ぽんの日記

京都に住む大学院生です。twitter:のゆたの(@noyutano) https://twitter.com/noyutano

大学の学費は出世払いにしたらどうだろうか

学費、奨学金の記事を続けて書きました。

 

kynari.hatenablog.com

kynari.hatenablog.com

 そのついでに、ざっくりとしたアイデアをメモしておこうと思います。

 

給付型奨学金もそうですが、大学の授業料無償化もにわかに話題となってきました。

 当然、財源はどうするのかという議論が巻き起こるわけですが。

 

大学教育が価値あるものであるなら、出世払いのような形で費用負担するのもアリなんじゃないかと思います。そう思ってたら、すでに以下のような記事がありました。

www.nikkan-gendai.com

ちょっと、自分の考えていたものとは違いますね。

「出世払い」として考えていたのは、在学中は授業料が無償。働き始めたあと、収入に応じて返済していくというイメージです。

 

で、収入に応じてというのは、簡単に言うと累進課税ですね。

大学無償化の恩恵を受けた世代は所得税を上乗せすれば良いということです。上乗せの仕方を累進的にして、低収入であれば上乗せはなしにすれば良いでしょう。

 

全ての世代の所得税を上げるとなると反発が生まれるでしょうから、無償化の恩恵を受けた人に限定します。たとえば、2020年から無償化が始まったと仮定するなら、その卒業後、2024年以降に働き始めた人が対象となる、といった感じです。

当然、高卒就職者には関係ない話ですので、大卒の人限定です。

 

つまり、授業料を無償化し、それ以降に就職した人に対して、学歴別に所得税の額を変えるということです。

大学教育に効果があるのなら(払った授業料以上に生涯所得を増やす効果があるのなら)、十分に帳尻が合うはずでしょう。

 

あくまで税金ですので、JASSOから厳しい取り立てを受けることもなくなりますし、収入が低ければ自動的に「返済猶予」「減額返済」などの措置が取られるということになります。(JASSOの奨学金は、「返済猶予」「減額返済」を適用してもらうには自分で申請する必要があり、その手続きも煩雑です)

 

最終学歴とその卒業年・就職年だけ分かればそうした税をかけることが可能だと思いますが、実務上どうなんでしょうかね。

奨学金と多様な人材

 前回のエントリーで奨学金の話をしました。

kynari.hatenablog.com

 ところで、JASSO(旧日本育英会)の奨学金には、教員や研究職と就職すれば返済が免除される制度がかつてありました。2004年に日本育英会からJASSOに組織が変わった時に廃止されてしまいましたが……

 

こういう大学の学費や奨学金問題については、人文社会科学系の学者がもっと声を上げるべきだと思います。

 

自然科学だとわりと話を聞くような気がします。最近はノーベル賞受賞者が基礎研究の重要さを訴えるのが恒例みたいになっているような。奨学金などの形で、若い研究者を支援する仕組みをつくろうとか。

www.huffingtonpost.jp

www.asahi.com

文系学問だと自然科学系より研究費はかからないでしょうが、それでも学生にしてみれば経済的支援が重要なのは変わりません。大学院生・ポスドク向けアンケート調査をちょっと見た記憶がありますが、博士課程進学の際のもっとも大きな悩みは経済問題だったと思います。

 

経済的問題で進路が制約されるということは、その職に就く人たちの社会階層に偏りが生じるということです。大袈裟に言ってしまえば、カネ持ちしか研究者になれないということです。

研究者層が一部の階層に偏ってしまうことが良いことだとは思いません。

社会政策とか福祉とか、そういった分野に携わる学者の研究は、国の政策立案に関係してくるはずです。ジェンダー、出身地などに大きな偏りが存在すれば、労働政策、社会保障、地域政策などの議論が歪んだものになる懸念は強くなるでしょう。

 

「優秀な人材」を、というだけでなく「多様な人材」を、ということが大事なはずです。

今野晴貴『ブラック奨学金』

今野晴貴『ブラック奨学金』読了

 

ブラック企業、ブラックバイト、ブラック士業とさまざまに問題提起をなさってきた今野さんですが、今度はブラック奨学金です。

 

ブラック奨学金 (文春新書)

ブラック奨学金 (文春新書)

 

 

奨学金がその名に反してブラックになってしまっている現状が伝わってきます。読みやすい本なので、興味のある方は読んでみてください。

 

3か月の延滞で「ブラックリスト」に載り、9か月を超えると延滞分だけでなく元本を含めた全額の一括請求が求められる。延滞が生じると、返済が延滞金、利息、元本の順に充当されていく。元本がなかなか減らないので「延滞金地獄」に陥る。

減額返還、返還期限猶予などの救済制度は一応あるものの、JASSOの「恩恵的措置」に過ぎない。減額返還はすでに延滞している人はそもそも使えない。どんなに収入が低くとも、返済総額が変わるわけではなく、支払いを先延ばしにするだけである。そしてこういった制度が非常に使いにくい。申請主義を取っているので、自分で申し出なければ制度の存在すら十分に説明してもらえない。手続きは煩雑だし、元号で書くべきところを西暦で記入しただけでも申請書が送り返されてくる

そもそも日本は学費が高いくせに奨学金が充実していない。給付型奨学金がほぼ存在しないし、無利子の第一種奨学金基準を満たしているのに借りられない学生が2.4万人もいる。

 

ちっとも教育や福祉のようでない。重要なことはたとえ優秀な学生であったとしても、経済的支援が全く不十分だということです。こんな状況では次世代の人材が育成されていくはずがない。それが「ブラック奨学金」と強い訴えにつながっているわけです。

(ところで、本書以外も含めてだと思いますが、「返済」ではなく「返還」という表現を用いていますね。JASSOの言い方に従っているのだと思いますが、奨学金はローンなので、実感としては「返済」と言ったほうがしっくりくるでしょう)

 

本書の不満を少し述べるなら、なぜ日本の教育政策だけこうも異常なのかということ。そこにもっとつっこんでほしくはあります。まあ、新書なのでそこまで詳しく書けないかもしれませんが。

他の先進諸国では学費が安かったり、給付型の奨学金が存在するわけです。(先進諸国というか韓国やチリにも後れを取っているということなのですが)

で、大学の運営コストが日本だけバカ高いなんてことはないと思うので、他の国では税金などで社会的にその教育費用を負担しているということです。

ということは、大学にそれだけお金をかけてもペイできると、そういう考え方に立っているのだと思うのです。

 

では、ひるがえって日本の大学の現状はどうか。ペイできるだけの教育を行っているのか。社会がそこまで大学教育に価値を認めているか。学費の公費負担を世間がどこまで許容するか。

そういったことが問われているような気がします。

 

では、どう監督対象を選定するのか

厚労省が「長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果」を公表した。

 

ヤフーニュースの配信(産経新聞)

 

 それに対する今野晴貴氏のオーサーコメント(抜粋)

ただ、気になるのは重点監督がされている事業所の産業。製造業が24.1%で最も多く、その次が運輸交通業の16%、商業の13.9%と続く。ブラック企業が多いと思われる接客娯楽業は6.1%に過ぎない(接客娯楽業の違法割合はもっとも高く、監督した事業所のうち77.9%に上る。

いずれにせよ、限られた人員で労基署がどこかを重点監督するということは、別のところに穴があくか、職員が過労になるということ。成果を強調することもよいが、人員の拡充もすべきだろう

 

人員の拡充には賛同する。しかし限られた人員で対応しなければならない現状のもと、どう監督対象を絞ればよいのか。

今回「長時間労働が疑われる事業場」として監督の対象となっているのは、時間外労働が月80時間を超えていると思われるすべての事業場である(これまでは月100時間だった→参照)。

 

たとえば、11月に行われている「過重労働解消キャンペーン」では、以下が監督対象となっている。

① 長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場等

労働基準監督署及びハローワークに寄せられた相談等を端緒に、離職率が極端に高いなど若者の「使い捨て」が疑われる企業等

 

後述の理由からここでは2015年11月の数字を確認する(参照)。

業種別に見て最も多いのは、製造業の33.4%。次いで商業の18.3%、その他の事業11.9%となっている。接客娯楽業は6.7%だ。(1ヶ月の監督実施事業場数は5,031)

別に「長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場」に対する2015年4~11月の監督実施状況も公表されている(件数は471件と少ないが)。それによれば運輸交通業19.7%、製造業、その他の事業がそれぞれ15.3%、商業が15.1%だ。接客娯楽業は7%とやはり少ない。

 

ブラック企業が社会問題化して以降、最初の集中的な取り組みは2013年に「若者の『使い捨て』が疑われる企業等」を対象にしたものだと思われる。このときは9月を「過重労働重点監督月間」として5,111件の監督を実施した。

業種別にみると製造業29.4%、商業19.3%、運輸交通業11.2%である。接客娯楽業は7.5%だ。そのうち「離職率」を勘案して監督対象を選定したものは122件と少ないが、その内訳は商業36.1%、その他の事業36.1%、教育・研究業10.7%。接客娯楽業は7.4%となっている。

 

まとめると、残業時間、労災請求、離職率、いずれの指標を取っても接客娯楽業は7%程度となっている。いくら「ブラック企業が多いと思われる接客娯楽業」が少ないと言っても、監督署は一定の判断基準をもとに監督対象を選定してこの結果となっているのである。とくに今年の監督結果で言えば、月80時間超の時間外労働の疑いがあるところはすべて対象となっているのだから、その点に関して偏りはないはずである。

 

もちろん、ブラック企業に限らず全事業場を監督すべきというのもひとつの意見だろう。現状の監督実施率だと、すべての事業場を回るのに20~30年もかかってしまう。人員体制を充実すべきだとは思うが、短期的に実現できる話ではない。

全事業場を監督するのが望ましいというのは、健康な人も健康診断を受診して予防しようとするような感じだろうか。今の実態としては、違法な企業等に対してしか監督できていない。

 

効率性という意味では、規模別の結果に注目したい。

長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果」を見ると、大企業の構成割合が相対的に高い。国内の事業場の数から言えば、中小零細が圧倒的に多いのだが、監督結果は大企業に重点的に監督しているのである。大企業に監督指導に入れば、少ない監督件数でより多くの労働者をカバーできることにつながっているはずである。

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たしかに月80時間超のすべての事業場に監督できているのかは、ちょっと疑わしい気もする。「過労死等に関する実態把握のための社会面の調査研究事業報告書」によれば、「平成26年度で1か月の時間外労働時間が最も長かった正規雇用従業員の時間外労働時間」が80時間超と回答している企業は全体の22.7%。情報通信業の44.4%が最も高く、学術研究・専門・技術サービス業、運輸業・郵便業が続く。

日本全体で約400万事業場くらいあるので2割だと80万、1割でも40万か所くらいにはなる。それに対して重点監督として実施したものは約2万3千件。おそらく疑いのあるところすべてを回れていないと思われる。

 

 

なお余談として、2013年の「若者の『使い捨て』が疑われる企業等」への重点監督では「監督指導の結果、法違反の是正が図られない場合は、是正が認められるまで、ハローワークにおける職業紹介の対象としない」となっている。

ハローワークが求人を不受理にする制度は、新卒求人に対しては2016年3月1日から、すべての求人に対しては2018年1月1日から始まる予定(職安法改正が成立)だが、その先駆けと言えるだろう。

 

求人不受理のしくみについては、以下の記事がわかりやすかった。

www.mesoscopical.com

www.mesoscopical.com

 

 

 

 

減少する労働基準監督署

監督官の数と比べると、監督署の数そのものは比較的議論になっていませんが

監督署の数がどう推移してきたのか、グラフを作ってみました。

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『労働基準監督年報』から数字を拾ってますが、抜けとかがあるかもしません。(グラフの下限が0でないことに注意)

 

2016年だと労働基準監督署は全国に321ヶ所、支署が4つあります。2000年代初めから大きく数を減らしています。ハロワとともに再編整理が進んでいて、その影響かと思います。

 

なお60年代~70年代は全体の数は大きく変わっていませんが、「方面制」のところが増えています。

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方面制署は所管エリアをいくつかの方面に分けて、それぞれに主任監督官を置くというものです。主任監督官は課長職相当の扱いだったと思いますが、それが監督体制の充実につながっているのかどうかは検討の余地があるようです。役付の監督官が増えても、現場に出る監督官が増えるとは限りませんから。

某公立大学に資料調査に行った話

研究の都合で、某公立大学の図書館を訪れたときのこと。

見たい資料が近くだとそこにしかなかったのですが、どうも他大学の利用者には管理がうるさいようで、セルフコピーはできないと。代行コピーとなり料金は1枚40円。

国立国会図書館の複写料金も安くはありませんが(A4/B4、1枚25.92円)、それ以上の料金。

 

あと、著作権切れの資料であるにも関わらず、コピーは全体の半分以下と言われました。貴重な資料を外部の人にあまり使ってほしくないのかと思った。

理由を聞いてみると、本自体の著作権が切れていても、たとえば写真などが載っているなどして権利関係が複雑だったりするので、全範囲の複写を原則として認めていないということでした。・・・正直、そんなことあるのかと思ってしまった。

 

全ページをコピーしたい場合は、“前頁複写願”のようなものを所属の図書館から許可を得て提出する必要があるということです。

本学の図書館は嫌な顔するけど、経済図書館なら許可出してくれるかも、みたいなことも言ってました。

労働基準監督官の適切な数とは

ILO条約・勧告を主に見る。(参考→こちら

なお条約と勧告の違いは

条約は、国際的な最低の労働基準を定め、加盟国の批准という手続によって効力が発生します。条約の発効には、通常2カ国の批准が必要とされます。批准国は、条約を国内法に活かすという国際的義務を負うことになり、廃棄(denunciation)の手続をとらない限り、たとえILOを脱退しても一定期間はその条約に拘束されます。

 

勧告は、批准を前提とせず、拘束力はありません。勧告は、加盟国の事情が相当に異なることを配慮し、各国に適した方法で適用できる国際基準で、各国の法律や労働協約の作成にとって一つの有力な指針として役立つものです。勧告は、事情が許せば、条約化する予備的な措置として採択される場合も多く、勧告に定める基準は、条約化のプロセスのための指針といえます。

 

最近は、同時に同テーマの条約と勧告を採択し、条約は原則的な規定を内容とし、詳細は勧告で規定する場合が多くあります。

国際労働基準(基準設定と監視機構) (ILO駐日事務所)

 

1923年 労働監督勧告(第20号)

※1947年の労働監督条約(第81号) 採択後も有効とされている。

Ⅲ 監督の組織

C 監督の標準及方法

18 各事業場の大小及軽重に著しき差異の存すること、並工場の広く散在し村落的性質を有する地方に於て特殊の困難の存することを認むるも、監督官は、特定の異議の取調其の他の目的を以てする特殊の臨検の外、一般監督の目的を以て能ふ限り少くとも一年一回各事業場を臨検すべきを望ましとすること。又大なる事業場、労働者の健康及安全の見地より経営の不満足なる事業場並危険なる又は健康上有害なる工程の行はるる事業場は、一層頻繁に之を臨検すべきを望ましとすること。事業場に於て重大なる反則の発見せられたる場合に於ては、監督官は、該反則の改められたりや否やを確むる為短時日内に右事業場を再臨検すべきことを望ましとす。

 

少なくとも年1回、大事業場や有害作業のあるところはもっと頻繁に、と。

 

1947年 労働監督条約(第81号)

※日本:1953年10月20日批准

第一部 工業における労働監督

第10条

労働監督官の数は、監督機関の任務の実効的な遂行を確保するために充分なものでなければならず、また、次のことを考慮して決定しなければならない。

 (a) 監督官が遂行すべき任務の重要性、特に、

  (i)  監督を受ける事業場の数、性質、規模及び位置

  (ii)  それらの事業場で使用する労働者の数及び種類

  (iii) 実施を確保すべき法規の数及び複雑性

 (b) 監督官が使用できる物的手段

 (c) 監督を実効的なものにするため臨検を必要とする実情

第16条

事業場に対しては、関係法規の実効的な適用の確保に必要である限りひんぱん且つ完全に監督を実施しなければならない

 

第二部 商業における労働監督

第24条

商業的事業場における労働監督の制度については、この条約の第三条から第二十一条までの規定を準用する。

 

「ひんぱん且つ完全に」とはあるが、具体的な数には触れず。

 

2006年11月ILO理事会

日本労働弁護団や全労働省労働組合が監督官の数が少ないと批判するときに引用しているのが、2006年11月ILO理事会「Strategies and practice for labor inspection (GB297/ESP/3)」

「先進工業市場経済国では、労働監督官1人辺り最大労働者数1万人とすべきと考える」

 

原文の該当部分は多分これ。

the ILO has taken as reasonable benchmarks that the number of labour inspectors in relation to workers should approach: 1/10,000 in industrial market economies; 1/15,000 in industrializing economies; 1/20,000 in transition economies; and 1/40,000 in less developed countries. The chart in the appendix shows that many countries do not reach these benchmarks.

http:// http://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---ed_norm/---relconf/documents/meetingdocument/wcms_gb_297_esp_3_en.pdf

 

一方で、多くの国がこのベンチマークに届いていないとも。

 

f:id:knarikazu:20170723114608p:plain

 

労働基準監督官の数

 

日本

アメリカ

イギリス

フランス

ドイツ

スウェーデン

監督官の数

約3,000人

約3,900人

約2,700人

約1,700人

約6,300人

約300人

監督官1人当たりの労働者数

約16,200人

約35,700人

約10,800人

約13,500人

約5,300人

約15,600人

出所)全労働「労働行政の現状」。原資料は厚生労働省作成/2016年10月

注)各国の雇用者数は、ILO LABORSTA(2009年11月現在)

 

なお2015年版『労働基準監督年報』によれば、事業場数は約412万か所。監督件数は定期監督、申告監督、再監督すべて合わせても約17万件。1年ですべての事業場を回るには監督件数を25倍くらいに増やす必要がある。逆に現在のペースだとすべての事業場を監督するのに25年以上かかってしまう計算。