ぽんの日記

京都に住む大学院生です。twitter:のゆたの(@noyutano) https://twitter.com/noyutano

健康診断違反率の推移

労働安全衛生法の違反率 - ぽんの日記の記事の続きです。

 

労働安全衛生法(安衛法)66条は定期健康診断の義務を規定しています。

例によって定期監督での違反状況の推移を見ると次のグラフのようになります*1

 

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なにかトレンドがありそうですが、それを解説してのけるだけの力量が私にない……

 

安衛法66条は健康診断関係の条項をまとめて詰め込んだような印象があって、細かく見ていくとそれだけ複雑になります。

まず66条の1から66条の10まであるんですね。「働き方改革」関連法案のなかでも「労働時間の状況の把握」が66条の8の3として新設されることになっています。

 

健康診断の種類としても①一般健康診断、②有害業務に従事する労働者に対する特別の項目についての健康診断、③一定の有害業務に従事した後、配置転換した労働者に対する特別の項目についての健康診断、④有害業務に従事する労働者に対する歯科医師による健康診断、⑤都道府県労働局長が指示する臨時の健康診断。

関連する省令も労働安全衛生規則、有機溶剤中毒予防規則、鉛中毒予防規則、四アルキル鉛中毒予防規則、特定化学物質障害予防規則、石綿障害予防規則、高気圧作業安全衛生規則、電離放射線障害防止規則、除染則と幅広くあります。

 

定期監督の違反事業場数は全体の事業場数だけでなく、各規則ごとの違反事業場数も把握できます。

一方で罰則の条文ごとには把握できません。66条関係のなかで罰則があるのは66条第1項~4項、66条の3、66条の6ですが、それぞれの件数の内訳は分かりません。

 

66条第1項~第3項は健康診断実施義務を定めた条文。

66条第4項は都道府県労働局長が臨時の健康診断の実施の指示を出せるという規定で、この指示に従わなかった場合に罰則があります。

66条の3は健康診断の結果を記録する義務。

66条の6は健康診断結果の通知義務です。

 

 

定期健康診断実施義務の概要

健康診断は雇入れ時や1年以内ごとに1回定期的に行わなければなりません。また一定の有害業務に就く場合には、配置転換時や6か月以内ごとの健康診断が義務となっています*2

健康診断で異常な所見があった場合には医師等の意見を聴き(66条の4)、事後措置*3を講じなければなりません(66条の5)が、これらの条項については罰則は科されていません。

 

働きすぎの健康対策としては、深夜業従事者*4が自発的に受けた健康診断結果の提出*5、時間外・休日労働が1か月100時間を超える者への面接指導の実施*6ストレスチェックの実施*7が挙げられます。

 

法改正の経緯*8

1988年の安衛法改正で第7章の標題が「健康管理」から「健康の保持増進のための措置」に変わりました。より積極的な健康確保対策が目指されたと言えます。その後も過労死予防等の文脈から、いく度か改正がなされています。

 

1996年改正では、前述した医師の意見聴取義務(66条の2、現66条の4)適切な事後措置を講じる義務(第66条の3、現第66条の5)が設けられました。そのほか一般健康診断結果の労働者への通知義務や、その結果に基づいて医師又は保健婦等による保健指導を行う努力義務も規定されました。

 

そして1999年の改正時に深夜業従事者が自発的健康診断の結果を事業者に提出することができる旨が規定されています。 

また2002年の「過重労働による健康障害防止のための総合対策」(基発0212001号)においても健康診断の実施等の徹底が謳われています。

 

2005年の改正では時間外労働等が一定時間を超える労働者に対して医師による面接指導を行わなければならないとされました(66条の8)。健康診断結果の通知義務が特殊健康診断にも拡大されたのもこの時です(66条の6)。

さらに2014年の改正でストレスチェック(医師、保健師等による心理的な負担の程度を把握するための検査)の実施が義務化されました。

 

 

 

 

kynari.hatenablog.com

 

 

*1:1976、77年については有機溶剤中毒予防規則等の各省令ごとの違反事業場数を合計したものであり、連続性がない点は注意

*2:四アルキル鉛業務は3か月以内

*3:就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等

*4:常時使用される労働者で自発的健康診断を受けた日前6か月間を平均して1か月に4回以上深夜業に従事した者

*5:安衛法66条の2。提出を受けた事業者は、特定業務健診の場合と同様、医師からの意見聴取、健康診断実施後の措置、健康指導等の事後措置を講ずる義務がある(平12.3.24基発第162号)

*6:66条の8。また66条の9では面接指導の対象者以外でも、健康への配慮が必要な者への必要な措置を講じる努力義務を課している。

*7:66条の10。労働者数50人未満の事業場は当分の間努力義務。

*8:濱口桂一郎[2004]『労働法政策』ミネルヴァ書房、238頁以下を参照