた疑い。同社によると、社員2人の残業時間は最大でそれぞれ月110時間と月135時間。*9

 

 

こう並べてみましたが、基準があるのかないのかは分かりにくいですね。労災事案が含まれているかどうかは関係ないのでしょう。一方で未払い賃金を払ったとしても送検されていますから、改善が見られないから送検したとも一概には言えない気もします。

 JCB書類送検(2015年11月)されていますが、「かとく」ではなく労基署が送検しているようです。

 

 

kynari.hatenablog.com

 

*1:森井博子[2017]『労基署がやってきた!』宝島社新書

*2:全労働[1994]『労働基準行政職員の職務』

*3:前掲森井

*4:朝日新聞2016年3月3日朝刊「「ABCマート」違法残業で罰金 区検が略式起訴」

*5:朝日新聞2015年8月28日朝刊(大阪)「フジオフード長時間労働容疑 大阪労働局、書類送検

*6:朝日新聞2016年1月29日朝刊「ドンキ、違法残業の疑いで書類送検 3カ月で最長415時間」

*7:朝日新聞2016年9月30日朝刊(大阪)「「さと」と系列店、違法残業の疑い 会社と店長、書類送検

*8:朝日新聞2016年12月29日朝刊「過労自殺電通社長辞任へ 労基法違反容疑、法人を書類送検

*9:朝日新聞2017年6月14日夕刊「HISと2幹部、違法残業の疑い 労働局、書類送検

スピルバーグ監督『ペンタゴン・ペーパーズ』

面白かったのは面白かったんだけど…

映画『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』公式サイト 大ヒット上映中

 

妙味だと思うのは、ニューヨーク・タイムズでなくて、ワシントン・ポストを中心にしているところ。原題はThe Postであるけれども。

最初にペンタゴン・ペーパーのスクープ記事を書いたのはニューヨーク・タイムズ。他の新聞はワシントン・ポストを含めて後追い記事。最初の功績がニューヨーク・タイムズにあると考えられる。

なのにこの映画だと、舞台はワシントン・ポスト。政府はニューヨーク・タイムズに対して差止命令を要求する。その最中に援護射撃的に報道したのがワシントン・ポスト。その場面に焦点を当てる。

 

援護射撃といってもそれは文字どおり会社全体を賭した決断だったことは、作品を見れば分かる。

権力とジャーナリズムの闘いだと思っていたので、記者が執念で取材を続けていくストーリーだとなんとなく予想していたのだが全然違った。もちろんそういうシーンが無いわけではないけれど、メインとなるのは掲載するか否かという決断の場面。

つまり現場の記者というよりは、デスクや経営陣、社主を描いている。

 

そもそもリークが発端だからというのはあるにせよ、記者がいかにネタを取ってくるか、走り回るかなんてのはあっさりしたものにさえ思える。差止をめぐる法廷闘争も大して描かれていない。

考えてみれば当たり前だが、この時代、表現の自由報道の自由を守れるかというのは掲載判断にかかっていたのだ。報道とは情報源に接触できるか、情報を入手できるかで終わりなのではなく、その情報に価値があるか、権力側から握りつぶされそうになっても、それを報じることができるか。その部分にも真価があるのだ。

 

 

......で、昨今の政治状況が状況だから、どうしても日本の現状と重ねて見てしまう。

モリカケ問題はもう1年以上続いているわけだけど、都合の悪い情報を隠すどころか改竄まで働いていた。ペンタゴン・ペーパーは機密文書とはされたけれども、後世の歴史家のためにと文書には残されてきたわけで。改竄したり、そもそも公文書がしっかり管理されてないなんてレベルの話ではなかった。

あるいは報道を封じ込めるのも、連邦裁判所に差止を求めるというほうがむしろ潔く感じる。そういう法廷の場で白黒つけてというのと違って、特定の新聞を贔屓にして、気に入らないものは貶めようとするというのは陰湿でセコイ気がするが、報道現場の分断を狙おうと思ったらこの方が効果的かもしれない。

なんというか、今の日本の現状も相当ひどい。そのせいでこの映画の感想も割り引かれてしまうと言ったら言い過ぎだろうか。

 

 

pentagonpapers-movie.jp

役所てつや・先崎惣一『フクシノヒト』/小林エリコ『この地獄を生きるのだ』

この間に読んだ生活保護を扱った本。

 

1つ目は役所てつや原案、先崎惣一著の小説『フクシノヒト』。大卒で役所に就職した主人公が福祉化保護係に配属され、ケースワーカーとなる話。

 

貧困の世界というよりも未知の世界に向き合っているというような印象。高校、大学と同質的な集団のなかで教育を受け人間関係を築いていると、知識やニュースとしては知っていても、リアルな存在としての貧困層が近くにいなかったりする。そうした、これまで見えていなかった人たちのことに気づいて、主人公の物の見方が変わっていく。

職員のなかで保護係の仕事は「汚れ仕事」と認識され、一時的に仕方なくやらされるみたいに思われているわけだけれど、働くうち主人公は仕事に誇りを持つようになっていく。

 

ケースワーカーが主人公の話は、柏木ハルコ『健康で文化的な最低限度の生活』という漫画があって、こちらの漫画のほうが貧困の現場を知りたいという人には良いと思う。『フクシノヒト』はケースワーカーを通じて貧困を描いているというより、ケースワーカーや保護係の職場のほうに焦点がある気がする。貧困というテーマというより、汚れ仕事に向き合っているような。

 

 

ケースワーカーではなく、受給者の側から生活保護を描いたのが小林エリコ『この地獄を生きるのだ』。フィクションではなく実際の体験記。

生活保護に、あるいは貧困の状態になるとこういう心理に陥るのか、という点についてはやはり当事者としての肉薄性がある。生活保護から脱却したいのに、ケースワーカーがそれを手助けしてくれないとか、貧困ビジネスに利用されるとか、あるいはそもそも自殺未遂に至る労働環境だとか、そういう問題を生活保護の利用者がどう感じているかというのが面白い。

 

 

労基署の手抜き監督――チョロ監とキョロ監

少し前になりますが、求人詐欺・求人トラブルの今昔――労働条件明示義務違反というエントリーを書きました。このときは労基法15条(労働条件の明示義務)違反の推移について書きました。

 

ところで15条違反については、原[2017]に「ノルマ達成のためだけの監督――チョロ監」として以下の説明があります*1

監督を実施したというノルマ達成を「実施率」と呼んでいるが・・・中略・・・機械的にノルマをこなせばいいというわけでは、さすがにない。

そのため、違反は勧告するが、重い違反を書かずに帰ってくるような者も、少なからず存在していた。チョロっと行って、チョロっと軽微な違反を書いて帰ってくるのを「チョロ監」と呼んでいた。

チョロ監では、「労働基準法15条違反」を勧告しているケースが多い。これは、「雇入れ通知書の未交付」というものである。・・・中略・・・この違反は非常に是正の報告が容易である。要は、今後は決まった様式を使って交付するということにすればいいわけだから、監督の翌日にでも是正が完了する。すると、監督復命書を決裁した直後に是正報告書が届き、その事案は完結ということになるのだ。

・・・中略・・・

 

雇入れ通知書だけの違反を指摘するチョロ監は、ノルマはこなせるし、違反率は下がらないし、そういう点で便利な方法なのだろう。

 

 この「チョロ監」という表現が気になりました。

ほかの文献ではどのように使われているのかまとめてみました。

 

松林[1977]*2

そして[昭和]40年からは司法処分および使用停止処分が飛躍的に増大することは確かである。しかし末尾の監督業務実施統計表をみると、39年以降定期監督率はほぼ減少一方であり申告監督・再監督の事業場もわずかしか増えていない。そこでの再処分件数の増大は人日制による件数主義の結果であるとしか考えられない。いわゆる「キョロ監」である。

ここでは人日制、件数主義(=ノルマ)の弊害が語られています。監督や指導の中身ではなく件数を追い求めるようなものを「キョロ監」と言っているようです。

 

チョロ監ではなく、キョロ監という言葉が使用されていますね。

 

同じ文献の注釈の中では、現場の監督官の声*3と行政通達*4が引用されています。

ここでは通達のほうを引用しておきます。

従来ともすれば監督件数にとらわれる余り部分監督方式の乱用がみられ、さらに計画において対象ごとに設定された重点事項についてのみ一律に実施される傾向がある 

部分監督というのはすべての事項について調査するのではなく、一部の条文について重点的に監督するやり方です。原[2017]では15条違反についてでしたが、 この当時は労働条件の明示はとくに重点事項だとは考えられていなかったと思われます(むしろ重要ではないとして見過ごされていた?)。

だとすれば一口にキョロ監、チョロ監と呼ばれても内実が違う可能性がありますね。

 

 

青木[1987]*5

この処分件数の増加は、ノルマ制的な件数主義(人日制と呼ばれる)によってつくり出されたものである。監督官たちは件数主義の監督を「キョロ監」と呼ぶ。監督は「件数をあげるためにのみ」おこなわれ、「指導面には手がまわらず」、「部分監督方式の乱用」によって総合性は失われ、「形骸化した監督行政は労使の信頼を失うばかり」となる。

 

ここでも表現は「キョロ監」となっています。

なお、青木[1987]では全労働[1976]*6を紹介する形で「キョロ監」に言及しています。こちらでは人日制についての「用語解説」もなされています。

人日(マン・デー)は1労働日(8時間)のこと。人日制は、人日を基礎として、一年間の仕事量を決める方式。例えば、定期監督1件0.5人日とすれば、1日2件となり、年間何件できるか計算できる。労働密度を高める労務管理の一方式。

 

 

 全労働[1972]*7

このなかの鳥取支部の報告(216頁~)では、標準監督日数(ノルマ制度)に触れたうえで

現在の監督実施の実態を一般監督官(署長、課長を除く)についてみると、1ヵ月の臨検監督日数は12日で、1日の標準監督件数は2件程度となっている

したがって、1事業場当りの実際の監督時間は往復所要時間を除くと小規模事業場は1時間、それ以外でも2時間程度しかかけられない。

しかも、最近の技術改革、新規則の制定等による監督範囲の拡大するなかでの監督であり、各監督官とも、予備知識、監督準備不足のまま事業場を臨検しなければならない実状から重点事項の一部を監督する『ミニカン』、『チョロカン』となっている

 

監督にかけられる時間が少なく、その結果重点事項のみの監督となってしまう事態を「ミニカン」「チョロカン」と呼んでいます。

なお全労働[1972]のほかの箇所では「ミニ監」「キョロ監」といった表現が使われています。

 

 

監督制度研究会[1976]*8

定期監督のみならず臨検監督全体が、部分監督ないしパトロール監督と称せられるような、内容の乏しい監督に終始する現状に至っている。かかる原因は一言でするならば件数主義、重点事項主義に尽きるであろう。

 

チョロ監、キョロ監に類する直接の表現は語られていませんが、件数主義、重点事項主義についての問題点が語られています。

 

 

資料の関係で1970年代のものばかりになってしまいました。

しかし原[2017]でも使われていることを考えると、この間もこの言葉は受け継がれてきた(?)と考えて良いのでしょう。

 

一方でこのころのキョロ監は重点監督、すなわち重要な事項のみの監督で済まされ、他の点への監督が行き届いていないことを表していることが多いように思います。

「軽微な違反を指摘して帰ってくる」というのとは少しニュアンスが違うのではないでしょうか。チョロ監、キョロ監の中身も変容しているのかもしれません。

 

 

 

kynari.hatenablog.com

*1:原論『労基署は見ている。』日経プレミアシリーズ2017年、154-5頁。なお原は1992年から2011年まで労働基準監督官を勤めた

*2:松林和夫[1977]「戦後労働基準監督行政の歴史と問題点」『日本労働法学会誌』50号22頁、以下太字は引用者

*3:昭和43年第8回労働行政研究集会の記録52-4頁

*4:基発227号昭和51年3月2日

*5:青木圭介[1987]「戦後日本の労働基準行政―長時間労働温存の一側面―」基礎経済科学研究所編『労働時間の経済学』青木書店、108頁

*6:労働省労働組合[1976]『これが労働行政だ』労働教育センター

*7:労働省労働組合[1972]『資料全労働』55号

*8:監督制度研究会[1976]『監督制度』。労働省の官僚有志によってまとめられた報告書