ぽんの日記

京都に住む大学院生です。twitter:のゆたの(@noyutano) https://twitter.com/noyutano

中学生がバーテンダーで働く/アニメ『ヒナまつり』

4月から放送しているアニメ『ヒナまつり』の作中で、中学生がバーテンダーとして働く描写が出てきます。

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時給は1,500円だそうです*1。いえ、そうではなくて中学生を夜の店で働かせるのは犯罪です。未成年者の飲酒・タバコは犯罪です、みたいなことをいちいち述べるのは無粋かもしれませんが、一応ね。

 

年齢制限

まず最低年齢の規定があります。

56条(最低年齢)

使用者は、児童が満十五歳に達した日以後の最初の三月三十一日が終了するまで、これを使用してはならない。

なお、工場や鉱場、建設現場等以外の事業、いわゆる非工業的事業に関しては例外があります。「児童の健康及び福祉に有害でなく、かつ、その労働が軽易なものについては、行政官庁の許可を受け」れば、満13歳以上の中学生を働かせても構いません(56条第2項)*2

 

年少者(18歳未満)を雇う場合には年齢証明が必要です(57条)。

中学生を働かせる場合は、修学に差し支えないことを証明する学校長の証明書と親権者の同意書も必要になります(57条2項)。なので、たとえば中学生に新聞配達の仕事をさせようと思ったら、労基署長と校長と保護者の許可をもらえばよいということですね。

 

この56条2項によって児童を使用許可を得たのは、2016年は全国で357件でした。1990年は7,902件だったので、大きく縮小していますね。

かつて児童労働が多かった1960年には、監督行政が重点を置く課題のひとつでした。1964年には、新聞配達業務に従事する15歳未満の児童が約18万人にも及び、3月に「新聞配達に従事する年少者の労働条件改善指導要綱」が策定されます。これに基づく指導や業界団体への要請の結果、日本新聞協会が日曜夕刊の廃止を決定した経緯がありました。

 

話を戻しますと、労基署長や校長や保護者の許可を得られれば、中学生を就労させることもできるということですけれど、就かせられる仕事には制限があります。

年少則9条で定められた業務は、許可が下りません。具体的には

一 公衆の娯楽を目的として曲馬又は軽業を行う業務
二 戸々について、又は道路その他これに準ずる場所において、歌謡、遊芸その他の演技を行う業務
三 旅館、料理店、飲食店又は娯楽場における業務
四 エレベーターの運転の業務
五 前各号に掲げるもののほか、厚生労働大臣が別に定める業務

となっています。

バーの仕事は三に該当するので、就労許可を得ることができないわけですね。

 

労働時間の制限

そもそも中学生を夜のバーで働かせることはできませんが、仮に許可が得られるような業務だったとしても、労働時間の制限が一般労働者より厳しい事には注意が要ります。

 

深夜業の禁止でいうと、満18歳未満の人を午後10時~午前5時に就労させてはいけません。中学生以下の児童の場合はもっと厳しくなって、午後8時~午前5時が禁止になります(61条)*3

 

中学生の場合には修学時間との兼ね合いも問題となります。

一般の労働者の法定労働時間は1週40時間、1日8時間ですが、15歳未満の児童の場合にはこれが修学時間を含んだ規制となります。1週については「修学時間を通算して1週間について40時間」、1日については「修学時間を通算して1日について7時間」です(60条)。

 

強制労働

前述の条文は働いてはいけないというものではなくて、働かせてはいけないという条文です。法律を守らなければならないのは使用者です。

 

アニメの中でも無理やり働かせようとしてますし、そういう意味では強制労働(5条)が成立するのかもしれません。

もし5条違反が成立した場合、労基法違反の中ではこれが最も重い罰則となります。

これまで見た56条(最低年齢)は1年以下の懲役または50万円以下の罰金、61条(深夜業の禁止)は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金でしたが、5条(強制労働の禁止)違反は1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金です。

 

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第3話より。「この写真、学校に送ったらどうなるかしら?」と脅迫する場面。

 

第五条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

 脅迫等によって無理やり働かせてはいけないということです。

 

ここでの脅迫は刑法222条に規定する脅迫だとされており、労働者に恐怖心を生じさせる目的で、本人またはその親族の生命、身体、自由、名誉または財産に対して害を加える意思がある旨を通告するを言います。必ずしも積極的な言動である必要はなく、暗示する程度で足りるとされます(昭63.3.14基発第150号)。

 

「労働者の意思に反して労働を強制」するというのは、労働者の自由意思に基づかないで、という意味です。労働契約を締結する意思がないのに労働させることはもとより、労働者が離職や休業を希望しているのに労働を強制することも含まれます。

*1:アニメ第3話参照

*2:映画の製作・演劇の事業は13歳未満も可

*3:厚生労働大臣の認可による例外あり。労基法は子役を守ってくれない? 児童労働の規制緩和が進行中(今野晴貴) - 個人 - Yahoo!ニュース