なお条約と勧告の違いは
条約は、国際的な最低の労働基準を定め、加盟国の批准という手続によって効力が発生します。条約の発効には、通常2カ国の批准が必要とされます。批准国は、条約を国内法に活かすという国際的義務を負うことになり、廃棄(denunciation)の手続をとらない限り、たとえILOを脱退しても一定期間はその条約に拘束されます。
勧告は、批准を前提とせず、拘束力はありません。勧告は、加盟国の事情が相当に異なることを配慮し、各国に適した方法で適用できる国際基準で、各国の法律や労働協約の作成にとって一つの有力な指針として役立つものです。勧告は、事情が許せば、条約化する予備的な措置として採択される場合も多く、勧告に定める基準は、条約化のプロセスのための指針といえます。
最近は、同時に同テーマの条約と勧告を採択し、条約は原則的な規定を内容とし、詳細は勧告で規定する場合が多くあります。
1923年 労働監督勧告(第20号)
※1947年の労働監督条約(第81号) 採択後も有効とされている。
Ⅲ 監督の組織
C 監督の標準及方法
18 各事業場の大小及軽重に著しき差異の存すること、並工場の広く散在し村落的性質を有する地方に於て特殊の困難の存することを認むるも、監督官は、特定の異議の取調其の他の目的を以てする特殊の臨検の外、一般監督の目的を以て能ふ限り少くとも一年一回各事業場を臨検すべきを望ましとすること。又大なる事業場、労働者の健康及安全の見地より経営の不満足なる事業場並危険なる又は健康上有害なる工程の行はるる事業場は、一層頻繁に之を臨検すべきを望ましとすること。事業場に於て重大なる反則の発見せられたる場合に於ては、監督官は、該反則の改められたりや否やを確むる為短時日内に右事業場を再臨検すべきことを望ましとす。
少なくとも年1回、大事業場や有害作業のあるところはもっと頻繁に、と。
1947年 労働監督条約(第81号)
※日本:1953年10月20日批准
第一部 工業における労働監督
第10条
労働監督官の数は、監督機関の任務の実効的な遂行を確保するために充分なものでなければならず、また、次のことを考慮して決定しなければならない。
(a) 監督官が遂行すべき任務の重要性、特に、
(i) 監督を受ける事業場の数、性質、規模及び位置
(ii) それらの事業場で使用する労働者の数及び種類
(iii) 実施を確保すべき法規の数及び複雑性
(b) 監督官が使用できる物的手段
(c) 監督を実効的なものにするため臨検を必要とする実情
第16条
事業場に対しては、関係法規の実効的な適用の確保に必要である限りひんぱん且つ完全に監督を実施しなければならない。
第二部 商業における労働監督
第24条
商業的事業場における労働監督の制度については、この条約の第三条から第二十一条までの規定を準用する。
「ひんぱん且つ完全に」とはあるが、具体的な数には触れず。
2006年11月ILO理事会
日本労働弁護団や全労働省労働組合が監督官の数が少ないと批判するときに引用しているのが、2006年11月ILO理事会「Strategies and practice for labor inspection (GB297/ESP/3)」
「先進工業市場経済国では、労働監督官1人辺り最大労働者数1万人とすべきと考える」
原文の該当部分は多分これ。
the ILO has taken as reasonable benchmarks that the number of labour inspectors in relation to workers should approach: 1/10,000 in industrial market economies; 1/15,000 in industrializing economies; 1/20,000 in transition economies; and 1/40,000 in less developed countries. The chart in the appendix shows that many countries do not reach these benchmarks.
一方で、多くの国がこのベンチマークに届いていないとも。
労働基準監督官の数
|
日本 |
アメリカ |
イギリス |
フランス |
ドイツ |
|
監督官の数 |
約3,000人 |
約3,900人 |
約2,700人 |
約1,700人 |
約6,300人 |
約300人 |
監督官1人当たりの労働者数 |
約16,200人 |
約35,700人 |
約10,800人 |
約13,500人 |
約5,300人 |
約15,600人 |
出所)全労働「労働行政の現状」。原資料は厚生労働省作成/2016年10月
注)各国の雇用者数は、ILO LABORSTA(2009年11月現在)
なお2015年版『労働基準監督年報』によれば、事業場数は約412万か所。監督件数は定期監督、申告監督、再監督すべて合わせても約17万件。1年ですべての事業場を回るには監督件数を25倍くらいに増やす必要がある。逆に現在のペースだとすべての事業場を監督するのに25年以上かかってしまう計算。