コンビニに対して労基署が行った監督結果のまとめです。
続きを読む東京労働局による過労死等発生事業場への監督
東京労働局は、過労死を出した事業場への監督結果を報道発表しているようですね。
過労死等を発生させた事業場への監督指導結果(平成27年度)を公表します | 東京労働局
東京都内において、「過労死・過労自殺など過重労働による健康障害を発生させたとして労災申請が行われた事業場」を対象にしています。
ただし2011年度以前は「不適切な労働時間管理・健康管理を原因として、過労死や過労自殺など過重労働による健康障害を発生させ、労働基準監督署長が労災認定を行った」となっています。
つまり2011年度までは労災認定、それ以降は労災申請が行われた事業場ということですね。
過去の監督結果をまとめてみるとこんな感じになりました。
これは事業場規模別に監督実施件数の推移を見たものです*1。絶対数でみると、大企業より中小零細のほうが過労死等の発生件数が多くなっています。
違反率はなんらかの法違反が発覚した割合(グラフ右軸)です。
違反として多いのは労働時間(32、40条)と割増賃金不払い(37条)です。前者は毎年6~7割ほど、後者は3~4割、多い年で6割です。一貫して前者の違反率のほうが高くなっています。
サービス残業の違反より労働時間の違反が多いのは、一般の定期監督と同様の傾向と言えます。(以前書いた記事→労働時間の違反率の推移 - ぽんの日記)
とはいえ、過労死等を発生させている事業場だけあって、違反率は高くなっています。
しかし逆に言えば、過労死等を出した会社であっても1割ほどは法違反が見つからなかったということでもありますし、サービス残業をやっていない会社でも過労死等が発生しているということでもあります。
もちろん、違反が見つけられなかっただけで実態は違う可能性もありますし、合法的に長時間労働をさせることが可能になってしまえば、もっと違反率は下がることになるでしょう。
ちなみに今回、業種別等ではなく事業場規模別にグラフを作成してみたのは、労基法の規制強化について中小企業に特例や猶予措置が付けられると見られているからです。
中小企業のほうが経営体力がないのは事実かもしれませんが、労働者保護という点を考えたとき、より必要性が高いのはどちらなのかという視点を欠いてしまうのは本末転倒な気がします。
発生率という視点だと…
絶対数でなく割合で見たらどうなんだということで、過労死等の発生率ということで考えてみたいと思います。
会社の数全体からすれば過労死等が発生した事業場は少数なので、あくまで参考ということで。
東京都統計年鑑の事業所数と従業員数のデータを利用しました*2。規模別の過労死等発生事業場数を規模別の事業所数(従業員数)で除して、発生率を計算します。
分子が小さくなるため規模300人以上の発生率を100としました(リスク比のようなものですね)。
前述したように2011年度以前は労災認定、2012年度以降は労災請求のあった事業場数です。労働基準法適用事業場と経済センサスの事業所の概念はイコールではないと思いますが概算だと思ってください。
事業所数比
従業員数比
分子となる数が小さいので、やはり年によってバラツキがあります。とはいえ、従業員数比で見れば、小規模事業所のほうが過労死等の発生リスクは高いと言えるのではないかと思われます。一方で、事業場数比で見ると、大規模事業所のほうが発生リスクは高くなっています。
個々人のリスクという視点で見ると小規模のほうが過労死等のリスクは高めですが、大規模事業所のほうが人数が多いため、「会社の誰かが過労死するリスク」は大企業のほうが高くなるということです。
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2016年版『労働基準監督年報』比較
労働基準監督年報の最新版(2016年)がアップされました。
年度末(3月末)に前年度のものを公表することが続いているようなので、2年前の気がしますが、2016年版が最新年となります。
ただ、行政運営方針は年度ごとに策定されますが、付属の統計表は暦年集計だと思われますので、少々ややこしいですね。
折角なので、前年の監督年報とどう変わったのか比較してみました。
第2節「労働条件対策の推進」の部分では「働きすぎ防止のための取り組み強化」が「長時間労働是正のための取り組み強化」となりました。内容としては新たに始まった施策が加わっています。
一方で「4 学生アルバイト~」は独立した項目ではなくなってしまいました。この部分はブラックバイト問題などを受けたものだと思われ、2014年の年報には記載がありませんでしたが、2015年版になって記載されました。しかし2016年版は「3 若者の~」の部分と一緒になり、記述の分量的にも短くなっています。
そのほか2015年版では「労働時間対策」が第5節に設けられていましたが、2016年版では削除されています。同様の内容を第2節の部分に整理したのだと思われます。
大きな変化はこの辺りでしょうか。
野村不動産の「特別指導」の件 覚書
「特別指導」と現行の公表制度
野村不動産の件は企業名公表制度とはそもそも別案件ではないかという話。
現行の公表の枠組みはこれ。
違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について
このなかで公表するとされている内容は以下の4点です。
ア 企業名
イ 長時間労働を伴う労働時間関係違反の実態
ウ 局長から指導書を交付したこと
エ 当該企業の早期是正に向けた取組方針
野村不動産の件で問題となるのはイの部分。ここに「裁量労働制の違法」や「労災認定」は含まれないように思われます。
先の通達では「労働時間関係違反」を次のように定義しています。
労働基準法第32・40条(労働時間)、35条(休日労働)又は37条(割増賃金)の違反(以下「労働時間関係違反」という。)
裁量労働制や事業場外みなし労働時間制は38条(時間計算)の条文です。時間外労働協定(36協定)の36条についても上記の「労働時間関係違反」には入っていません。
もっともこれは単に違法条文のカウントの仕方の問題と思われます。36協定は32条の面罰規定ですので、36協定違反があった場合は36条違反ではなく32条違反で処罰されているはずです。裁量労働制の違法適用があったとしても32条や37条で処理されているのだと思います。
「労働基準監督年報」の「定期監督等実施状況・違反状況」でも36条や38条の違反件数は計上されていません*1。
では、裁量労働制の違法適用があって32条や37条違反となった場合に、裁量労働の違法があったことは公表されるのでしょうか。
先の通達の中ではその点について書いていないのではっきりしません。「32・40条(労働時間)、35条(休日労働)又は37条」しか公表できないのであれば、裁量労働制については公表できないような気がします。
この企業名公表制度で最初に公表された事例は株式会社エイジスです。
その際の公表内容は以下の通り。
「違法な長時間労働を複数の事業場で行っていた企業に対し千葉労働局長が是正指導をしました」
当時の公表基準である「1か月当たり100時間」超の労働者数が掲載されています。「違反の実態」とは公表基準に関しての実態だということでしょう。
そのため裁量労働制の違反があったかどうかは、基準とは直接には関係ないので*2、公表されないのではないかと思われます。
もう一点、労災認定に関してですが、公表基準では以下のようになっています。
過労死に係る労災支給決定事案の被災労働者について、①1か月当たり80時間を超える時間外・休日労働が認められ、かつ、②労働時間関係違反の是正勧告を受けていること。
ここでも基準になっているのは「長時間労働」です。裁量労働が違法適用されていたかどうかではありません。
ですから仮に労災が公表されるとしても、その内容は「被災労働者の労働時間」に留まるのではないでしょうか。もちろん、その背景としては裁量労働制の違法適用があるわけですが。
また公表内容は「イ 長時間労働を伴う労働時間関係違反の実態」となっているので、労災認定がなされたかどうかは公表内容ではありません。もっとも「過労死に係る労災支給決定事案の被災労働者」の労働時間の実態を公表するということは、事実上労災認定を公表するということになるでしょう。
しかし長時間労働が過労死ラインに満たなくても、過労死の労災認定がなされることはありうる事態です*3。
ということは労災認定がなされたとしても「長時間労働を伴う労働時間関係違反」が無いこともありうるわけです。その場合には、現行の公表制度では労災認定は公表されないということになります。
つまり現行の企業名公表制度では、裁量労働制の違法も労災認定も、どちらも直接的には公表内容とはなっていないのではないかと思います。それにもかかわらず裁量労働の部分についてだけ公表してしまったのが「特別指導」だったのではないでしょうか。
是正勧告を認めない理由の報道
どう考えても「特別指導」を公表した段階で是正勧告の公表もしているはずなのに、加藤厚労大臣がそれを否定しています。
その理由についての報じられ方を見ると
公表を認めないのは、認めてしまうと野村不動産への調査の端緒となった過労自殺についても説明を求められ、安倍政権が今国会の目玉とする働き方改革関連法案の国会審議が滞ることを懸念しているためではないか、と野党はみている。
野党は「特別指導の背景には過労自殺があったのでは」との質問を繰り返しており、重大な労災事案に対して行われる是正勧告をしたことを公表すれば、過労自殺があったのではとの疑念が深まる。また、安倍首相や加藤厚労相は特別指導の発表時に過労自殺を知らなかったという趣旨の答弁を国会でしているため、厚労省からの報告の有無も含めて追及が激しくなることが予想される。
毎日新聞2018年4月6日朝刊「東京労働局長:きょう招致」
是正勧告と労災を結びつけているようですが、是正勧告は法違反があった場合の行政指導です。労災認定とは関係ありません。完全に合法的な働かせ方をしていたとしても、労災が発生することは考えられます。
(是正勧告についてはこちらに書きました。是正勧告と指導の違い - ぽんの日記)
是正勧告の公表を認めない方向に転じたのは、「特別指導」が公表基準に該当しないのに公表してしまったのを、今になって取り繕っているからではないでしょうか。
だが、厚労省は先月28日、加藤氏が特別指導について事前報告を受けた際の資料をほぼ黒塗りにして国会に提出した。「公表した是正勧告の部分は開示すべきだ」と迫る野党に、厚労省が持ち出したのが「公表していない」との主張だった。
前掲朝日新聞
是正勧告は通常公表しないわけです。その例外として公表基準に該当するもののみ公表しているわけです。
「特別指導」を公表する際にプレスリリースなどの正式な発表資料を出さなかったのは、公表基準に合致しないことを自覚しているからではないでしょうか。そして基準に該当しないという事実は今でも変わっていないので、野党から求められても文書で是正勧告の事実を認めようとしていないのではないかと思います。厚労省が文書ではっきり開示してしまうと、是正勧告は原則公表しないというこれまでの姿勢との一貫性を問われますから。
「2OUT」案件なのか
野村不動産の件が「2OUT」案件に該当するのかという点について追記です。
ご教示いただき、ありがとうございます。
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) 2018年4月6日
野村不動産がこの「2OUT」案件だったのではないかという疑問については、どう思われますか。
「新宿労働基準監督署(同)が把握した男性の残業は、15年11月後半からの1カ月で180時間超。長時間労働が原因で精神障害を発症し、自殺に至ったとして労災が認められた。労働時間の管理は自主申告に委ねられていて、申告された時間は実際の労働時間より大幅に少なかったという。」*4と報道されていますので、1OUTは確実ですね。上記図で言えば「②+」の要件に該当します。
申告された時間が大幅に少なかったということは、仮に36協定の範囲内であっても割増賃金違反になるはずです。
ほかがちょっとよく分かりません。報道を見落としているだけかもしれませんが、単に裁量労働制の違法適用というだけでは要件に該当しませんから。
長時間労働が被災者のみであったならば、①に該当しない可能性もあります。ただ被災者は180時間超の時間外があったとのことですので、他の労働者にも一定残業があったことは推測されます。
野村不動産は本社と地方4事業場に是正勧告を受けているので「3OUT」案件の可能性もあるでしょう。
いずれにしろ、どれくらいの長時間労働があったのかはっきりしないと、「2OUT」「3OUT」の公表基準に該当していたかどうかが不明です。
もし該当していないなら、そもそも公表すること自体に無理筋だったということです。
もし該当しているなら、該当しているという事実を伏せたまま都合の良い部分だけ公表したということになります。
つまりどちらにしろ恣意的です。
「是正勧告してあげても」が威圧発言になる不思議
今年3月30日に行われた勝田東京労働局長と記者のやりとり(一部抜粋)
是正勧告したというのが、黒塗りになっているのはおかしいということですね。
鈴木部長「おかしいかどうかは分からない」
「通常は、是正勧告しても言えないです」
――中身については、あのとき言ってなかったですけど。したということ自体については言ってたんですよ。
「何なら、皆さんの会社に行って、是正勧告してもいいんだけど。各社も」
――それはどういう意味ですか。
「多くのマスコミでも違反が無いわけではないのでね」
この発言の問題点についてはすでにいくつか指摘されています。
監督行政の中立公正さを歪めた東京労働局長発言の重大さ~直ちに職を辞して謝罪すべき~(嶋崎量) - 個人 - Yahoo!ニュース
この強力な権限をもつ組織の大幹部が、取り締まられる可能性のある対象者(報道機関)に対して、取り締まられたくなかったら黙っていろと、脅しをかけた発言としか捉えられないのが、今回の発言だ。
「是正勧告してあげても」との東京労働局長の発言は、野村不動産に対する特別指導をめぐる真相追及への圧力(上西充子) - 個人 - Yahoo!ニュース
この3月30日の東京労働局の定例記者会見は、野村不動産における過労死が報じられて以降、初めて行われた定例記者会見であったという。そのため、この間の疑問点が記者団から次々と投げかけられ、それを封じるような形で問題の恫喝発言があったのだ。
許される発言でないのはその通りです。
ここではこの発言の意味を以下の2点について考えたいと思います。1つはそもそも是正勧告や企業名の公表について、厚労省は建前の上では制裁としていない点。もう1つはこの発言が記者(労働者)に対してなされた点。
建前上は制裁ではない
まず是正勧告ですが、これは行政指導であって、行政処分ではありません。非権力的行為、事実行為です。したがって強制力はなく、会社側の任意の協力を前提としています。
会社は是正勧告に従う義務はなく、行政処分ではないので取消訴訟もできません。是正勧告の取り消しを求めた訴訟は却下されています。
一般に是正勧告というのは労働基準監督行政を実施した際に発見された法違反に対する行政指導上の措置であるに止まり、勧告を受けた者が自主的に是正することを、右是正勧告をした労働基準監督官として当然期待するであろうが、たとえ、勧告に従った是正をしないにせよ、何らの法的効果を生ずるものではないことが認められる。
しかして、行政事件訴訟法3条の抗告訴訟の対象たる行政処分とは、当該処置がそれ自体において直接の法的効果を生ずる行為、すなわち直接に国民の権利自由に対する侵害の可能性のある行為に限られると解されるから、本件是正勧告は抗告訴訟の対象とならない
(橋本商事是正勧告取消請求事件 福井地判 昭和45・9・25)
先般の規制改革推進会議「労働基準監督業務の民間活用タスクフォース」においても、監督指導は制裁ではないと述べられています。
労働基準監督官の行う監督指導は、違法な事業主に制裁を加えることではなく、労働基準法に違反する労働実態を是正させ、将来にわたって労働者が安心して働けるような適正な労働環境を確保することが目的である。
制裁ではないというのは企業名公表に関しても同様の見解です。
なお、当該公表は、その事実を広く社会に情報提供することにより、他の企業における遵法意識を啓発し、法令違反の防止の徹底や自主的な改善を促進させ、もって、同種事案の防止を図るという公益性を確保することを目的とし、対象とする企業に対する制裁として行うものではないこと。
それは今回の特別指導においてもそう発言されています。
厚労省の土屋喜久審議官は、野村不動産に特別指導をして公表した理由を「同じことが他社で起きてはならない。異例だが特別な指導という考え方をとり、日頃であれば申し上げていない指導を公表した」と説明した。
(朝日新聞2018年3月7日朝刊「野村不動産への特別指導は2例目 昨年末 前例、電通のみ 公表は初、異例の対応」)
つまり公表するのは同種事案の防止を図るのが目的であって、決して企業に対する制裁なのではありません。
発言が威圧になる理由
もうひとつ気になるのは、これが記者(労働者)に対してなされた点です。労働者に対して「是正勧告してもいいんだけど」と発言することが威圧になるというのは、事実としてはそうかもしれませんが、ちょっと面白いと思います。
労働基準法はもともと労働者保護法の位置づけです。「労働者保護」という表現が適切なのかという意見もあるので、ちょっと古い言い方かもしれませんが。
それでも労働基準法が立場の弱い労働者のためにあるのは事実でしょう。労使対等が原則ではありますが、労働者に不利な条件になりすぎないように最低基準を定めているのです。
ですから法違反が是正されることは、本来労働者の利益となるはずです。
報道各社のトップや幹部に対して「是正勧告するぞ」と言うのが脅しになるのなら分かりますが、現場の記者に対してこう発言することが脅しになるというのは不思議です。
記者の側から「ぜひやってください」って言われたら応じてくれるのでしょうか。
そうならないことが分かって発言しているのでしょうから、ホンネが透けて見えます。
したがって「是正勧告してあげても」の発言は、建前上制裁ではない言ってきたはずの是正勧告や企業名公表を威圧手段に用いており、しかもこう発言すれば労働者であるはずの記者が黙るだろうと考えている点で、すごく倒錯した発言に思えます。
東京労働局のトップの発言として適切とは思えません。
野村不動産への「特別指導」(続き)
なるほど、なんとなく分かってきた。
昨日書いたエントリー(是正勧告と指導の違い)では、なぜ違法があったと発表したのに是正勧告したことを認めたくないのかを、「指導」と「是正勧告」の違いから考えようとしましたが、そういうことじゃないようです。
「特別指導」の公表自体が根拠のない異例のことで、しかも労災認定があったことまで発覚してしまったから、ますます恣意的だったことになる。それで「特別指導」の公表そのものを曖昧に誤魔化そうとしている、といったところでしょうか。
つまり、勝田東京労働局長の記者への恫喝発言以前に、野村不動産への特別指導自体が、「やってはいけないこと」だったんです。
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) 2018年4月4日
根拠規定もなく特別指導を行なって企業名を公表することは、公平公正中立を旨とする行政としては、やってはいけなかった。けれど法改正のためにやってしまった。
違法があったのだから、是正勧告は当然、やってもいいんです。けれど是正勧告も通常は公表していないのなら、公表基準に合致しない限り公表してはいけなかった。
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) 2018年4月4日
けれど裁量労働制の拡大のために政府は公表したかった。
そこで「特別指導」と名目をつけて公表した。
昨年の報道について
昨年の報道では各紙が野村不動産への特別指導を報じました。以下の記事ではすべて「特別指導」の語が出てきます。
2017.12.26 夕刊「野村不動産:裁量労働制を不正適用 東京労働局、特別指導」
2017.12.27 朝刊「残業代未払い:野村不動産に是正勧告 「裁量労働」不当適用」
2017.12.26夕刊「野村不動産に是正勧告 残業代未払いも 裁量労働制で不正」
2017.12.27朝刊「裁量労働、営業に違法適用 野村不動産に是正勧告」
読売新聞
2017.12.27朝刊「裁量労働を不当適用 残業代未払い 野村不動産に是正勧告」
ただ、「特別指導」というのがどういうものなのかについては報道ではよく分かりませんでした。東京労働局のHPにも記載されていません。
全社的指導
報道では
不動産大手の野村不動産の本社(東京)や関西支社など全国4拠点に対し、各地の労働基準監督署が是正勧告をしたと発表した。宮嶋誠一社長に対し、是正を図るよう25日付で同労働局長から特別指導もした。
(朝日新聞2017.12.27朝刊)
とあります。
経営トップに対する指導であるので、行政指導段階での企業名公表制度なのかとも思いました。(ブラック企業の企業名公表制度について - ぽんの日記)
この公表制度のもとでは、局長による経営トップによる指導が行われることになっています。(平成29年1月20日付け基発0120第1号)
ただ、「80時間超の違法な長時間労働」などについては報じられていないので、この仕組みによる要件を欠くようにも思います。東京労働局のHPにも特に発表はありませんでしたので、その点はもやっとしていました。
ちなみに労基署の監督指導は企業単位ではなく、事業場単位で実施されます。事業場というのは工場や事務所などの独立した単位ということです。
しかし大企業の場合には複数の事業場で同様の労働条件で働いていることも珍しくありません。事業場単位の監督ではなく企業全体に監督したほうが効率的なことも多いので、企業単位監督というのが新たな監督手法として導入されました。
企業単位で監督を行い、全社的に是正を図る監督は2010年度に東京・大阪で試行的に実施され、2011年度からは全国的に導入されています。*1
ところで「過労死等ゼロ」緊急対策では、「企業本社に対する指導」は2017年度から新たに始まったことになっています。……じゃあ2011年度に導入された仕組みは何?
しかしいずれにしろ、全社的に是正指導を行う仕組みは従来から存在しているので、これが「特別指導」に当たるとは思えません。
労災認定の報道
その後朝日新聞の2018年3月4日の報道で、男性社員の過労自殺が労災認定されていたことが明らかになりました。
この報道では「特別指導は過労自殺の労災申請が端緒だった」と書かれています。*2
当然、なぜ昨年の「特別指導」公表の際に労災認定を公表しなかったのかという疑問が浮上することになりました。
これを受けて書いたのが先ほどのブログの記事です。
企業名公表制度では、労災支給決定が要件の一部になっている一方で、公表内容は
ア 企業名イ 長時間労働を伴う労働時間関係違反の実態ウ 局長から指導書を交付したことエ 当該企業の早期是正に向けた取組方針
となっています。(平成29年1月20日付け基発0120第1号)
そのため企業名が公表されても労災認定の有無等については公表されないのだと思われます。
しかしそもそも「特別指導」そのものが「働き方改革」を進めたいがための恣意的運用ではないかとの疑惑がもたれています。この点は以前のエントリーを書いた際に気を付けるべきでした。
なお、この「労災が端緒である」ということに関しても、それ自体は「特別指導」の理由とは思われません。企業名公表制度でもそうですし、「過重労働解消キャンペーン」における重点監督では「過労死等に係る労災請求が行われた事業場」を対象とすることが明言されています。労災認定ではなく労災請求です。
また定期監督で対象事業場を選定する際に、労災申請状況も勘案されます。
すなわち「労災が端緒」であることも当然ですが、さして特別なことではありません。
「特別指導」の何が特別なのか分からないということは、以前書かせていただきました。(野村不動産への「特別指導」とは何ぞや - ぽんの日記)
まとめると、局長による指導であることも、経営トップに対する全社的な指導であることも、労災を端緒とすることも、どれも「特別」というほど真新しいことではありません。
やはり「公表基準を満たさないのに公表したこと」くらいしか「特別」の理由が見当たりません。