ぽんの日記

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労基署による、生産計画への指導

労働基準監督署は、臨検監督の際、法違反を指摘する是正勧告だけでなく、指導・助言を行うこともある。

 

具体的には、

①法違反を是正するためにどういう措置を講じたらよいかを明らかにするもの(例、プレス機械に使用停止措置を講じただけでは事業者はどうしたらよいのか分からないので、ゲートガード式の安全囲いの取付、シートフィーダーの採用等を指導する)

②法律に規定されているものの義務規定ではなく、努力義務規定であるもの

③法令に規定されていない事項であっても良好な労使関係、より良い労働条件あるいは快適な安全衛生環境実現のために指導するもの(例えば、労働福祉向上のための指導(セクハラ、THP等))

(全労働省労働組合[1994]『労働基準行政職員の職務』p.20。見やすいように改行を入れた)

 

是正勧告が労基法関係法令に抵触するものに限られるのに対し、指導は法令に規定されていない事項に対しても実施されているというのが興味深い。

指導事項に関する統計資料はないようだが、過去の事例を参照できる。

 

1980年ごろ、主に共産党が主導して、「大企業黒書」運動というものが行われた。大企業の労働実態を調査・告発し、労働省労働基準監督署、県の労働部などに対処を求めたものだ。神奈川から始まり、他の県にも広がった。

注目されるのは、監督機関が企業の生産計画にまで言及する例があったことだ。

神奈川では、1981年2月神奈川労働基準局局長が「恒常的な長時間労働や年休取得を不可能とする出勤率を前提としている生産計画を、是正させる強力な指導を進めていく」と発言。「京都・西陣では劣悪な労働条件を恒常化させていた生産計画をも是正させてきた」と強調し、「生産計画には当然、出勤率や人員計画までふくむ」とし「あらゆる工夫をして生産計画の調査にあたりたい」と明言した。

静岡では、1981年に工場ごとの『黒書』運動の第一弾として鈴木自工磐田工場に対して、29項目の改善要請事項が申告された。82年2月、監督署が勧告5件、指導10件、助言3件を行ったことが公表されたが、労働時間の短縮については、国の方針に基づき生産計画の見直しを行い、その短縮に努めるよう指導されている。

同様に埼玉でも、県内23大企業の事業場に対して、25件の勧告、26件の指導がなされている。そのうちキャノン電子(秩父)に対しては、コンベヤーのスピードアップによる労働強化について是正指導をしている(ラインをスピードアップさせたことにより休憩時間が奪われているとの申告があった)。

 

労働基準監督署が企業の生産計画やコンベヤーのスピードに対してまで口出ししているというのは、不思議な気がする。しかし生産計画のあり方が労働条件に強く関係していることを踏まえてのことだろう。

そして、労働側による生産管理の規制というのは、本来労働組合が担うべきであるにもかかわらず、それが機能していないために労働基準監督署が身を乗り出さざるを得なかったことを示しているとも言える。

 

(参考)

小林豊「労基局が生産計画の是正指導も(「電機黒書」その後の闘い)」『労働運動』(194)、pp.44-50、1982

木村昭男「労働者の変化示した役選」『労働運動』(202)、pp.68-73、1982

秋元末光「憲法労基法無視の大企業を告発」『労働運動』(181)、pp.109-114、1981

――「51件にのぼる法違反勧告指導事項が……」『労働運動』(193)、pp.45-52、1982