ぽんの日記

京都に住む大学院生です。研究とは関係ないことも気ままに書いていきます

労働基準監督業務 忘れられたあるいは注目されなかった7年前の議論

2010年の厚生労働省・第15回省内事業仕分けにおいて、労働基準監督業務がテーマになった。省内事業仕分けとは、厚生労働省の事務・事業や所管する独立行政法人公益法人等の事業などについて、外部の仕分け人を入れて行政改革の議論を行ったものである。厚生労働省の説明者から事務・事業や法人についての説明と改革案の提示がなされ、その後に仕分け人の議論が行われる。その議論を踏まえて最終的に改革案が報告される手順となっている。

省内事業仕分け、提言型政策仕分けのフォローアップ|厚生労働省

“仕分け”の議論だけあって、事業のスリム化を前提に議論されている。監督行政について書かれた論文、記事等は監督官不足をかこつものが多いから、“監督体制をスリム化しろ”という主張は珍しい。監督業務の民間委託を唱える最近の主張も、監督官が足りていないことを前提に議論している。ところがこの省内事業仕分けにおいては、逆に「過重労働防止対策アドバイザー」を廃止して、その仕事を監督官に任せようとしている。

したがって議論の方向性自体は今と異なっているものなのだが、その場で行われた議論の内容や提出された資料自体は、なかなか興味深い内容となっている。

にもかかわらずと言うべきか、今年3~5月に開催された規制改革推進会議の議論においても、あるいはそれ以外の監督官についての言説のなかにも、この省内事業仕分けに言及したものはほとんど見当たらない。言ってみれば忘れられた議論、注目されなかった議論と言うことになるだろうか。

 

厚生労働省が提出したデータ自体も大変興味深いのだが*1、ここでは最終的な改革案の内容を見てみたい。その内容を見ると、昨今の「働き方改革」のものだと言われても違和感がないほどのものである。具体的に見てみよう。

http://www.mhlw.go.jp/jigyo_shiwake/dl/15-2f.pdf

「労働基準関係法令の周知・情報提供の徹底」のなかの学校教育に触れている部分は、仕分け人に指摘され、改革案に追加されたものだ。

「新たな監督指導手法の導入」という項目では、本省の指揮下、問題のある全国展開企業について全社的に改善させる手法を積極的に実施するとしている。これまでの監督指導が事業場単位であったのを見直し、大企業の本社に対して監督を行うことで実効性を上げるというものだ。資料では2010年度試行実施、2011年度全面実施となっている。昨今の「働き方改革」において、「長時間労働に係る企業本社に対する指導」は2017年から実施ということになっているはずだが、少なくとも案としてはこの当時に提案されていたことになる。

「法違反是正のための公表の在り方の検討」では、法違反は認められるが送検しなかった事案の公表の在り方を検討するとしている。やはりその後どんな検討がされたのかは不明だが、やはり企業名公表制度が2015年5月から(2017年1月から強化)行われている。送検された企業名のHP掲載も今年5月から実施されている。

さらに「その他」として「長時間労働の抑制に重点を置いた全国一斉の監督」(2010年11月実施)というのが仕分け後の改革案に加わった。これも「若者への『使い捨て』が疑われる企業」への対策として「過重労働重点監督月間」を設けたことと類似している(2013年から)。

以上の内容を表にまとめるとこうなる。

 

省内事業仕分け・改革案(2010年)

近年の過重労働対策

学生に対する労働法教育

 

本省指揮の下、全国展開企業への監督実施

長時間労働に係る企業本社に対する指導(2017年~)

法違反公表のあり方検討

企業名公表制度

(2015年5月~、2017年1月から強化)。

送検企業のHP掲載(2017年5月~)

長時間労働に重点を置いた全国一斉監督

過重労働重点監督月間(2013年~)

 

事業仕分けで提示された改革案はすべて2010年ないし2011年に対応済みということだ。そう思うと昨今の「働き方改革」も、仕分け時の改革案に源流があるものも少なくないということがわかる。

この当時にトップダウンで大々的に進めていれば、と思わないでもない。

*1:たとえば申告監督と定期監督で業務量が違う、複雑化しているということを数字を用いて示そうとしている。こうした議論、資料も面白いと思うので、別の機会にまたブログに書こうと思う。