常用労働者(常雇)、あるいは臨時雇、日雇をどうカテゴライズするかという定義の問題。
近年、統計の定義変更が行われたのでそれを確認する意味も込めてですが、古い定義も含めて見ておきます。
2種類の定義
常用労働者の定義は2種類あります。
総務省系の世帯調査と、厚労省などが実施する事業所調査で、常用労働者の定義が異なっています。
前者は、労働力調査(労調)や就業構造基本調査(就調*1)で、かつては「常雇」「臨時雇」「日雇」の3区分を「従業上の地位」として尋ねていました。
「地位」とありますが、尋ねているのは雇用契約期間です。契約期間の長さで「地位」を判断していたということですね。
そしてここでの「常雇」は無期雇用もしくは、「1年を超える」期間の雇用契約を指します。
労働力調査
労働力調査の用語の説明を拾っておきましょう。後述のように、2018年1月以降は労調の調査票が改訂されますが、それ以前の定義は次のようでした。
常雇 : 「役員」と「一般常雇」を合わせたもの
一般常雇 : 1年を超える又は雇用期間を定めない契約で雇われている者で「役員」以外の者
無期の契約 : 「一般常雇」のうち,雇用契約期間の定めがないもの(定年までの場合を含む。)
有期の契約 : 「一般常雇」のうち,雇用契約期間が1年を超えるもの
臨時雇 : 1か月以上1年以内の期間を定めて雇われている者
日雇 : 日々又は1か月未満の契約で雇われている者
なお、労調において、常雇を有期と無期で区別するようになったのは、2013年1月以降のことです。
2013年1月改訂の調査票
それ以前の調査票(2010年11月)
この2013年1月の改訂の際に、「調査票の記入のしかた」に以下の注意書きが加わりました。
もちろん、それ以前からずっと雇用契約期間を尋ねているのですが、有期契約の更新で働き続ける人も多くなってきたなかで、誤って勤続年数で回答してしまう人も少なくないのでしょう。また別途書きますが、契約期間が曖昧になっている人もかなり存在しますので。
そしてすでに述べたように2018年1月以降は、「従業上の地位」ではなく、「雇用契約期間」として調査するようになりました。
これまでの「常雇」「臨時雇」「日雇」の区別も雇用契約期間によって判断していたので、選択肢に「わからない」が加わったことを除けば、時系列比較は問題ないようにも思えます。
ただ、「従業上の地位」として尋ねていたのと「雇用契約期間」を尋ねるのとではやはり大きいようで、「単純な時系列比較をすることはできません」と注意書きがなされています。
「労働力調査の結果を見る際のポイント No.19」からいくつか表を抜粋しておきます。
事業所調査(毎勤、賃金センサス、経済センサスなど)
労働力調査や就業構造基本調査の定義からすると、毎勤などの事業所調査の定義は、かなりややこしいです。
雇用契約期間に着目するのは同じですが、「1年超」を「常用」の定義とする前者に対し、後者の定義は「1か月超」に過ぎません。労調での臨時労働者は、毎勤では常用労働者になるのです。
しかもかつては、単に契約期間で区別するだけではなく、短期の雇用契約については、労働実態からも判断をしていました。
すなわち、臨時・日雇労働者であっても、「前2カ月の各月にそれぞれ18日以上雇われた者」は常用労働者に含めていたのです。
ただでさえ労調や就調の定義より広いのに、さらに労働実態からも判断して「常用」の定義を拡大していると言えます。
少々ややこしい定義ではあったわけですが、「統計調査における労働者の区分等に関するガイドライン(平成27 年5月19 日各府省統計主管課長等会議申合せ)」によって、定義が見直されることになりました。
毎勤では2018年1月から新定義が採用されています。
変更点は、実労働日数についても判断していた部分をなくして簡素化したことと、「常用」の定義を「1か月超」から「1か月以上」に変えたことです。
上図だと「世帯・個人を対象とする統計との整合性を確保」とありますが、労調・就調の常雇のかつての定義のように、1年超を「常用」としたわけではありません。
労調・就調では「1か月以上」の区切りだったのに、毎勤・賃金センサスでは「1か月超」の区切りを採用しているという点に関しては統一がなされたといえます。
法令との関係
契約期間について規定しているのは、労基法14条です。
2003年改正(2004年施行)以前の旧規定では、1年超の契約期間が原則禁止でした。
第十四条 労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、一年(…略…)を超える期間について締結してはならない。(以下略)
「1年を超える期間」を原則として禁止しているので、労調が「1年を超える又は雇用期間を定めない」を常雇と定義していたのは、ここから来ているのかもしれません。旧14条のもとでは、「1年超」の雇用契約は多くを無期雇用とみなしても、それほど差し支えないでしょう。
しかしながら、1998年改正*2で、3年の例外*3が設けられたことや、2003年改正*4で、原則3年、例外5年*5に変わったことは、とくに統計上の定義には取り込まれていません。
前述したように、労調が「一般常雇」の有期と無期を区別するようになったのは、2013年1月以降のことです。
では、これまでの事業所調査で「1か月超」を基準にしていたのはどうしてなのか。
これはたぶん、労基則55条由来なのでしょう。
賃金台帳について、「常時使用される労働者(一箇月を超えて引続き使用される日々雇い入れられる者を含む。)」と「日々雇い入れられる者(一箇月を超えて引続き使用される者を除く。)」で異なる様式を指定しています。
「常時使用されている労働者」には「一箇月を超えて引続き使用される」日雇労働者も含まれます。毎勤の「常用」の定義に、「前2カ月の各月にそれぞれ18日以上雇われた者」があったのはこのあたりの関係ではないでしょうか。
逆に言うと、2018年1月からの定義変更で「1か月以上」と簡素化された定義になったことで、法令上の「常時使用される労働者」の概念とはやや乖離することになりました。
この定義を採用しておくことの実務上のメリットがあまりないということなのかもしれません。