ぽんの日記

京都に住む大学院生です。twitter:のゆたの(@noyutano) https://twitter.com/noyutano

監督官 職員録から

内容的に連続しているわけではないですが、前回の続きとなります。

今回は『労働行政関係職員録』を使います。

 

kynari.hatenablog.com

 

 

集計について

使用したのは『労働行政関係職員録』労働新聞社発行、各年版(以下、『職員録』となります。職員名簿ですね。

 

もちろん、統計書の類ではないのでそのままではグラフは作れません。どうしたかというと、、、数え上げた。それだけですけど。

作図した年次がバラバラなのは資料入手の問題です。

 

分類について

数が多いので、集計は労働基準行政に絞りました。局についても部分的に集計しましたが作図はしていません。以後の記述はすべて署の職員に関するものとしてください。

 

分析方法ですけれども、『職員録』に記載のある各個人について、職名と所属部署に基いて、それぞれ分類して集計しました。表記ゆれが多くみられるのですが、それは集計のために表記を統一しています。たとえば「労災保険給付調査官」「労災給付調査官」「給付調査官」等は「給付調査官」に揃えました。*1

なぜ職名による分類と、所属による分類をそれぞれ試みたかというと、非監督業務に従事する監督官が存在する(と指摘されている)ためです。2009年度?から「新人事制度」が始まり、技官、事務官の採用を止め、監督官を充てるようになったとも言われます。そのため職名と所属の両方を使って分析することにしました。*2

 

特に近年顕著になっていると思いますが、職名については併任・兼任が少なくありません。ここでは最初に書いてある役職を主務と判断して分類しました。

分類カテゴリーは「管理」「監督」「安衛」「労災」「その他」に分けました。

 

「管理」:署長、副署長(次長)、課長などの(中間)管理職。支署長、駐在事務所長もここに含みます。

「監督」:監督官、監督係長など。

「安衛」:安全専門官、衛生専門官、技官、放射線管理専門官など。

「労災」:給付調査官、労災認定調査官、補償係長など。適用指導官等もここにカテゴライズしました。

「その他」:業務係長、業務主任、庶務係長、庶務主任、事務官、その他です。

 

 

以上の職名分類とは別に、所属部署についても分類しています。課の名称から判断しました。

まず署には方面制署と課制署があります。規模の大きい署は前者を採り、業務課、労災課以外の課を置かず、方面係が監督・安衛業務を担うようです。1965年に始まったとされます。

後者の課制署ですが、こちらは2010年10月に課名の変更が行われました。理由は「分かりにくいといったご意見などがあるため」*3とのことです。名称変更は以下のとおりです。

・3課体制の場合

(現行) (変更後)

第1課 → 監督課・・・(監督及び庶務業務担当)

第2課 → 安全衛生課・・・(安全衛生業務担当)

第3課 → 労災課・・・(労災業務担当)

・2課体制の場合(※)

(現行) (変更後)

第1課 → 監督課・・・(監督及び庶務業務担当)

第2課 → 労災・安衛課・・・(労災及び安全衛生業務担当)

※ 労働基準監督署によっては、第1課が安全衛生業務を担当している場合があります。

 

『職員録』の集計にあたっては、以下のようにカテゴライズしました。

「監督」:第1課、監督課、方面(主任監督官)*4

「労災」:第3課、労災課、労災第1課、労災業務課等

「監督・安衛」:監督・安衛課

「労災・安衛」:労災・安衛課、2課制署の第2課

「安衛」:3課制署の第2課

「支署・分室等」:支署、分室、分庁舎、駐在事務所

「その他」:業務課、庶務課などそれ以外の部署。署長も部署の所属はないので、「その他」に含めます。

 

 

 

 

職名による分類

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「管理」は課長級以上を示します。この層の変動は少なく、漸増となっています。この点は前回の予算定員データで確認したのと整合的です。

 

「監督」は増加、「労災」も変動を含みつつ、増加と言えるでしょうか。

労災は適用が減って、補償に軸足がシフトしています。具体的には適用指導官(保険関係成立手続、保険料の認定、労働保険に関しての中小事業主の指導等が所掌事務)がめっきり減り、労災認定調査官(「脳血管疾患及び虚血性心疾患に係る事案その他の複雑困難な事案」認定のための調査を担う)が増えています。

いわゆる労災未加入問題が解決されたわけではないでしょう。ですが、その問題よりも複雑な労災請求事案の処理が焦眉の急ということのようです。

 

もっとも、事務官を「その他」に分類していることには注意が必要です。労災課に所属の事務官であれば、労災補償業務を担っているはずです。

数字の上では、この「その他」の層の減少が著しくなっています。事務官の存在感がなくなっている。もともと減少基調でしたが、とくに00年代後半にめっきり減りました。

 

作図していませんが、ここ数年の傾向としては、再任用者の増加が挙げられます。多いのは監督業務より労災業務のようです。2019年の数字では監督官の再任用は26名ですが、労災業務(すべて給付調査官)では103名に上ります。これは2016年には55名でした。もっとも、『職員録』が再任用の情報を漏らさず記載しているかは分かりません。

 

 

なお、上記グラフの内訳は以下の通りとなります。

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所属先

課の数がそれぞれいくつあるかの推移を示したのが次の図です。支署・分室等は含みません。方面係の存在はうっかりした。

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労災課が増えてますが、労災・安衛課が減っているので、和としては横ばいとなっています。「労災・安衛」の括りよりも「監督・安衛」のパターンが多くなっています。

「その他」の部署も減っていません。業務課・庶務課は部署数としては減っていないということを意味します。

 

 

では所属部署ごとの人員数を確認します。それぞれの部署の職員について、前述の職名カテゴリーで分類したものです。

 

監督課および監督・安衛課について見たのが次の図です(すみません。紛らわしいですが、こちらは方面係の人員数を含んでいます)。監督関係部署においては、当然ながら「監督」従事者が多くなっています。一方でかつては「安衛」「その他」が一定数存在していましたが、現在ではかなり少なくなっています。事務官・技官が減ったのでしょう。

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次は安衛課です。こうして見ると、「監督」が確かに増加しています。いわゆる「安衛配置監督官」かと思います。

安衛配置監督官については、以前ブログで少しだけ取り上げました。

 

安衛配置監督官 - ぽんの日記

 

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労災課はどうでしょうか。下の図がその一端です。2016年のところで、監督官が増えています。ただそれ以上に「労災」が増えています。大きく減ったのは「その他」です。事務官が減って、給付調査官が増えたといったところでしょうか。

 

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最後に「その他」の部署です。「その他」部署の「その他」職員はほぼ消滅したと言っていいほどです。すなわち業務課・庶務課所属の事務官です。残ったのはほとんど「管理」職員。(すみません。ここも紛らわしく「その他の課」と書いてしまってますが、署長、副署長もここに含まれます。)

さきほど部署数としては業務課の数は減っていない、と書きました。でも事務官は減っています。その結果何が起きたかというと、部下ゼロ課長一人の業務課が多数になりました。

もっとも『職員録』では派遣社員などの非正規は記載されていないので、実際に部下なしかどうかまでは判明しません。

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比較

最後に前回の予算定員データと『職員録』、および監督年報の比較の表を載せておきます。予算定員、『職員録』は2016年度の数字です。

てか、厚労省のページにアップされている労働基準監督年報は、未だ平成28(2016)年版までしか無いんですけど。

 

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*1:「給付調査官」には労災保険だけでなく雇用保険もあるが、今回は基準行政に対象を絞っているため、集計上の問題はない

*2:もっとも、転官(身分を変えて勤務)して監督官が事務官として勤務しているのであれば、外からは判別できない。職名による集計ではそこまでは把握できない。

*3:厚生労働省報道発表資料「労働基準監督署内の課名を分かりやすく変更します」平成22年9月14日付https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000r4ii.html

*4:方面制では第2方面係が安衛を担当する(全労働省労働組合編[1976]4頁「用語解説」)。しかし『職員録』では各方面ごとの人員数が把握できない記載であることが少なくないため、ここでは「監督」に含めることにした。