待機児童についてのことを以前少し書いたのですが、「潜在需要の掘り起こし」という観点から再整理しておきます。
保育所の潜在需要について
保育所の定員数を増やしても、新たに入所申し込みを行う人が増えてしまうため、待機児童が減らない、あるいは増えてしまうといったことがあります。「潜在需要の掘り起こし」とも呼ばれる問題です。
以下の図は前田正子『保育園問題』*1の表を参考に作成したものです。
保育所の入所定員は増加しているのですが、それと軌を一にするように保育所の入所申し込み数も増えていることが分かります。
ただ、この現象を指して、潜在需要の刺激、掘り起こしと表現するのは、間違ってはいないけれど、私としては違和感を覚えるところです。
定員数と入所申込件数の推移が(もちろん待機児童が発生してしまってはいますが)キレイに一致しすぎじゃないかと。そもそもなんでこんなに定員と申込が釣り合っているのかと。
需要の抑圧の問題
少し視野を広げて考えてみるならば、「潜在需要」という言い方は自治体ないし国側の目線であって、そもそも「需要の抑圧」が先にあるのではと思います。抑圧という表現がキツければ、需要の抑制くらいに思ってください。
このグラフは70年代以降の京都市の保育所入所状況を図示したものです。*2
「待機児童」という言葉が使われる以前、京都市では「保留児童」「保留件数」という言い方で入所できなかった児童の数を数えていました。これは申請件数*3から入所件数を差し引いたものです。
単純に申請マイナス入所で算出した数字なので、今の待機児童の数え方とは異なっています*4。
グラフを見ると明らかなように、保留児童のピークは70年代です。これは団塊ジュニア世代が生まれたあたりなので、子どもの数が多かったのが関係しているでしょう。
同時に気になるのはその後です。80年代半ば過ぎになると、入所申込件数(「入所件数」+「保留件数」)がそれまでと比べて極めて安定的に、それも入所定員にほぼ均衡する形で推移してます。
このような現象が自然発生的に生じるというのは、にわかには信じにくいところです。申込件数は保育のニーズの変動に合わせて推移すると考えるのが普通でしょう。入所定員に合わせて推移することにはならないはずです。
ということは、入所申込の段階で保育ニーズの抑制がなされているのだろうと推察されます。
私は「保活」の具体的なプロセスやメカニズムは詳しく知りませんが、この過程で保育所を利用したいと思っているのに、入所申込を行わない人が相当数発生しているのではないでしょうか。
だとするなら、保育需要の抑制が生じているということです。需要の抑制を発生させておきながら、「潜在需要の刺激」と表現するのは、あまり適切ではない気がします。