ぽんの日記

京都に住む大学院生です。twitter:のゆたの(@noyutano) https://twitter.com/noyutano

電通正式裁判はどれくらい珍しいか

 

電通労働基準法違反での略式起訴が「不相当」とされ、正式な裁判になったことがニュースになっています。

www3.nhk.or.jp

これについては佐々木亮弁護士の解説が分かりやすいので、載せておきます。

news.yahoo.co.jp

さて、この正式裁判、どれくらい珍しいことなのか。

佐々木弁護士が触れているように、2015年の略式事件47700件のうち「不能・不相当」は24件で、0.05% しかないとのことです。

 

これを別の角度から見てみたいと思います。労働局・労基署が送検した事件のうち、正式裁判になるのはどのくらいなのか、ということです。

厚生労働省が毎年発行している『労働基準監督年報』という資料があります。

残念ながら「不相当」の数は分からないのですが、裁判結果(正式裁判・懲役、正式裁判・罰金、略式命令、無罪)を把握することができます。

 

2015年で言うと、労働基準監督官が検察庁に送検したのが全部で966件。起訴件数が404件、不起訴件数が546件です(未済のものがあるため件数は一致しません)。

そして起訴された結果は、懲役が1件、正式裁判での罰金が3件、略式での罰金が400件、無罪0件です。なので正式裁判になるのがそもそも4件しかありません。無罰は0件ですが、そもそも半数くらいは起訴されないわけです。

 

では歴史的に見た場合はどうか。監督官が送検した事案の裁判結果をグラフにしたのが以下の図です。

f:id:knarikazu:20170714101340p:plain

圧倒的に略式が多いです。

(1965年を境にスパイクしていますが、「監督強化」の方針を打ち出すなど、監督行政の運用に変化があった年です。その辺の話は割愛します。)

70年代以降になると、正式裁判になるのは多くても30件に届きません。

 

そもそも送検にまでいたるような違反は、労働安全衛生法違反など、命に関わるようなものが多いと言われています。2015年では安衛法違反が550件で56.9%となっています。業種別では建設業が336件で全体の37.8%、製造業が241件で24.9%です。

なので違法な長時間労働労基法32条、35条、37条違反)で正式裁判になるのはもっと少ないはずです。

 

『労働基準監督年報』で主要条文別の裁判結果が分かるのは1972年までです。経費削減で年報の報告がすごく簡略化されてしまったせいでしょう。

労働時間関係で正式裁判になったのがどれくらいか見てみます。(正式裁判で罰金になった数を拾っています。懲役も少ないですがあります)

1950年 32条(労働時間)39件、34条(休憩)4件、35条(休日)30件、37条(割増賃金)8件

1951年 32条26件、34条1件、35条12件、37条3件

1952年 32条11件、35条2件、37条4件、39条(有給休暇)1件

1953年 32条7件、34条1件、35条4件、37条1件

1954年 32条10件、34条13件、35条5件、36条(時間外労働)1件、37条2件

1955年 32条5件

1956年 32条11件

1958年 32条3件

1959~1964年 不明(業種別には判明しますが条文別の結果は分かりません)

1965年 32条4件

1966年 32条2件

1967年 35条1件

1968年 35条2件

1969年 32条1件、35条2件

1970~1972年はありません。

 

半世紀以上前の数字なので、今とは状況が違うだろ、というのはそうなのですが、60年以降は違法な長時間労働で正式裁判になるのは、多くて年数件、おそらく70年代以降はもっと少ないでしょう。

ちなみに1965年に送検件数がぐっと増えますが、60条(18歳未満の労働時間)が目立つように思います。それぞれ1965年96件、66年100件、67年68件、68年71件、69年45件、70年10件といった感じです。

 

すでに「かとく」事案で3件が正式裁判となっていることを考えると、今後傾向が変わっていくのでしょうね。