ぽんの日記

京都に住む大学院生です。研究とは関係ないことも気ままに書いていきます。twitter:のゆたの(@noyutano) https://twitter.com/noyutano

労働基準監督官による調査はもうやめたらどうか

裁量労働制の労働時間のデータについて、疑義どころか捏造の疑いすら上がっていますが、今日の朝日の記事によれば、そもそも異なる質問事項への回答を比較していたようです。ますます答弁の杜撰さが浮き彫りになっています。

 

headlines.yahoo.co.jp

 

問題になっているのは2013年に実施された「労働時間等総合実態調査」。

ただ、国会答弁や審議もそうなのですが、そもそも監督官がこの種の調査を担っていること自体も見直すべきではないかとも思います。

以下、感じたことを記しておきます。

 

調査方法が不明

一番の問題は調査方法からして、不明瞭な部分が多いように思います。

調査結果には調査票が添付されておらず、どのような事項をどのように尋ねたのか明らかでありません。統計法の調査と違って業務統計資料だからなのでしょうが、調査結果を積極的に公表しようという姿勢もあるようには思えません。

調査対象の抽出率、有効回答数など、通常の調査であれば明らかにすべき基本的な項目も、よく分かりません。

 

客観性、中立性は保たれているのか

実態調査である以上、正確な実情を把握することに主眼を置くべきだと思います。しかしこの調査は監督官が事業場を訪問することにより調査を行っています。

 

通常の監督官の業務は「臨検監督」などと呼ばれるもので、事業場を予告なく訪問し、法の遵守状況をチェックします。

一方、今回の調査のようなものは「調査的監督」と呼ばれています。臨検監督に際して、同時に実態調査を実施するというものです。調査的監督はこれまでにも繰り返し実施されているものですが、職場に介入する権限のある監督官が同時に実態調査を担うというのは、調査の中立性等の問題はないのでしょうか。

 

監督官が担うメリットは?

実態調査そのものには意義があるのかもしれません。しかしそれを監督官が行うことにはどれほど意味があるのか。別に厚労省の統計情報部から直接調査票を送付しても良いわけですから。

むしろ業務負担を増大させている懸念を覚えます。実態調査とはいえ「調査的監督」である以上、それは「監督」なのです。件数としては「定期監督」としてカウントされます。

今回の調査は11,575事業場を対象としたそうですが、2015年の「定期監督等」件数は133,116件です。ということは年間の定期監督の1割ほどのリソースを割いている計算になります。

ただでさえ監督官の不足が叫ばれ、効率的に臨検監督を行うことが模索され、違反の疑いが高い事業場を優先的に監督しているのが現状です。しかし調査的監督は無作為抽出ですから、優先度の高い事業場を選定しているわけではありません。

 

もし監督官がこの手の調査を行うのであれば、違法状態の発生要因の分析とかをしてほしいものです。

労働経済学の研究では、労働組合の有無が労働条件にどのように影響を与えるかといった研究があります。ただ違法の有無やどのような違法が多くなるかという研究はないでしょう。監督官の役目のひとつは違法のチェックにあるわけですから、どのような企業で違法が発生するかという分析なら、今後の監督方針の策定にも資するはずです。

過去には建設業への一斉監督などで、元請・下請や事業場規模で違反率の高さを比較したような監督結果は公開されたことがあったと思います。こういうのをもっと詳細にやるとかなら、監督官が調査する意義があるのではないでしょうか。

 

どんなサンプリングをしているか

前述したように、今回の調査では抽出率も良く分かりません。調査対象の説明を読むと「業種・規模・地域別事業場数を勘案」したことと、「専門業務型裁量労働制導入事業場及び企画業務型裁量労働制導入事業場を優先的に選定」したということくらいしか書かれていません。

過去に行われた調査的監督も似たような感じだったかと思います。

 

ただ1992年の『労働法学研究会報』(第1876号)で、当時監察監督官だった笹川靖雄氏が紹介している調査結果には、調査対象事業場の情報が比較的詳しめに載っています(調査は1991年)。そもそも紹介している調査の調査名もはっきり記載されていないのですが、全国の監督官によって実施された調査ということですので、調査的監督と見て差し支えないと思います。

 

それによると業種・規模別の調査対象事業場数は以下の通りです。

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「69」という数字が多いのが目につきます。

なぜ69なのかは不明ですが、業種・規模を考慮して選定するというのは、母集団分布を意識しているというよりは、各カテゴリーで一定数のサンプルを確保するという意味なのだと思います。69という数字も各都道府県労働基準局や監督署に割り振る関係で出てきた数字かもしれません。

 

母集団分布を考慮していないので、抽出率を計算すると各カテゴリーで大きな差があります。以下の表は調査対象事業場数を母集団で除して百分率を出したもの。

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もちろん、すべての調査的監督がこのような抽出方法を用いているかどうかは定かではありません。

以前にも書いた1968年の労働省労働基準局『商店、サービス関係業種労働時間実態調査結果報告書』では下表のような抽出率です。1991年の調査と違って、抽出率を定めて調査しているようです。

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